Part1ではフェルスタッペンとハミルトンの優勝争い、水を開けられてしまったフェラーリについて取り上げたが、本ページでは戦略が大きな役割を果たした中団争いにフォーカスしてみよう。
1. ベストレースが続くアロンソ
前戦USGPでは圧倒的なペースでアクシデントから挽回したアロンソ。今回もスタートでボッタスの前を抑えると中団トップを懸けたレースを完全に支配した。図1にアロンソ、ボッタス、オコンのレースペースを示す。
序盤はアロンソのDRS圏内にボッタス、その直後にオコン、ノリスと続き、しばらくは14番手のベッテルまでがダーティエア内での走行となった。
しかし毎周じわじわとペースを上げるアロンソに対し、10周目を過ぎるとオコン以下が、20周目付近からはボッタスもついていけなくなり、ピットストップのタイミングを迎える前にはアロンソのアンダーカットレンジ内には誰もいなくなった。
これにより、ボッタスのピットストップを見てから動けば良い状態となり、ボッタスの40周目に相手と同じハードタイヤ(以下ハード)に交換した。このタイミングであればソフトタイヤ(以下ソフト)も選択肢ではあるが、目標は最速で走り切ることではなく、あくまでボッタスの前でフィニッシュすることだ。したがってライバルより1周新しい同じコンパウンドを履いておくのが最も確実な選択だ。
アロンソからは「ピットストップを行ったサインツに抜かれる際にタイムを失いたくない」旨の無線が入っていたが、エンジニアは「メインはボッタス」であることを説明し、ボッタスより後で入ることを最優先したチームの判断は正しかった。
そして、第2スティント序盤ではスローなペースでタイヤを労わっていたが、48周目からペースを上げるとオコンを引き離し、52周目にはその差は10秒に開いていた。しかし53周目からパワーユニットのトラブルによりスローダウン。64周目にはリタイアとなってしまった。
ちなみに第2スティントでのアロンソとオコンのペース差は0.5秒程度だったため、仮にリタイアしていなければレース終了時には約20秒の差がついていたことになる。となると仮にリカルドが角田を接触せずに順調に追い上げてきても10秒近く前でフィニッシュしていた計算になり、今回も内容的には100点満点のレースだった。
2. リカルドの印象的な追い上げ
昨年からノリスに完敗が続いているリカルド。当サイトのレースペース比較でも今年の年間平均で0.6秒差がついており、これはウィリアムズ勢と並ぶ大差だ。
しかし今回は予選からノリスに接近。レースでも序盤からライバル勢に食らいつき、競争力を見せた。図2にリカルドとオコンのレースペースを示す。
ミディアムタイヤ(以下ミディアム)でスタートし、第1スティントでは角田の後ろに引っかかっていたが、32周目付近から前が開けるとペースアップ。44周目のピットストップまでタイヤを持たせた。
ここでソフトに履き替えると猛然とスパート。50周目には角田と接触してしまい10秒ペナルティを取られるが、ハードでペースに苦しむライバル勢を続々と交わし、61周目にオコンを交わしてからは1周1秒以上のペースで引き離した。これによりその差を10秒以上としたことで、ペナルティにも関わらず順位を維持。中団最上位の7位を獲得した。
実はこの追い上げの背景を辿っていくと、その源にあるのはノリスが31周目にハードを装着したことだったと思われる。
アロンソvsボッタスにて前述した通り、「後ろを走っているドライバーが先にピットに入ったら同じタイヤを履いておけば抜かれない」という一種の戦略セオリーがある。
今回はノリスがハードを選択したことでノリスの前をキープしたいオコンもハード、オコンの前をキープしたいボッタスもハード、ボッタスの前をキープしたいアロンソもハードを選択するという連鎖反応が起きたと考えられる。(※「おまけ」にて補足)
当サイトのレースペース分析では、ロングランペースでもソフトはハードより0.5秒ほど速く、路面温度の関係もあり各チームの予想とは異なる反応を示した。これにより、リカルドが1人で「あたり」を引けたことは追い上げに大きく寄与したと言えるだろう。
また上記レースペース分析では純粋なペース面でもノリスと互角だった。これは今季初めてのことだ。シーズン終盤に来てリカルドがペースを発揮したことは非常に興味深い。
角田との接触はやや強引すぎ、100点満点のレースとはいかなかったが、来季以降のシート獲得に暗雲が立ち込める中、内容的にも結果の面でも今季ベストのレースを見せたことは多くのF1ファンにとって感慨深いものだったのではないだろうか。
おまけ
ノリスから始まったハード選択の連鎖反応。しかし、この中でボッタスは、アロンソを狙うためにソフトでも良かったのではないかとも思える。
ただし、最後まで持たなかった場合はオコンやノリスに抜かれるリスクがあり、最近のアルファロメオにとっては1点も貴重であることも踏まえれば、ハードという選択そのものはコンサバだが理解できるものだ。
しかしオコンやノリスの前に留まるための戦略が結果的には2台に抜かれてしまうこととなった。
問題はハードでのペースが遅すぎたことだ。当サイトのレースペース分析ではミディアムではオコンを0.1秒、マクラーレン勢を0.2秒上回っていたが、ハードではオコンより0.5秒遅いペースとなってしまった。
また、ピットタイミングも良くなかった。38周目にサインツに抜かれる際にタイムを失い、ピットアウト時にオコンに接近され、結果的に翌周抜かれてしまったのだ。ここでの0.8秒ほどのロスがなければ41周目に入るストレートでの攻防でも耐え切れたかもしれない。
Writer: Takumi