1. 分析結果と結論
タイヤのデグラデーションや燃料搭載量などを考慮し、全ドライバーのレースペースの力関係を割り出すと表1のようになった。
Table1 レースペースの勢力図
※疑問符がつく部分はオレンジ色で示した
序盤でペレスがノリスに引っかかってしまったため見えにくかったが、実際にはトップ2チーム4台が接近したペースを有していたことが分かる。また、中団勢が2強との差を詰めてきており、中でもアルピーヌ勢の競争力が高かった。そしてハース勢がウィリアムズ勢と対等なレースペースを見せたことも興味深い。
また注意点として、ガスリーはリカルドに交わされてからも2秒以内で食らい付いており、グレイニングから回復してからは本来のペースはもう少し速かった可能性がある。
2. 分析内容の詳細
以下に分析の内容を示す。フューエルエフェクトは0.05[s/lap]で計算した。
また、各ドライバーのクリーンエアでの走行時を比較するために、全車の走行状態をこちらの記事にまとめた。
2.1 チーム毎の分析
まずチームメイト比較を行う。
ハミルトンはボッタスを抜いてから1周0.2秒のペースで引き離している。ただし、第2スティントではボッタスはハミルトンと近いペースというだけでなく、フェルスタッペンの2秒以内につけチャンスを伺っていた。このことから、タイヤ交換後に対フェルスタッペンでボッタスの競争力が上がっていることは確かだ。よって第2スティントでハミルトンがペースコントロールしていたわけではなく、実際にボッタスはハミルトンの0.1秒落ちよりも速く走るポテンシャルがあったことが分かる。トラブル解決後のタイムから、第2スティントでのハミルトンとはイーブンと言って良いだろう。当サイトでは、両スティントを平均してレース全体での2人の差を0.1秒とした。
Fig.2 レッドブル勢のレースペース
ペレスは長いスティントでタイヤを持たせることを考えていたと思われるため、実際はもう少し速い可能性もあるが、タイムが落ち始めるタイミングが上位3人のピットからそれ程後ではないので、タイヤの状態は大きく変わらなかったと言える。35周目までのフェルスタッペンとのペース差の平均は0.1秒差だが、このフェルスタッペンのペースはボッタスのペースに付き合っていた。フェルスタッペンは第1スティントでハミルトンの0.2秒落ちだったボッタスよりも速く、第2スティントでハミルトンの0.1秒落ちだったことを考えると、第1スティントではハミルトンの0.1秒落ちで走れたと考えられ、ボッタスすなわち実際のフェルスタッペンのペースよりも0.1秒ほど速く走れた事になる。よってフェルスタッペンはペレスより0.2秒速かったと言える。
Fig.3 マクラーレン勢のレースペース
23周目から41周目まで両者ミディアムで走っているが、リカルドはスタートタイヤなので、クエスチョンマークつきとしておくが、デグラデーションが0.01[s/lap]のため、22周古いタイヤのノリスとイーブンペースのリカルドは0.2秒ほど及んでいないと言える。
Fig.4 フェラーリ勢のレースペース
ルクレールは45周目付近からチェッカーまでプッシュして走っている。第2スティントではルクレールの方が0.4秒ほど速いペースで、4周のタイヤ履歴の差を考慮すると、デグラデーションを0.01[s/lap]とすると無視でき、0.4秒ほどの差となる。ただし、タイヤが違うため直接の比較は疑問符がつく。
Fig.5 アルピーヌ勢のレースペース
タイヤ交換のタイミングがかなり異なるため、ややクエスチョンマークつきになるが、終盤のペースはアロンソの方が平均0.5秒ほど速く、タイヤの履歴の差18周を考慮すると、アルピーヌのデグラデーションが0.03[s/lap]のため、2人がイーブンペースだったことが分かる。
Fig.6 アルファタウリ勢のレースペース
第1スティントでは0.1秒ほど、第2スティントでは0.2秒ほどガスリーの方が速そうだが、フェラーリと同じくタイヤが異なるので、直接の比較は疑問符がつく。
Fig.7 アルファロメオ勢のレースペース
比較可能なデータは無かった。
Fig.8 アストンマーティン勢のレースペース
両者がクリーンエアで走っている時間帯が異なり、比較するのは不適切と考えられる。
Fig.9 ウィリアムズ勢のレースペース
第1スティントのラッセルのペースは評価しづらいが、0.5~0.9秒ほどの差があったように見える。第2スティントの方がより評価しやすく、タイヤの差を換算すると、0.7秒ほどの差と言える。こちらを2人の差として結論づけるのが適切だろう。
Fig.10 ハース勢のレースペース
両者クリーンエアのタイミングでは第1スティント、第2スティントともにシューマッハが0.6秒ほど優っていた。
2.2 チームを跨いだ分析
図11にハミルトン、フェルスタッペン、ルクレール、オコンの比較を示す。
Fig.11 ハミルトン、フェルスタッペン、ルクレール、オコンのレースペース
ハミルトンは第2スティントではフェルスタッペンより0.1秒ほど速かった。
ルクレールはハミルトンの0.8秒落ち程度で、12周のタイヤの履歴差を考慮すると0.7秒ほどと言える。(他のドライバーにも言えるが、スティント前半にグレイニングの兆候が見られ、デグラデーションの計算はやや難しい。45周目からの全開でプッシュしている期間では0.02[s/lap]だが、37周目からのクリーンエア全体での平均は0.01[s/lap]程度だ。)
オコンは44周目以降のクリーンエアではルクレールから0.2秒落ち程度で、3周のタイヤ履歴の差を考慮すると0.1秒ほどと言える。(オーバーテイクを伴うダーティエアでのデグラデーションはクリーンエアで全開走行時の0.02[s/lap]と同じで考えた)
続いて角田とジョビナッツィをハミルトンと比較してみよう。
Fig.12 ハミルトン、ジョビナッツィ、角田のレースペース
まず角田はハミルトンの約1.6秒落ちのペースで、16周のタイヤ履歴の差を考慮すると、デグラデーションを0.01[s/lap]として、1.4秒程度と言える。
ジョビナッツィのクリーンエアは56周目以降のみなので、やや疑問符が着くが、角田と同等と言える。
続いて、ラッセルとシューマッハをハミルトンと比較する。
Fig.13 ハミルトン、ラッセル、シューマッハのレースペース
ラッセルは、ハードタイヤではハミルトンの2.1秒落ちのペースで、9周のタイヤ履歴の差をを考慮すると、デグラデーションを0.02[s/lap]として、1.9秒程度と言える。ラッセルの第1スティントは評価しにくいが、こちらでも1.5~2.0秒程度だったと思われる。
シューマッハは、第1スティント終盤のタイムから推し量ってラッセルと同等。第2スティント終盤のラッセルと同等のペースから、4周のタイヤの履歴を考慮すると、0.1秒落ちとなった。第1スティントのラッセルが評価しづらいため、後者を代表値とするのが賢明だろう。
よって第2スティントでハードを履いたドライバーの勢力図は以下の通りとなる。
Table2 比較可能だったドライバーの勢力図1
続いて、S-Mの戦略を採ったノリス、ガスリー、サインツ、ベッテルを比較してみよう。
Fig.14 ノリス、ガスリー、サインツのレースペース
ガスリーはノリスの0.4秒落ちのペースだった。
サインツの第2スティントはオーバーテイクされる周にタイムを大きくロスしているが、それを除けば、ガスリーとイーブンだった。
続いてベッテルをガスリーと比較すると、ベッテルはガスリーの0.2秒落ちのペースだった。
Fig.15 ガスリーとベッテルのレースペース
よって第2スティントミディアム勢の勢力図は以下の通りとなる。
Table3 比較可能だったドライバーの勢力図2
表2と表3の結果に、異なるタイヤ同士の比較(ルクレールとサインツの0.4秒差とガスリーと角田の0.3秒差)を当てはめると、サインツとルクレールの差は0.4秒となって辻褄が合うが、サインツはルクレールの0.5秒落ちと実際よりも少し大きくなるため、ここで大雑把な補正として、第2スティントをミディアムで走ったドライバーたちに0.1秒分の競争力を上乗せする。補正後のレースペース勢力図が最終的な結論となり、表1に示した分析結果となる。
※0.1秒の補正が必要か否かは賛否が分かれるかもしれないが、筆者はルクレールとサインツの0.4秒は有効数字の関係上、「限りなく0.3秒に近い0.4秒」と判断しており、最も許容できる差として「フェラーリ勢0.4秒、アルファタウリ勢0.3秒」とした。