灼熱のフランスGPとなった今年のマニクール。序盤ではルクレールとフェルスタッペンが大接戦を見せたが、フェルスタッペンのタイヤ交換後にまさかのルクレールがクラッシュ。あとは各車が慎重に1ストップを実現させるレースになった。
そんなフランスGPを分析的視点を交えながら振り返ってみよう。
1. 異なるキャラクターによるタイトルファイト
今季のタイトル争いは2006年に近いものがあると筆者は感じている。
「スピード面で優れている側が信頼性の問題を抱えている」という点では2005年のルノーvsマクラーレンのようでもあるが、安定感のフェルスタッペンとアグレッシブなルクレールという点では2006年のアロンソvsシューマッハを彷彿とさせる。
思えば2006年も、バーレーンGPでアロンソvsシューマッハが大接戦を演じて幕を開けた。
そして2006年はオーストラリアGP、ハンガリーGP、トルコGPでシューマッハのアグレッシブ過ぎる面が悪い方に出てしまい、一方の今年はエミリア・ロマーニャGP、フランスGPでルクレールに同じことが起きた。
シューマッハとルクレールは、ドライバー全体の中では安定感に秀でたレース巧者であり、リスクマネジメントにも長けていると言って良いだろう。しかしアロンソ、フェルスタッペンとの相対的な比較では、ややアグレッシブなキャラクターとも言えるかもしれない。
詳細は2006年のシーズンレビュー(記事はこちら)に記したが、シューマッハは「敗北を受け入れない」キャラクターであり、攻めるべき場面を見極める状況判断そのものは的確であるものの、それ以上攻めればリスキーという場面でも手綱を緩めない所があった。これは「あり得ない勝利」を可能にするものであると同時に、ポイントを失うリスクも内在する特性だ。そして結果的には「2位でいいや」「5位でいいや」走法ができるアロンソにポイントで負けてしまった。
同じことはルクレールにも言えるのではないだろうか?
無理をしなくても勝てる場面ではバーレーンGPやオーストリアGPのようにリスクを冒さない。しかしイギリスGPの終盤で、チームの戦略ミスによって抜かれていく展開になった際にかなり激しく抵抗したのには、筆者は少し引っかかった。
タイヤのハンディを覆す非常に魅力的なスーパープレイであると同時に、タイトル争いの渦中にいる者としてはリスキー過ぎるようにも思える。
上記動画の4:52では、縁石に乗ったペレスが挙動を乱しながら突っ込んでくる可能性もある。6:10ではコプス進入時点では後ろにいながら、ハミルトンに対して昨年のフェルスタッペンよりも少ないスペースしか与えずにオーバーテイクしており、昨年のフェルスタッペンと同じ結果になるリスクは決して低く無かった。
今回のレースの18周目も見えない敵とのバトルの場面であり、プッシュする価値は確かにあった。イモラでもペレスのDRSを得るギリギリの勝負で、攻めた先に見返りは僅かにあった。それを掴みに行くのがルクレールの個性と言えるだろう。
対するフェルスタッペンは正に2006年のアロンソのように、勝てるレースでは勝ち、勝てないレースでも着実に2位、3位を取りにくる。その結果着実にポイントを重ね、2位、3位のレースでフェラーリに信頼性や戦略の問題が出た時には優勝や2位をゲットしてきた。
このように両者のキャラクターは大きくはかけ離れていないものの、リスクテイキングに僅かな違いが見られる。そしてそこに善悪や優劣はなく、異なるキャラクターやメンタリティを持つドライバーがトップで競い合っているということが、このスポーツを”より一層”魅力的なものとしているのではないだろうか。
2. ”Fox”アロンソが仕掛けたゲーム
今回のレースで非常に見応えがあったのが、アロンソの”Fox(きつね)”ぶりだ。図1にアロンソとノリスのレースペースを示す。
第1スティントではじわじわとノリスを引き離していったアロンソ。しかしSC導入によってやや長めの第2スティントとなった中で、各車が1ストップを実現させるためにタイヤを労って走る展開となった。その中でアロンソは第2スティント序盤ではノリスを引き離さず、見た目上はノリスがDRS圏内に入ってアロンソに対して攻勢を築いていたように見えた。
だがこれはブラフだった。
24周目、アロンソはノリスとのタイム差について無線で知らされると「OK、これは長いレースだ。彼らが戦いたいなら代償を支払うことになるだろう。だから僕らは自分自身のレースをする必要がある。」とあっさり言い切った。さらに27周目にノリスがペースを上げて近づいてきた旨を知らされても「問題ない。彼らのタイヤを傷めつけるために近づけておきたいんだ。」と返した。(A)
その無線を聞いたのかマクラーレンはノリスに「長いゲームになる」と告げ、ノリスがペースダウン。アロンソのダーティエアの影響を減らそうと試み、31周目にはアロンソより0.3秒遅いラップとなった。それを知ったアロンソは「彼はゲームを理解したんだろう。ここからは平和な10周になる」と語った。(B)
しかし、この期に及んでもアロンソはプッシュせず、ノリスに合わせてペースを落としている。(C)
そして40周目を過ぎるとぐんぐんとペースを上げ、ノリスを置き去りにしていった。(D)
また、筆者が最も感銘を受けたのは、47周目にターン11でサインツに抜かれる際にイン側を守ったことだ。通常ならばレコードラインをキープしてサインツにイン側から抜かせた方が、コーナーの立ち上がりが楽になりタイムロスが少ない。
しかし、ここで気に掛けるべきはノリスとのタイム差ではなく、万一サインツがミスをして膨らんできて接触するリスクの方だ。
決勝でのルクレールを含め、フリー走行からターン11はコースオフが続出するトリッキーなコーナーだ。実際ジョウはバトル中にスナップオーバーを出してしまい、外側にいたシューマッハを弾き出してしまった。
1.でも述べた通り、アロンソは無駄なリスクを徹底的に排除する名手だ。10年以上前からイン側のドライバーがミスをするリスクをかなり慎重に評価していることが、バトル映像からも明確に伝わってきており、今回も見事な状況判断が光った。
ちなみにオコンとの比較においても、第1スティントで両者クリアエアの部分では僚友を0.4秒上回るペースを見せている。純粋なペース面・レースクラフト・リスクマネジメント全てにおいて卓越したパフォーマンスを見せているアロンソの今後の活躍が楽しみだ。
Writer: Takumi