• 2024/5/19 11:43

【コラム】現役ドライバーの競争力分析 〜23年間のチームメイト比較から徹底考察〜

Bytakumi

10月 22, 2023 ,

 当サイトでは2000年から2023年までのチームメイト比較を、ドライコンディションの予選・レースについて行い、各ドライバーの予選ペース、レースペースの真の実力を割り出す試みを行ってきた。

 その詳細は下記のページをご覧いただければ幸いだが、本記事では現役ドライバーのみを対象としたグラフをご覧いただきたい。

※参考
歴代ドライバーの競争力分析【予選編】
歴代ドライバーの競争力分析【レースペース編】

 まず、図1に現役ドライバーの予選ペース比較、図2にレースペース比較を示す。

図1 現役ドライバーの予選における競争力
図2 現役ドライバーのレースにおける競争力

※注意点

 ジョウ、アルボン、サージェントに関しては、評価に十分なデータが揃っておらず、現段階では比較から外すこととした。またノリスの2020年までのデータが基となっており、現在ではレースペースがもっと改善しているかもしれない。そのノリスと比較したピアストリの値はそもそも信憑性が低く、ブランク明けのルーキーイヤーということを考慮すると飽くまで参考値として見た方が良い。

 またその他のドライバーについても2022年終了時点の数字を基準としており、ルクレール、サインツは多少の変化があるだろう。角田に関しても、昨年から今年への躍進がやや未知数であることを念頭に置いて、見ていただきたい。

1. 総括とより分かりやすい定量化への試み

 さて、予選・レースともに最速だったのがフェルスタッペンだ。予選ではルクレールとノリスが互角の数値となったが、レースペースでやや離された。一方で、レースペースではアロンソ、ハミルトンがフェルスタッペンと互角となったが、この2名は予選でやや遅れをとっている。

 これらを総合的に評価するために、ここでは競争力スコアを定義しよう。それぞれ最速のドライバーを10点満点として0.1秒の遅れを1点の減点、レースペースを予選ペースより重要と考え、レースペースのスコアを2倍して予選ペースのスコアと足し合わせたものを最終的な競争力スコア値とする。以下がその定義式である。ちなみに予選とレースの重みづけを1:2としたのは、現在の車体レギュレーションによってオーバーテイクが比較的容易になっていることから決定した。

CS=2CSr + CSq

CS: 総合競争力スコア(Competitiveness Score)
CSr: レースペース競争力スコア
CSq: 予選競争力スコア

 これを元に計算すると図3のようになる。

図3 現役ドライバーの競争力スコア

 定義上、スコア上での3点差が総合的な速さにおける0.1秒の差になってくる。各ドライバーのキャリアを通してのチームメイト比較を基として計算しているが、現在のフェルスタッペンとペレスの差や、アロンソとストロールの差が見事に現実と一致しており興味深い。

 これを見るとやはりフェルスタッペンに対抗できるのは、アロンソ、ハミルトン、ルクレールあたりだろう。リカルドも非常に接近しているため、レッドブルのシートを獲得できれば可能性が生まれてくるかもしれない。

2. 打倒フェルスタッペンへのシナリオ

 さて、ここからは来季以降ライバルチームがレッドブルと互角のマシンを作った際に、前述のドライバーたちがフェルスタッペンを倒すためにはどのような展開に持ち込めば良いか考えよう。

2.1. フェルスタッペンvsアロンソ

 まずアロンソの弱点は予選だ。Q2までは良くても、Q3の特にラストアタックで自己ベストを更新できない傾向が2006年からある。ミスがない場合の速さはフェルスタッペンに劣っていないだけに勿体無い。

 しかしアロンソの強みはスタートだ。反応や蹴り出しは勿論のこと、アクシデントを避けると同時に、最も効率よくブレーキング、ターンインしていける空間を見つける嗅覚はF1史上でもかなり突出している。ここで予選の不利を補うことができている。

 オーバーテイクに関してはペース差の小さい相手を抜き去るアロンソの方が上と考えるか、フェルスタッペンが展開上、マシン性能上そのような局面に置かれていないだけと考えるか、微妙な所だ。また雨での上手さも両者ともに突出している。ミスの少なさも共にトップクラスだ。

 以上より、両者は互角の総合力を持っており、互角のマシンを手にした場合は、彼ら自身が如何に力を出し切るか、あるいは外的要因の少しの影響で勝敗が決することになるだろう。

2.2. フェルスタッペンvsハミルトン

 この両者の対決は2021年に既に起きているが、現在のハミルトンを取り巻く状況当時とはやや異なる。特にラッセルの存在は少し厄介だ。当時はハミルトンが徹底的にレースペースに比重を置いても予選でボッタスを上回り、チーム内で作戦上のイニシアチブを獲ることができた。しかし現在はラッセルが予選で強力で、レース型のハミルトンがその後ろに引っかかってしまう展開が発生しやすくなっている。今年のシンガポールGPでも、ラッセルがいなければハミルトンがノリスとサインツを自力で抜いていたかもしれない。

 この点で、現在のハミルトンは2021年より不利な状況に立たされている。

 しかし2021年の抜きにくいマシンに比べ、現在のグランドエフェクトカーはオーバーテイクがより容易になっている。これはレースペースを重視するハミルトンにとっては有利に働く。

 これらを踏まえると、現在のハミルトンもフェルスタッペンと互角にやり合うことができそうだ。あとはラッセルが少しレースペース重視に方向転換し、ハミルトン-ラッセルの順で2台で戦略勝負を仕掛けることができるか否かがポイントとなるだろう。

2.3. フェルスタッペンvsルクレール

 ルクレールはレースペースでフェルスタッペンに遅れを取っているという結論が出てしまっている。これを信じるならば、同等のマシンで年間を通して勝ち切るのは少し難しいだろう。

 ただし、ルクレールはQ3の重要な局面で決める精神的タフさがあり、レースでもディフェンスにおいて、そのタフさとスキルを発揮する傾向がある。オーバーテイクの技術もフェルスタッペンを上回っているかもしれないと思わせるシーンが度々ある。

 一方でフェルスタッペンやアロンソほどミスが少ないかと言われると、そこは首を捻らざるを得ない。加えてウェット路面でもあと一息欲しい印象はある。

 ルクレールはフェルスタッペンよりF1でのキャリアが3年短く、タイトル争いの経験も薄い。今後ルクレールがこうした弱点を克服してくれば、フェルスタッペンからタイトルを奪う日もやってくるだろう。そしてルクレールはそうした自己分析・課題設定、自己改善のサイクルを回すことに非常に長けた人物のようであり、将来が楽しみだ。

2.4. フェルスタッペンvsリカルド

 リカルドはフェルスタッペンに、予選・決勝共に0.1秒劣っているという結果が出ている。スタートやウェットなどでも特別秀でているようには見えず、強いて言えばバトルにおいて、ディフェンスや抜いた後の処理が上手く、そこに僅かなアドバンテージがあるぐらいだろう。

 ただし、ハミルトンは2016年にロズベルグを予選で0.1秒、レースで0.2秒上回りながら、噛み合わないレースと信頼性の問題でタイトルを逃した。このような事が起きないとも限らない。さらにフェルスタッペンも2022,23年の序盤戦はマシンに手こずった。0.1秒というペース差は、そうした隙を突いてタイトルを奪取でき得る差だ。あるいはリカルドがマクラーレンでの苦悩を乗り越えた先に、0.1秒を見つける事ができたなら、自力で互角の戦いに持ち込めるだろう。

 リカルドにはまずアルファタウリで、マクラーレンでの2年間が異常だったことを証明してもらいたい。その上でレッドブルに戻り、フェルスタッペンとの頂上決戦を期待したい所だ。

2.5. その他と総括

 もちろん、前述の通りノリスのレースペースが速くなっていれば、ルクレールと互角、あるいはフェルスタッペンとも並ぶ競争力スコアとなるかもしれない。

 またピアストリは、ブランク明けとルーキーイヤーというハンディを背負いながらの厳しい戦いではあるが、F2で圧倒的な戦績を収めたルクレールの現在を見れば、同様の活躍を見せたピアストリがノリスと互角の走りをしだすのも時間の問題だろう。

 このように各ドライバーの予選・レースでのペース、そしてそれを踏まえての今後の打倒フェルスタッペンへの道筋と可能性、それらを俯瞰した世界観をインプットした上でF1レースを見てみると、少し今までとは違った宇宙が広がっているかもしれない。

Writer: Takumi