オーストリアGPスプリントレースが行われ、フェルスタッペンが勝利を収めた。オーバーテイクが容易な今シーズンのマシンでは各車がある程度本来の力を見せて走っていたと考えられる。そこで、このレースから見えてきた知見をまとめ、より多くの事前情報と共に決勝を楽しむことを本記事の目的とする。
1. レースペース分析
図1にクリアエアで走れた各チームの代表的なドライバーのレースペースを示す。
殆どのドライバーはミディアムタイヤだが、アルボンはソフトなので注意が必要だ。
1.1. レッドブルvsフェラーリと「フェラーリの課題」
フェルスタッペンとルクレールは序盤からほぼイーブンペースに見える。フェルスタッペンがどこまで全力だったかは定かではないが、フェルスタッペンのデグラデーションが小さくはないことを考えると、そこまで大きな余裕があったわけでもなさそうだ。
また、序盤のルクレールのタイムから、最初に差が開いたのは、フェルスタッペンがDRSを気にしてプッシュしただけでなく、ルクレール側もタイヤマネジメントのために距離を空けたことが原因と考えられる。
しかしその後、意図がサインツと共有できていなかったのか、終盤勝負のつもりでペースを抑えていたと思われるルクレールに対してサインツがプッシュ。抜きつ抜かれつの展開となってしまった。
前戦のレビューで書いた通り、フェラーリが2台を平等に扱う哲学を持っているならば、それは批判するべきではない。レースやチャンピオンシップの結果よりも大事な美学がある、というならばそれは尊重されるべきだ。
しかし今回は、一方がペースを抑える中で後方にいるもう一方がプッシュして、2台でタイムとタイヤを浪費するという非常に無駄な展開であり、これはレース前のブリーフィングで共有しておくべきことだったのではないか?筆者はそのように考えている。序盤は2台揃って抑えて走り、自由にバトルさせるのが美学ならば、終盤ペースを上げてから状況を見てバトルさせれば良いだろう。
人は皆異なり、組織の有り様もまた千差万別だ。フェラーリにはフェラーリなりのやり方を追求しつつも、最終的に組織に関わるドライバーやスタッフたち、そして世界中のファンたちが少しでも笑顔になれる運営を期待したい所だ。
1.2. 単独のメルセデスと接戦の中団勢
さて、メルセデス以降のレースペースをフェルスタッペンとの差で見ると、ラッセルで0.5秒、オコンで1.3秒、ノリスで1.3秒、マグヌッセンで1.4秒となっている。
ハミルトンが終始集団の中でバトル状態だったため未知数だが、少なくともラッセルを見る限りは、レースペースではレッドブルやフェラーリには遅れをとっているようだ。それでも中団からは完全に抜け出しており、序盤戦での状態からは確実に前進していると言えるだろう。
ノリスは序盤アルボンとのバトルのためタイムが伸びていないが、クリアエアを得てからはオコンと互角かやや優っているほどだ。また、ノリスの後ろのリカルドはさらに速く走れそうな展開だったため、マクラーレンは良いレースカーを準備してきたと言えるだろう。
ソフトタイヤのアルボンだが、ミディアム勢と比べてもデグラデーションが小さく、これも興味深いデータと言えるだろう。
2. シューマッハの活躍
今回はシューマッハがハミルトンとのバトルで大いに沸かせた。
通常のレースの第1スティントでハミルトンが来ても、チェッカーまで抑え切れる見込みは殆どないため、無理なバトルは避けるだろう。しかし、スプリントレースではチェッカーはすぐそこであり、ハースにとっては次にいつ獲れるか保証もない貴重も1点がそこにある。ここにバトルするインセンティブがあることは今季のスプリントレースの素晴らしいところだろう。
そのシューマッハだが、F1に来てからは優等生的なイメージがあるものの、F4、F3、F2ではかなりアグレッシブかつ巧妙なバトルを行うドライバーで、筆者としてはバトルにおいては父ミハエルとアロンソの中間的なイメージを持っていた。
今回も19周目のブロックではハミルトンの加速を遅らせる技術を披露しており、これは2021年のハンガリーでアロンソが見せたものに近い。ブレーキング時のライン変更もレギュレーションに抵触しない範囲で巧みに行っており、バトルの巧さ・精神面のタフさを久々に見ることができた。
今回はスピード的にもマグヌッセンと互角かやや上回っていたようにも見え、序盤戦で出遅れたシューマッハがここから後半戦に向けてどんな前進を遂げるのか注目したいポイントだ。
決勝レースはこの後、日本時間22:00からスタートする。
Writer: Takumi