5/9 21:58修正
ホーナーにより、ペレスのペースは戻った後もPUが完調ではなかったことを示唆する発言があり、今回のペレスのペースは不明とした。
5/9 22:29修正
フェラーリの戦術について。ルクレールがレース終盤残していたタイヤは、新品ハードか中古ソフトの2種類。ミディアムは無かった。
5/11 追記
フェラーリの戦術について、ページ最下部に追記
5/12 追記
パート2は「レースペース分析」で十分な内容があるため、今回のレビューはこちらの記事単体にすることにした。
アメリカでの人気を確固たるものにしつつある近年のF1。今年はオースティンに加え、マイアミGPが追加され、非常にチャレンジングなサーキットで各チーム・ドライバーが激闘を繰り広げた。今回も中身の詰まったレースをグラフを交えながら振り返っていこう。
1. フェルスタッペンvsルクレール、勝負を分けたのは?
1.1. 異次元の2人
開幕から一貫して、他を寄せ付けない速さ・強さを見せているフェルスタッペンとルクレールのライバル対決。今回も例に漏れず、3位以下を置き去りにして異次元の闘いを繰り広げた。図1にフェルスタッペンとペレス、図2にルクレールとサインツのレースペースを示す。
ペレスは第1スティント前半はサインツのダーティエア、その後はエンジントラブルを解決してからはクリアエアとなっているが、PUは完璧な状態ではなかったようだ。よって今回はフェルスタッペンとペレスの力関係は「不明」と結論づけるのがフェアだろう。
一方、ルクレールはサインツに明確な差をつけた。第1スティントでは平均0.3秒ほどルクレールが上回っており、第2スティントでも0.4秒の差と(デグラデーションが0.00[s/lap]のためタイヤの差は考慮する必要なし)、今回の2人のペース差は大きかった。
ここまで5戦のレッドブル、フェラーリのチームメイト対決は表1~4のようになっている。
表1 フェルスタッペンとペレスのレースペース
表2 フェルスタッペンとペレスの比較可能な予選ペース
表3 ルクレールとサインツのレースペース
表4 ルクレールとサインツの比較可能な予選ペース
フェルスタッペンが予選で決めきれていないところだけがやや気になるが、レースペースでは両者ともチームメイトを明確に上回っている。少なくともこの序盤戦において、2人はマシンの性能を十二分に引き出し、まさに異次元の領域で闘った。この流れがヨーロッパラウンド以降も続くのか、どこかで風向きが変わるのか、注目したい所だ。
1.2. ミディアムではフェルスタッペン優勢、ハードでは互角
続いては、そんな2人のレースを振り返っていこう。まずはレースペースを図3に示す。
序盤はルクレールがフェルスタッペンをDRS圏内に入れないよう、ペースを上げて走っているのがわかる。しかし無理が祟って、6周目からタイムが落ち、9周目にパスされてしまった。
ルクレールとしては、序盤はフェルスタッペンを0.7~0.9秒程度後ろに引きつけておいて、ペースを落としてタイヤを労りつつ、フェルスタッペンにダーティエアを浴びせるというのが、昨年までなら理想だろう。しかし、今季のマシンは後方乱気流の影響が非常に小さい。さらに相手はフェルスタッペンだ。DRS圏内にさえ入れば、どうにかしてオーバーテイクまで繋げてくる危険性が最も高いドライバーと言え、ルクレールとしてはあれ以上ペースを落とすことはできなかったのだろう。
その後ルクレールのタイムは回復しており、スティント全体で見ればフェルスタッペンが0.2秒ほど勝っていた。ここで、ルクレールをアンダーカット圏外に押し出したことで、フェルスタッペンが大きく勝利を手繰り寄せた。
一方、第2スティントでは7秒以上のリードもあったため、フェルスタッペンもある程度コントロールしていたのかもしれないが、完全に互角のペースとなっている。また、SC後にフェルスタッペンがルクレールをDRS圏外に押しやろうと飛ばした際も、ルクレールは互角のラップタイムでついて行っており、ハードではフェラーリも一切引けを取っていなかったと読み取れる。
ちなみに、勝敗を分けるほどではないが、ルクレールのアウトラップも不味かった。セクター1では48.900秒もかかってしまい、これはフェルスタッペンの46.297秒より2.6秒も遅い。ピットストップはフェラーリの方が0.8秒遅かったが、それでもルクレールはセクター1だけで1.8秒失っており、何らかのミスがあったと思われる。
今後、より接近したアンダーカット・オーバーカットの瀬戸際では、要注意となるポイントかもしれない。
2. 相変わらずのフェラーリ(訂正と追記あり)
ほぼ決着はついたかに見えたレースだったが、実はルクレールが勝っていたはずのレースだった。
41周目、ノリスのクラッシュで状況は一変。VSCが導入され、この時点でルクレールはサインツに対して17.7秒のリードを築いていた。VSC・SC下ではピットロスは16秒程度のため、ルクレールとしてはポジションを失わずに新品ハード(もしくはタレるリスクを吟味する必要があるが中古ソフト)に交換できる大チャンスだった。
しかもフェルスタッペンにとっては不運、フェラーリ勢にとっては幸運なことに、フェルスタッペンがピットエントリーを通過した直後にVSCはSCに変わり、ルクレールはその約7秒後にピットの入口を通過した。”Box! Box!”と告げるには十分な時間で。そもそも状況からしてSCに変わること自体はほぼ間違いなかったため、VSCの時点で入れても悪くはなかっただろう。
ここで入れていれば、新品のハードタイヤでより大きなオーバーテイクチャンスを生み出せていたはずだ。フェラーリはこの判断ミスで貴重な14ポイントを失ったと考えられるだろう。筆者はフェラーリの戦術の不味さを、バーレーン、オーストラリアで指摘してきた。これまでは幸運が続き、結果に影響しなかったが、今回は負けレースの中で転がり込んできたとんでもない好機を自ら手放してしまう形となった。
前述の2戦で述べた通り、ファンとしては「これぞF1!」というハイレベルなチャンピオンシップを観たいものだ。しかし、ここまでフェラーリの問題点が露呈してしまうと、最終戦で妙な戦略ミスでタイトルが決着してしまう未来を懸念してしまう。
フェラーリが戦略・戦術面のオペレーションを見直し、最高のチームと最高のドライバーが闘い、11月に良き勝者と良き敗者が生まれることを切に願おう。
※追記
フェラーリ代表のビノットによれば、ハードタイヤは新品の方がSC明けで熱が入りづらく、それを加味しての判断だったようだ。フェラーリがただ好機を逃しただけではなく、データに基づいてしっかり決断したことは確かで、今回は筆者の見解が間違っていた。
一方でホーナーはフェラーリが入らなかったことを「ラッキー」と発言しており、レッドブルのストラテジーチームはフェラーリと逆の見解を持っていたことが推測できる。
タイヤは時としてトリッキーに振る舞い、非常に奥深いものだと痛感させられる一件だった。
Writer: Takumi