ハミルトンがフェラーリに移籍することが決まった。2025年からの複数年契約とのことで、ルクレール&ハミルトンという非常にコンペティティブなドライバーラインナップが実現した。今回はルクレールのチームメイトがハミルトンに変わることで、レース展開がどのように変わるのか考察していこう。
まず、前提条件として2人の速さを比較してみよう。当サイトで行ってきた「歴代ドライバーの競争力分析」を参照すると、予選ではルクレールの方が0.2秒速く、レースペースでは2人は互角となっている。なお、ここで言うハミルトンは、2014年以降のレースペース重視型のハミルトンで考える。
参考
歴代ドライバーの競争力分析(予選)
歴代ドライバーの競争力分析(レースペース)
勿論、ドライバーの競争力はマシンやチームとの相性やその他の外的要因、ドライバー自身の状態などによって変動するものだが、以下では仮に2025年以降も二人の競争力が上記の通りで継続すると考える。
1. 戦略面の負担軽減の可能性
ルクレールとサインツの2台を走らせる上で難しかった要因の一つとしては、サインツの予選一発が速く、レースの主導権を握ることがしばしばあったという点が挙げられる。ルクレールとしては、ペースの遅いサインツに引っかかってしまい、フェルスタッペンなどの他チームのライバルとの戦いで妥協が生じてしまうという問題があった。
したがってフェラーリにとっては、予選でルクレールより遅く、レースペースでルクレールと互角に走れるドライバーがもう一つのシートに座ってくれた方が、戦略面で助かるだろう。この意味ではハミルトンは適任と言える。
ただし、これはあくまでルクレールを勝たせる上で都合の良い論理であり、当然の如く、ハミルトンがセカンドドライバーに甘んじるわけもない。必要に応じて予選を重視したり、逆にさらにレースペースに重きを置いたりしてくるだろう。したがって、ある程度は未知数と言える。
2. ルクレールvsハミルトン
さて、本項ではチームメイト同士の勝負について掘り下げてみよう。
前述の通り、予選ではルクレールが上回るケースが多いだろう。1年間の平均で0.2秒差ならば、0.3~0.4秒の差がつくこともレース単位では考えられうる。そこでハミルトンにとって痛いのは、(特に2025年は)勢力図の接近が予想されることだ。予選で0.2秒以内に3~4台入ってくることは容易に想像でき、ルクレールとの間に複数台のライバルが入ってしまうと、レースペースが互角あるいは0.1秒程度優れていても逆転は厳しい展開になってしまう。
したがって、ハミルトンにとっては2007年のアロンソ以来の強力なチームメイトと言えるだろう。特に、チーム間の力関係が接近している場合は、ハミルトンも2013年以前のアプローチ、すなわち予選を重視せざる得ないケースも出てくると筆者は予想している。
ただし、間に他チームのマシンがおらず、1対1のバトルになるならば話は変わってくる。ハミルトンは純粋なペースを結果に繋げるのが極めて上手いドライバーであり、2番手でレースを進めたハミルトンが終わってみれば前でフィニッシュというレースが続く可能性もある。この辺りは他チームとの相対的な位置関係次第となるだろう。
また、純粋なペース以外の面に着目すると、ルクレールのバトルスキルは極めて卓越している。数々のオーバーテイクやディフェンスのスーパープレイがある一方で、2022年ベルギーGPや2023年カタールGPでハミルトンが起こしたようなミスはルクレールの場合はほぼしないだろう。
逆にハミルトンは上記のような接触事故こそあれど、単独でのクラッシュが極めて少ないドライバーだ。例えばルクレールが2022年のイモラ、ポールリカール、2023年のザンドフールトなどで犯したミスはハミルトンだと考えにくい。2022年の鈴鹿のファイナルラップでもハミルトンならペレスから2位を守り切っていたかもしれない。
このようにそれぞれのドライバーにそれぞれの強みと弱みがあり、この辺りは正にF1というスポーツの醍醐味だ。ルクレールの純粋なペースが勝るか?ハミルトンならではの旨さが勝るか?それはフェルスタッペンやノリス、アロンソらを破るのに十分なものか?興味は尽きない。
3. 車作りの方向性
最後に車作りの観点でも述べておこう。近年のフェラーリの問題の一つに、ルクレールとサインツの好みの違いが挙げられた。ルクレールはオーバーステア傾向を好み、サインツはアンダーステア傾向を好むドライバーだ。
一方、近年のハミルトンはややアンダーステア傾向のセットアップで走っているように見えるが、2013年までの車載映像を見る限りは、かなりのオーバーステア状態でマシンをコントロールしている。もちろん、一口にオーバーステアと言えども、ルクレールの好むオーバーステアとハミルトンの好むオーバーステアにはある程度の違いはあるだろう。しかし、ルクレール&サインツのコンビよりは、ルクレール&ハミルトンの方が車作りに対する要求が統合されたものになりやすい可能性が高いと筆者は考えている。
4. 結論
このように、ルクレールとハミルトンの組み合わせは、フェラーリにとって新たな強さをもたらすと共にチームメイト間でのバトルという点でも強烈なインパクトを持つものになるだろう。そして、おそらくは2007年のマクラーレンのラインナップ(ポテンシャル的には強かったものの、アロンソは最も力を発揮できなかったシーズンとなり、ハミルトンもルーキーイヤー)を上回るF1史上最強のコンビが誕生することとなる。これがF1の新たな歴史の1ページを作るきっかけとなるのか?興味の尽きない今後の数年間となりそうだ。
Writer: Takumi