F1は伝統の一戦、モナコ・モンテカルロへとやってきた。言うまでもなく、ルクレールにとっては母国GPであり、モンテカルロはイタリア語で「シャルルの山」の意。まさにルクレールを主人公とする一つの物語のような舞台とも言えるだろう。
今回は、そんなモナコGPでのルクレールの初勝利を、データを交えて振り返っていこう。
1. トラックとの相性
これまでは、チーム力の面で勝利を逃してきたが、ルクレール自身は非常にこのトラックを得意としてきた。以下はモナコの予選でのチームメイトとの対戦成績だ。
※マイナスが勝利、プラスが負け
2018年:vs エリクソン -0.436秒
2019年:vs ベッテル +0.715秒
2021年:vs サインツ -0.265秒
2022年:vs サインツ -0.225秒
2023年:vs サインツ -0.159秒
2024年:vs サインツ -0.248秒
2019年は、チームがQ1でのルクレールのタイムがQ2進出に十分だと誤った判断を下し、アタックを行わなかった結果、脱落。これを除けば、チームメイトに対して無敗であり、特に一発に定評のあるサインツに対して4戦4勝、平均0.224秒差というのは、非常に良い数字だ。
2021年にはポールポジションを獲得しながらも、予選終盤のクラッシュでドライブシャフトに負ったダメージをチームが見過ごし、スタートすらできないという結果に終わった。
2022年もポールポジションを獲得したものの、当サイトでも深く掘り下げた戦略面の問題(当時の記事1、2)があり、まさかの4位に終わった。
このように、ルクレールのモナコでの最終リザルトの悪さは、ルクレール自身の問題ではなく、本人はモナコを得意としていることが分かる。
2. 圧巻の予選
そして迎えた2024年。ルクレールは予選で全セクターを自己ベスト、最終セクターは全体ベストでまとめ上げ、再度ポールを獲得した。ここで、F1公式がアップロードした2番手ピアストリとの比較動画を見てみよう。
トンネルまではピアストリがリードしたが、ルクレールのヌーベルシケインの出来が非常に良かった。それでもプールサイド出口まではどちらにも転びうる差だったが、最後の2つのコーナーでルクレールが差をつけ、ポールポジションを決定的なものとした。
フェアモントヘアピンへの進入で強くブレーキングしたのか、一瞬オーバーステアが出て、カウンターを当てており、この辺りからも攻めの姿勢が伺える。また、最後のストレートで右側ギリギリを走行している点も、0.001秒を削ることに対する貪欲さを感じさせる。
3. 完璧にコントロールしたレース
現在のF1ではタイヤ交換の義務がある。しかし、1周目に赤旗が出て、全車がタイヤを交換できてしまったことで、この義務が消化され、実質的にノンストップレースとなった。ここからは「抜けないモナコ」の特性を活かして、ゆっくり走ってタイヤを労り、77周を走り切る展開となった。
まず図1に昨年のレースペースグラフ(ドライ部分のみ)、図2に今年のグラフを載せる。
昨年のレースではトップのフェルスタッペンが1分17秒前後で走行した。この背景には、2番手のアロンソが異なる戦略を採ったことや、雨の心配などもあり、これはほぼ全力を出し切ったパフォーマンスだったと考えられる。
一方で今年は、20周目以降でもルクレールが1分18秒台のペースで進め、昨年のフェルスタッペンのタイムレベルに到達したのは何と60周目付近のことだ。このことからも、如何にタイヤを長く持たせることに気を遣っていたかが分かり、同時に秒単位で遅く走っても抜かれないこのトラックの特殊性も明白に読み取れる。
4. 相手にフリーストップを与えない
そしてもう一つ、今回のレースでカギとなったのが、ライバルにフリーストップを与えないことだ。ピットストップで20秒失うとすると、後方に20秒の空間ができたら、タイヤを履き替えて追い上げることができる。抜けないモナコといえども、タイヤの履歴に圧倒的な差があれば、そのチャンスも少しは生まれてくる。
ルクレールにとってはサインツが後方にいてくれたおかげで、ピアストリがピットに入りにくい状況となっていた。さらに、ダメ押しとなったのがラッセルの存在だ。図3にルクレール、ピアストリ、ラッセルのギャップグラフを示す。
ルクレール陣営は、40周目手前付近からラッセルをピアストリのピットストップウィンドウ外に出さないように気を遣っていた。流石に53周目にラッセルが大きくペースを落として以降は、極端なペースダウンはできなかったが、サインツの存在で十分だったようだ。
52周目にミディアムタイヤに履き替えたフェルスタッペンも、1分14秒台の中盤が良い所で、終盤に1分15秒台で走る力があったと思われるフェラーリ、マクラーレン勢としては、タイヤを履き替えても1秒前後のペース差ではライバルを抜くのはほぼ不可能であることを理解していたのだろう。だからこそ、ピアストリをサインツの後ろに一度下げるという選択肢はあり得なかった。
ともあれ、ルクレールにとっては、ここ数年続いた母国GPでの流れの悪さをひっくり返し、レースを完全に支配して悲願の母国初勝利を手繰り寄せたことはかけがえのない経験になっただろう。
5. チャンピオンシップも接戦に
ここ数戦、レッドブルのペースがパッとせず、特定のコンディションで苦戦している。ドライバーズランキングトップのフェルスタッペンと2位ルクレールの差は31ポイントとなり、これは1回のリタイアと1勝で逆転する差で、旧ポイントシステムで言えば11ポイント差に相当する。いくらでも逆転可能な数字だ。
今年のフェラーリが2022年と異なるのは、マシンだけでなく、チーム力も上がってきている点だ。また、予選と比べてレースで力を落とす傾向もなく、より日曜日に強いチームになってきている。
ここにマクラーレンも加わってきており、3強が互角の争いとなれば、2024年シーズンは歴史的なチャンピオンシップバトルとなる可能性も十分にあるだろう。次戦はストップ&ゴーの代表格とも言えるモントリオール、カナダGP。再び特殊なサーキットとなる中で、各チームがどんなパフォーマンスを見せるのか、楽しみが尽きない2週間となりそうだ。
Writer: Takumi