最後に日本GPで日本人が表彰台を獲得したのは、1990年、鈴木亜久里による3位だ。今回はそこから22年の時を経て達成された小林可夢偉の表彰台獲得レース、2012年日本GPを振り返ってみよう。
なお、最初に1. レースのあらすじ、次に2. 詳細な分析を記した。
1. レースのあらすじ
予選は結果は以下の通りとなった。
POS | DRIVER | CAR | Q1 | Q2 | Q3 |
---|---|---|---|---|---|
1 | Sebastian Vettel | RED BULL RACING RENAULT | 1:32.608 | 1:31.501 | 1:30.839 |
2 | Mark Webber | RED BULL RACING RENAULT | 1:32.951 | 1:31.950 | 1:31.090 |
3 | Jenson Button | MCLAREN MERCEDES | 1:33.077 | 1:31.772 | 1:31.290 |
4 | Kamui Kobayashi | SAUBER FERRARI | 1:32.042 | 1:31.886 | 1:31.700 |
5 | Romain Grosjean | LOTUS RENAULT | 1:32.029 | 1:31.988 | 1:31.898 |
6 | Sergio Perez | SAUBER FERRARI | 1:32.147 | 1:32.169 | 1:32.022 |
7 | Fernando Alonso | FERRARI | 1:32.459 | 1:31.833 | 1:32.114 |
8 | Kimi Räikkönen | LOTUS RENAULT | 1:32.221 | 1:31.826 | 1:32.208 |
9 | Lewis Hamilton | MCLAREN MERCEDES | 1:33.061 | 1:32.121 | 1:32.327 |
10 | Nico Hulkenberg | FORCE INDIA MERCEDES | 1:32.828 | 1:32.272 | DNF |
11 | Felipe Massa | FERRARI | 1:32.946 | 1:32.293 | |
12 | Paul di Resta | FORCE INDIA MERCEDES | 1:32.898 | 1:32.327 | |
13 | Michael Schumacher | MERCEDES | 1:33.349 | 1:32.469 | |
14 | Pastor Maldonado | WILLIAMS RENAULT | 1:32.834 | 1:32.512 | |
15 | Nico Rosberg | MERCEDES | 1:33.015 | 1:32.625 | |
16 | Daniel Ricciardo | STR FERRARI | 1:33.059 | 1:32.954 | |
17 | Jean-Eric Vergne | STR FERRARI | 1:33.370 | 1:33.368 | |
18 | Bruno Senna | WILLIAMS RENAULT | 1:33.405 | ||
19 | Heikki Kovalainen | CATERHAM RENAULT | 1:34.657 | ||
20 | Timo Glock | MARUSSIA COSWORTH | 1:35.213 | ||
21 | Pedro de la Rosa | HRT COSWORTH | 1:35.385 | ||
22 | Charles Pic | MARUSSIA COSWORTH | 1:35.429 | ||
23 | Vitaly Petrov | CATERHAM RENAULT | 1:35.432 | ||
24 | Narain Karthikeyan | HRT COSWORTH | 1:36.734 |
スタートは大混乱。グロージャンがウェバーに突っ込んでしまい、共に後方へ、アロンソもライコネンとの接触でパンクを喫し、姿を消してしまう。
序盤は先頭ベッテル、2番手小林、3番手バトン、以下にマッサ、ライコネン、ハミルトン、と続く。
最初のピットストップではバトン、ライコネンが13周目に入り、その時点でバトンに2.5秒のギャップを築いていた小林も翌14周目に反応。ポジションを守ることに成功する。
しかしここで小林は、まだピットストップを終えていないリカルドに引っ掛かってしまう。17周目に得意のヘアピンでのブレーキングでのオーバーテイクに成功するが、引っ張っていたマッサはここでピットストップ。小林の前に出てアンダーカットに成功する。
第2スティントでは、マッサには食らい付けないものの、バトンから逃げつつ2回目のピットへ。対するバトンは引っ張って、最終スティントをより新しいタイヤで戦う戦略だ。
そして最終スティントでは予想通りバトンが追い上げてくる。最終ラップではDRS圏内に入るが、小林のディフェンスは堅く、安定感のある走りで逃げ切り、3位表彰台を獲得した。
決勝結果は以下の通りとなった。
POS | DRIVER | CAR | LAPS | TIME/RETIRED | PTS |
---|---|---|---|---|---|
1 | Sebastian Vettel | RED BULL RACING RENAULT | 53 | 1:28:56.242 | 25 |
2 | Felipe Massa | FERRARI | 53 | +20.639s | 18 |
3 | Kamui Kobayashi | SAUBER FERRARI | 53 | +24.538s | 15 |
4 | Jenson Button | MCLAREN MERCEDES | 53 | +25.098s | 12 |
5 | Lewis Hamilton | MCLAREN MERCEDES | 53 | +46.490s | 10 |
6 | Kimi Räikkönen | LOTUS RENAULT | 53 | +50.424s | 8 |
7 | Nico Hulkenberg | FORCE INDIA MERCEDES | 53 | +51.159s | 6 |
8 | Pastor Maldonado | WILLIAMS RENAULT | 53 | +52.364s | 4 |
9 | Mark Webber | RED BULL RACING RENAULT | 53 | +54.675s | 2 |
10 | Daniel Ricciardo | STR FERRARI | 53 | +66.919s | 1 |
11 | Michael Schumacher | MERCEDES | 53 | +67.769s | 0 |
12 | Paul di Resta | FORCE INDIA MERCEDES | 53 | +83.460s | 0 |
13 | Jean-Eric Vergne | STR FERRARI | 53 | +88.645s | 0 |
14 | Bruno Senna | WILLIAMS RENAULT | 53 | +88.709s | 0 |
15 | Heikki Kovalainen | CATERHAM RENAULT | 52 | +1 lap | 0 |
16 | Timo Glock | MARUSSIA COSWORTH | 52 | +1 lap | 0 |
17 | Vitaly Petrov | CATERHAM RENAULT | 52 | +1 lap | 0 |
18 | Pedro de la Rosa | HRT COSWORTH | 52 | +1 lap | 0 |
19 | Romain Grosjean | LOTUS RENAULT | 51 | DNF | 0 |
Charles Pic | MARUSSIA COSWORTH | 37 | DNF | 0 | |
Narain Karthikeyan | HRT COSWORTH | 32 | DNF | 0 | |
Sergio Perez | SAUBER FERRARI | 18 | DNF | 0 | |
Fernando Alonso | FERRARI | 0 | DNF | 0 | |
Nico Rosberg | MERCEDES | 0 | DNF | 0 |
2. 詳細なレース分析
まずは小林とライバル勢のレースペースを見てみよう。チームメイトの小林と、トップのハミルトン、3位のアロンソを示した。
第1スティントでは同条件でジワジワとバトンを引き離している。この年のザウバーはタイヤに優しい特性が随所で散見され、オプションタイヤでは相対的に競争力が高かったのかもしれない。タイヤも最後まで持たせており、これがバトンのアンダーカットを阻止できた一因でもある。
しかし、ピットストップ後に本来のペースよりも2秒遅いリカルドに引っ掛かってしまったのは、痛かった。これによってマッサにオーバーカットを許してしまった。
小林がステイアウトし、リカルドに対して差を広げてからピットに入った方が良かっただろうか?しかしこの場合、バトンがあっさりリカルドを料理した場合には、アンダーカットを許してしまう。結果論で言えば、今回のトロロッソ&リカルドのパッケージは非常に抜きづらく、ステイアウトを選択すべきだったが、ザウバーの判断にも十分に正当性があると言えるだろう。
第2スティントの小林は途中からタイムが落ちてしまっており、これは流石にマッサについて行くのに無理をしたのだろう。しかしバトンにアンダーカットを仕掛けられる前にピットストップを行い、ポジションを守った。そしてバトンはタイヤのオフセットを作り、最終スティントで有利になるようレースを組み立てた。
そして迎えた最終スティント、バトンは小林より4周新しいタイヤを生かして、1周0.4秒ほどの差で追い上げている。
しかし45周目付近から、小林はタイムを上げてバトンの猛追を阻止していることが、グラフから読み取れる。これはスティント前半でバトンがプッシュし、追い上げを図っている間にペースを落とし、タイヤをセーブしていたことによるものと考えられる。
追いつかれても抜かれなければ問題はない。したがって、可能な限りペースを落として相手を背後まで引きつけ、その間にセーブしたタイヤをラスト数周で使う、というやり方は非常に賢かった。
3. 実は速かったシューマッハ
予選13番手を獲得しながら、前戦で起こしたアクシデントによるペナルティで、23番手スタートとなったシューマッハ。レースでは序盤で遅いマシンのDRSトレインの中にいたが、第2スティントでクリアエアを得ると、そのペースはかつての鈴鹿マイスターの走りだった。図2にシューマッハ、バトンとライコネンのレースペースを示す。
上位勢がプライムをメインに据えて、オプション-プライム-プライムの2ストップを選択する中、シューマッハはオプションメインで、プライム-オプション-オプションとした。
第1スティントが渋滞の中に埋もれてしまったため、シューマッハのプライムでのペースが不明だが、オプションでは両スティントとも非常に高い競争力を示している。
第2スティント中盤はディレスタに引っ掛かっているが、1コーナーでアグレッシブにオーバーテイク。第3スティントでは、途中からトラクションとストレートスピードに優れるリカルドに追いついてしまい、最後まで抜けなかった。
その上で、クリアエアの部分を見ていくと、バトンやライコネンより4周新しい(デグラデーション0.07[s/lap]として0.3秒程度のアドバンテージ)ことを考慮してもライコネンに近い競争力を有していた。
そして第3スティントではさらにその勢いを増し、小林を追い上げているバトンと互角のペースを見せている。しかもタイヤはバトンより1周分しか新しくなく、この段階ではデグラデーションは極めて小さかったため、実際にバトンと互角レベルの力を有していたと考えられる。
鈴鹿で誰よりも勝利の美酒を味わい、2000年には最も思い出深いであろうタイトル獲得を成し遂げたミハエル・シューマッハ。引退発表の地に鈴鹿を選び、そこで今出来うる最高の53周を走りきって、日本のF1ファンたちに別れを告げた。
Writer: Takumi