ルクレールとフェルスタッペンの非常にハイレベルな戦いがフィーチャーされている今季のトップ争い。フェラーリのお膝元イモラではルクレールとサインツの活躍に期待が高まっていたが、蓋を開けてみればフェルスタッペンがグランドスラムを達成し、雨のイモラを完全制覇した。
1. くじ引きの予選
予選Q3では雨と赤旗に翻弄された展開となった。ルクレールとフェルスタッペンは共に最初のアタックでタイムを出し、ルクレールがフェルスタッペンを0.020秒上回った。
しかし、連続で2周目のアタックに向かったフェルスタッペンと、1周のクールダウン&チャージラップを挟んだルクレールで明暗が分かれた。フェルスタッペンは前周より遥かに乾いた路面でのアタックとなり、セクター3での黄旗による減速を持ってしても、ルクレールのタイムを大きく上回った。
そしてセッションは赤旗。再開後もすぐにノリスのコースオフで赤旗となりフェルスタッペンがポールポジションを獲得した。
ルクレールがクールダウン&チャージを挟んだことは、結果論で言えばポールを逃すことに繋がったが、判断としては間違っていない。コンディションは1周ごとに大きく改善されており、連続周回で妥協したエネルギー状態で走るより、2周目でチャージを入れつつタイヤの状態を最適化し、3周目にアタックした方が良いタイムが出るだろう。
勿論フェルスタッペンサイドも、雨の予選で先が読めない展開ではできるだけ走れるうちに走っておこうという考え方もまた一つの正解だ。
したがって予選は、「水量の多い状態」vs「水量が少ない状態+黄旗」で後者が勝つという、ある種の運任せの展開だった。
2. 激しいスプリント
昨シーズン3回行われたスプリントレースだったが、スタート以外動きがなく退屈な展開が指摘されていた。しかし今回はトップの2台が激しく戦う魅力的なスプリントとなった。
図1にフェルスタッペン、ルクレール、ペレスのレースペースを示す。
フェルスタッペンはスタートで出遅れ、ルクレールの先行を許す。そして暫くは少しずつ離される展開となるが、14周目あたりからルクレールのタイムが少し落ち始めていることが分かる。フェルスタッペンは一気に差を詰め、2台はテールトゥノーズに。20周目にはオーバーテイクに成功し、フェルスタッペンがスプリントレースの勝者となった。
ここでフェルスタッペンはルクレールの後ろ(1.0~1.5秒程度)でペレスと同等のペースで走っているのが興味深い。
翌日のレースではドライコンディションでペレスを0.2秒上回っていた(参考:レースペース分析)。スプリントでもチームメイト間の関係が同様だったとするならば、フェルスタッペンは敢えて無理にルクレールについて行かずに、タイヤをマネジメントし、相手のタイヤがタレた終盤に一気に攻め込んだことになる。この辺りからもフェルスタッペンの並外れたレース巧者ぶりが伺える。
フェルスタッペンとしては、ルクレールに対し「ペースを緩めたらDRS圏内に入るぞ」というプレッシャーを与えることが大切だった。それが無ければ(例えば差が2秒以上になれば)ルクレールもマネジメントして、最後までタイヤが持ってしまっただろう。
よって、フェルスタッペンは相手のタイヤを傷めつけつつ、自身のタイヤを守る、非常に高度なレースをやって退けたと言えるだろう。
3. レッドブル完全支配とワンチャンスを作ったルクレール…
レーススタート時は雨。フェルスタッペンがポールポジションから大逃げを打った。図2に20周目までのウェットレースでのペースを、図3に20周目以降のドライレースでのペースを示す。
ウェットではフェルスタッペンがペレスを0.4秒ほど上回り、グングンと引き離していった。またルクレールのペースも良く、8周目にノリスを抜いてからは、平均でフェルスタッペンの0.2秒落ちのペースで走れていた。
ルクレールは1周早く入ったペレスを一瞬オーバーカットするが、タイヤに熱が入ったペレスを抑え込むことはできず、再びペレス-ルクレールの順となる。そしてその後は、テールトゥノーズの状態が続くが、23周目付近からジワジワとペレスが差を広げ始めた。
この時点で、ルクレールがペレスと勝負できるのは、タイヤの熱入れの良さを活かせるスティント序盤だけだということが見て取れる。今回のフェラーリは、スプリントレースでのグレイニングを見ても、タイヤへの入力が大きく、熱入れに長けている一方で、スティント後半では厳しくなるマシンに仕上がっていた。
そしてルクレール陣営は打開策として2ストップへと切り替えたが、ペレスも翌周反応。順位をキープする。しかし熱入れの良さを活かしたルクレールはペレスを射程圏内に捉え、DRSゾーンに迫る。しかし53周目、バリアンテアルタで痛恨のスピン。バリアに軽く接触し、フロントウィングを破損。ピットに入って追い上げるも6位フィニッシュとなってしまった。
ルクレールを擁護するならば、今回はレッドブルに対して基本的にノーチャンスで、フェラーリの強みが活きるスティント序盤のこの局面だけが唯一のチャンスだったという点だ。また、このバリアンテアルタの進入時、2人の差は1.062秒。このシケインで0.06秒削ればDRSを獲得できるという千載一遇のチャンスだった。そこで本人も言うように欲が出てしまったという事だろう。
よって2019年のバクーのように「全く必要のないミス」ではなく、2020年トルコGPのように平常心が乱れたわけでもなさそうだ。その点は、成長を感じさせると共に、失ったのが7ポイントだけで非常にラッキーだったと言えるだろう。さらに言えば、あそこだけがチャンスだと分かっていたのは、レースの全体像が見えていたとも言えるだろう。
ただし、あのコンディションで攻める選択肢を選んだことは失敗だ。ランオフエリアはまだまだ濡れており、コースアウトすればそのままバリアまで行く可能性が高い。
チャンピオンシップを戦うのであれば、無理をすれば手の届くものを敢えて諦める勇気も必要になってくる。例えばアロンソならば十中八九エンジンセーブに入っていたと思われる。
7ポイントと言う非常に安い授業料で、チャンピオン争いにおけるリスクマネジメントの重要さを痛感できたことは、ルクレールにとって非常に大きかったかもしれない。1年の中でも人は失敗しながら成長していくが、この失敗を7ポイント以上の価値あるものに変えていくのを楽しみにしたい所だ。
Writer: Takumi
パート2では大活躍の角田を中心に中団争いにフォーカス