三つ巴のチャンピオン争いも、いよいよラスト5戦。今回は戦略面でも多様性が見られ、見どころの多いレースとなった。
1. 完勝ノリス
ノリスは予選で2位のルクレールに0.262秒差、チームメイトのピアストリには0.588秒差をつける圧巻のポールポジションを獲得した。これがレースでのクリアエアと絶対的な支配を決定づけたわけだが、その背後にはノリスの絶妙なマシンコントロールが光った。
まずはF1公式YouTubeのポールラップオンボードをご覧いただこう。
Lando Norris’ Pole lap | 2025 Mexico City Grand Prix | Pirelli
ターン2(動画内の0:17付近)のイン側ではトラックリミットギリギリを攻めているが、エイペックスにつく手前で軽くスロットルを入れている音が聞こえる。これはデータからも確認できる。ノリスだけがターン2へのブレーキング後に軽くスロットルを踏んでいるのだ。

この僅かな調整によってフロント荷重を逃し、ラインを外側に持っていくことでトラックリミット違反を犯さない範囲のギリギリのインカットを実現した。そして、ここだけでピアストリに対して0.27秒を稼ぎ出したのだ。
レースでは第1スティントでのタイヤのデグラデーションが小さく、特にスティント後半でルクレールに対してアドバンテージを築いた。図1にノリスとルクレールのレースペースを示す。

ノリスは12周目付近まで抑えた走りで、横ばいのグラフになっている。そして、その後プッシュを始めるとルクレールと似たようなデグラデーション推移を示したが、序盤に労った分が効き、大きなペース差となった。スティント全体のトータルで見ると、両者の間には平均で0.5秒の差があった。
第2スティントでは見事にペースをコントロールし、最終的には30秒を超える大差で優勝したノリス。今回は対フェラーリで完勝と言える内容だった。
2. フェルスタッペンは依然としてタイトル争いの渦中に
予選は不発に終わったレッドブル&フェルスタッペン。しかし、レースでは目を見張るペースを見せた。図2にノリス、ルクレールとフェルスタッペンのレースペースを示す。

フェルスタッペンは第1スティントの時点で競争力があり、抜きにくいメキシコにおいて、ハミルトンとのサイド・バイ・サイドのバトルに持ち込んだ。その後はベアマンを抜きあぐねたが、クリアエアを得てからはルクレールを上回るペースを見せた。それまでのダーティエア走行でタイヤは理想的な状態ではなかったにも関わらず、その速さは際立っていた。
さらに第2スティントでは、ルクレールより6周分(デグラデーションを0.05[s/lap]とすると0.3秒相当)新しいソフトタイヤで、平均0.6秒速く走った。ルクレールもスティントの入りでかなりスローなペースでタイヤを労わり、その後のスティント全体をハイペースで最後まで持たせたが、レッドブル&フェルスタッペンのペースは強力だった。
このフェルスタッペンのペースをノリスとも比較してみよう。
第2スティントでのペースはややフェルスタッペンが上回っているが、タイヤの履歴の差を加味すると、フェルスタッペンの方が0.1秒ほど速い。ただしノリスは首位独走状態でペースコントロールしていたと考えられ、ルクレールのペース比較を見ると、第2スティントのノリスは第1スティントよりも0.2秒ほど緩めていた(特にスティント後半)ようだ。よって、実際はノリスがフェルスタッペンよりも0.1秒ほど速かったと思われる。またタイヤも、ノリスがミディアム、フェルスタッペンがソフト、と違いがあったが、他のドライバーを見る限り、両コンパウンド間でレースペースにそこまでの差はなく、0.1秒程度だったと考えられる。
いずれにせよ、前戦USGPに続き、フェルスタッペンとノリスのレースペースの差は極めて接近していた。そしていずれのレースも、予選とスタートを制した者がレースを支配し、ペースの遅いライバル勢(フェラーリ)に割って入られてしまった側が第1スティントで勝負権を失う、そんな展開が連続している状況だ。
レッドブル&フェルスタッペンとマクラーレン&ノリスは、スピード面は極めて接近しているが、その他のライバル勢のペースがやや遅いこと、そしてオーバーテイクが極めて難しくなっていることにより、直接対決が実現しにくくなっている、といった所だろう。
3. 心配なピアストリ
前戦のレビューでは、タイトル争いの重要な局面におけるピアストリの不振を、2010年のウェバーを彷彿とさせるものであると論じたが、今回も予選でノリスに0.588秒という大差をつけられてしまった。
メルセデス勢を交わして5位でフィニッシュしたピアストリ。しかし、そのペースは心強いものではなかった。クリアエア部分では、タイヤ差を換算してもベアマンを0.4秒ほど上回る程度。そのベアマンはルクレールより0.1〜0.2秒遅く、一方でチームメイトのノリスはルクレールより0.5秒も速かった。これらの事実を繋ぎ合わせると、ピアストリは依然としてノリスから0.2〜0.3秒落ちのペースであったと考えられる。
ポイントリーダーの座を明け渡し、追う立場になったことで、何か変わるのか?次戦以降のピアストリにも注目したい。
4. 次戦への展望
ノリスがピアストリを僅か1点差で逆転し、ついにランキング首位に立ったことで、タイトル争いは最終盤にして最大の熱を帯び始めた。
USGP、メキシコシティGPと、ターン1の通過順位がレース展開を大きく左右するレースが続いたが、次戦の舞台インテルラゴスは比較的抜きやすいサーキットだ。さらにスプリントフォーマットと予測不能な天候という、流れを覆しうる二つの大きな変数を持つ。この波乱の要素は、タイトル争いの行方を大きく揺さぶるかもしれない。
追う立場となったピアストリが、プレッシャーという重い翼から解き放たれ、本来の走りを取り戻せるか?新ポイントリーダーのノリスは競争力を維持できるのか?フェルスタッペンがまたしても週末を完全支配するのか?三者三様の思惑が交錯するサンパウロGPは、チャンピオンシップの天王山となるに違いない。
Takumi, ピトゥナ
インタラクティブグラフ
ご自身の視点でさらにデータを深掘りしたい方向けに、操作可能なグラフを用意した。
このツールでは、**「ペースグラフ」と「ギャップグラフ」**の二種類が利用でき、ボタン操作で見たいドライバーだけを自由に選んで表示できる。
特にラップタイムグラフには、レース状況を理解しやすくするための工夫が施されている。
- 塗りつぶしの点:前が空いている状態(クリアエア)でのラップを示す。
- 白抜きの点:前のマシンの影響下(ダーティエア:前方2秒以内)にあるラップを示す。
この色分けによって、各ドライバーがどのような状況でそのタイムを記録したのかが一目で把握できる。
また、グラフ右上のボタンからは、画像のダウンロードやグラフの拡大・縮小(ズーム)も可能だ。分析の補助として、ぜひご活用いただきたい。
Lap Times
Gap to Leader
Takumi, ピトゥナ
