このシリーズでは、現在FIAで公開されている最古の年2006年からのレースを振り返ってみよう。
開幕からアロンソとシューマッハの一騎討ちの様相を呈してきた2006年シーズン。しかし、特殊なサーキットここモナコでは予選こそアロンソvsシューマッハの構図になったものの、レースではウェバーとライコネンが速さを見せた。さらにシューマッハは予選で発生した所謂「ラスカス駐車」により最後尾スタートを言い渡され、その追い上げにも注目が集まった。
なお、最初に1. レースのあらすじ、次に2. 詳細な分析、記事末尾に3. まとめを記した。あらすじとまとめのみで概要が分かるようになっているので、詳細分析は読み飛ばしていただいても問題ない。
目次
- レースのあらすじ
- 詳細なレース分析
- まとめ
1. レースのあらすじ
予選でトップタイムを記録したシューマッハ。しかし、最終盤のコース上でのストップが意図的な妨害行為と取られ、最後尾グリッドからのスタートとなってしまう。
これによってポールポジションを獲得したアロンソ。しかしレースは序盤からウェバー、ライコネンに突かれる展開となってしまう。
ライコネンは22周目にピットイン。10.3秒の静止時間でコースへと戻る。一方のアロンソは24周目にピットへ。7.9秒の静止時間で僅差でライコネンの前へと戻った。ウェバーは翌25周目でピットイン。10.5秒の静止時間で2人の真後ろに戻った。
第2スティントも3台が接近した状態で進んだ。しかし49周目のターン1出口でウェバーのマシンにトラブル発生。コース上でストップしウェバーはリタイア、レースはセーフティカー導入となる。これによりアロンソ、ライコネンは同時ピットストップ。残りは抜けないモナコでチェッカーフラッグまで走り切るだけとなった。
しかしライコネンのマシンは、このセーフティカーラン中に煙を上げストップ。アロンソは悠々自適のトップ快走となった。
またシューマッハは第1スティントからオーバーテイクを連発。バトンやヴィルヌーヴをコース上で交わした。セーフティカー導入はシューマッハには不利に働き、一時は1周遅れとなってしまったが、アロンソを抜き返して同一ラップになってからは本来のペースを刻み、1周近くの差があったバリチェロとの差をテールトゥノーズまで持ち込んでの5位入賞を果たした。
2. 詳細なレース分析
2-1 追い詰められたアロンソに転がり込んだ幸運
まずはアロンソ、ライコネン、ウェバーが繰り広げた優勝争いを分析してみよう。図1に三者のレースペースを示す。
Fig.1 アロンソ、ライコネン、ウェバーのレースペース
ライコネンの実力は終始アロンソの後方にいるため測りづらいが、ピットストップ直前に少し離れて、追いつくまでクリーンエアになっている周がある。ここを基準にフューエルエフェクト(0.06[s/lap]とした)とデグラデーションを考慮すると、ライコネンはアロンソを0.5秒ほど上回っていたことになる。ライコネンは1回目のピットストップでアロンソよりかなり多くの燃料を積んでおり、セーフティカーとトラブルが無ければアロンソには勝っていた可能性が高い。
1回目のピットストップがアロンソより先だったため、手の内を明かしてしまう格好になったのは敗因の一つだ。それによってルノーがピットストップを短くする判断を下し、前に出られてしまった。だが、ライコネンの給油量を8.0秒程度にしていれば、前に出られた可能性が高い。それでアロンソが前をキープするには6秒前後のピットストップが必要で、そうなると次のピットストップは46周目というとんでもない変則2ストップになってしまうのだ。基本的にはルノーはその選択肢は取れないため、ライコネンの逆転を許すしかなくなるのだ。
にも関わらず、逆転のチャンスを2回目のピットストップまで引っ張ってしまったマクラーレンの判断はコンサバすぎたと言える。
次にウェバーを見てみよう。レースペースではアロンソを0.1秒ほど上回っていたと考えられ、高い競争力を見せた。2回目のピットストップではアロンソの13周後、ライコネンの4周後が予想され、少なくともアロンソに対しては逆転していた可能性が高く、ライコネンに対してもアロンソがいなくなってからのペース次第では十分の勝機があったかもしれない。それだけに非常に勿体無いトラブルでのリタイアになってしまった。
そしてこのウェバーについても戦略面でライコネンと同様のことが言える。特に1回目のピットストップがアロンソより後だったため、給油量を少なくしていれば前に出られたことはことは分かっていたはずだ。したがってマクラーレン以上にコンサバな戦略だったと言える。
対するアロンソはレースペースでは非常に苦しんだ。特にデグラデーションが0.06[s/lap]と非常に大きいのが気になるところだ。他チームはミシュラン勢・ブリヂストン勢共に0.01[s/lap]が平均的な中で、2005年と同様にルノー勢が2台揃って(フィジケラのデグラデーションは図3の第3スティントを参照のこと)タイヤに苦しんでいる。これは重量配分が後ろ寄りのルノーのマシン特性によるものかもしれない。優れたトラクション性能の一方で、リアタイヤに負荷をかけてしまうのは、ある種仕方ないトレードオフと考えられる。
アロンソの勝因は、なんと言っても1回目のピットストップを短くして前をキープしたことだ。静止時間はライコネンより2.4秒短かく、コースに戻った際にはギリギリだったことから、もう少し積んでいたら逆転されていただろう。そうなるとライコネンも冷却面で楽になり、トラブルに見舞われなかった可能性もある。ルノーの目先のトラックポジションを重視した戦略は、セーフティカーの出やすいモナコではこうした幸運を呼び込む種子となった。
2-2 シューマッハの追い上げ
続いて、最後尾スタートとなったシューマッハのペースをアロンソやフィジケラと比較してみよう。
Fig.2 アロンソとシューマッハのレースペース
Fig.3 シューマッハとフィジケラのレースペース
図2より、シューマッハの第1スティントはバトンを抜いてからヴィルヌーヴに追いつくまでの1周のみとなっているが、ここを基準に計算すると、実力的にはアロンソを0.1秒ほど上回っている。ちなみにシューマッハは36周目のピットストップの際、燃料を余らせて入ってきている。静止時間からは本来48周目付近まで積んでいたと考えられ、トラフィックでの燃費を考慮すればもう少し積んでいた可能性も高い。
また、SC後はフィジケラの第3スティントと比較がしやすい。ここではシューマッハの方が0.6秒ほど上回っており、12周新しいタイヤをデグラデーション0.01[s/lap]で考慮すると、実力的には0.7秒ほど上回っていた。
3. まとめ
3.1 レースレビューのまとめ
以下にモナコGPレビューのまとめを記す。
(1) アロンソはデグラデーションが大きく、レースペースではライコネンやウェバーに劣ってしまったが、1回目の給油時間を短くして前に留まったことで、セーフティカーによる幸運を手繰り寄せた。
(2) ライコネンは1回目のストップを先に行い、アロンソに手の内を明かしてしまったことで前に出られてしまった。しかし、8秒以下の給油量にしておけば前に出ることは可能で、マクラーレンのコンサバな戦略が不運を呼び寄せてしまった。
(3) ウェバーもアロンソより優れたペースを持っていた。セーフティカーやトラブルが無ければ、2回目のピットストップ前後ではライコネンと優勝を賭けた勝負になっていた可能性が高い。
(4) シューマッハは48周以上の燃料を積んでスタートしながらオーバーテイクを連発して追い上げた。ピットストップ時には前に引っかかっていたため燃料を余らせて入ってきたと考えられる。
3.2 上位勢の勢力図
以下に上位勢のレースペースの勢力図を示す。
Table1 上位勢のレースペース
前述の通り、ルノーは重量配分が後ろ寄りのマシン特性を活かして、トラクションの良さで予選では速さを見せたものの、レースペースではデグラデーションが大きく苦戦した。一方でフェラーリ勢もそのアロンソを僅かに上回る程度で、そこまで競争力があったわけではなかった。そんな中訪れた千載一遇のチャンスをトラブルで逃してしまったライコネンとウェバー、マシンが劣る中でもチームメイトを圧倒し優勝したアロンソと、明暗が分かれたグランプリとなった。