F1界でしばしば話題となるのが、ドライバーの年齢とパフォーマンスの関係についてだ。フジTVの川井氏の「シューマッハやライコネンは40歳を超えた時点でピークではなかったが、アロンソは42歳で今もピークを維持している」という旨のコメントも記憶に新しい。ただし、筆者はこの件に関して部分的に異なる視点も持っている。当サイトでの歴代ドライバー分析を踏まえると、アロンソの現在のパフォーマンスがピークであることは明白であり、シューマッハがメルセデス時代に速さを失ったのも事実だが、ライコネンに関しては話が異なる。
※参考
歴代ドライバーの競争力分析(予選)
歴代ドライバーの競争力分析(レースペース)
シューマッハとチームメイトのペース比較(ページ下部)
アロンソとチームメイトのペース比較(ページ下部)
ライコネンとチームメイトのペース比較(ページ下部)
当サイトの分析では、ライコネンは少なくとも2018年まで競争力があったと考えるのが自然であると結論づけている。詳細については上述の歴代分析の考察内容をご参照いただきたいが、マッサやグロージャン、ベッテルといったドライバーとの比較を思い浮かべると直感的に納得しやすいだろう。マクラーレン時代については、優れたマシン性能と比較対象となるモントーヤやクルサードのパフォーマンスが真実を見えにくくしていたと考えられる。やはり上には上がいるということで、ベッテルが非常に速く、ライコネンの年齢によらず上回っていたと考えるのが自然だ。
2019年からのジョビナッツィとの比較でも、最終年には予選で明確に負け越したが、逆にレースペースでその差を広げている(上述のライコネン紹介ページ参照)。これはF1のチームメイト同士の比較でよくあることで、パルクフェルメルール下で予選とレースにどのように重きを置くかというアプローチの問題だ。よって、ライコネンのパフォーマンスに関して目に見える衰えを指摘するのは難しい。
また、予選でのミスに関しても、2003年からその傾向はあった。したがってライコネンのパフォーマンスは年齢とともに衰えたと結論づけるわけにはいかないというのが筆者の考えだ。
さて、一方でメルセデス時代のシューマッハのパフォーマンスが低下していたのは、当サイトの分析からも間違いない。最も内容が良かった2012年のデータを基準にしても、ロズベルグから0.1秒遅れており、上述の分析と照らし合わせると、予選では全盛期に比べて0.5秒、レースペースでは0.4秒遅くなっていたと考えられる。テスト制限などの時代的背景を差し引いて、全盛期のシューマッハをフェルスタッペンと互角としても予選で0.4秒、レースペースで0.3秒の衰えだ。
では、なぜ3人のうちシューマッハだけが衰えてしまったのか?筆者が最も大きいと考えているのが、ブランクの量と質だ。ライコネンやアロンソがF1を離れていたのは、2年間。対するシューマッハは3年だ。これが量の問題だ。
加えて、ライコネンはラリー、アロンソはWEC、インディ、ダカールなど、精力的にトップカテゴリで戦い続けていたのに対し、シューマッハの3年間は、カート以外に特に目立ったレース活動をしていなかった。これが質の問題だ。
ブランクが競争力に与える影響は非常に大きく、アロンソですら2021年の前半戦は苦戦した。オコンは2020年にリカルドに大差(予選0.2秒、レースペース0.6秒)で破れており、ピアストリの2023年シーズンも、ノリスとの比較(予選0.2秒、レースペース0.3秒)はF2での活躍から考えれば今ひとつだ。シューマッハの場合は、上記のブランクの質と量が大きな足枷となり、克服するのに時間がかかってしまったのかもしれない。相性の悪いアンダーステア傾向のマシンとなれば尚更だ。
さらに、シューマッハのパフォーマンスを低下させた可能性があるもう一つの因子は、バイク事故による後遺症だ。特にシミュレーター酔いの問題が報告されており、各週末に理想的な準備ができていなかった可能性がある。
このように、シューマッハのパフォーマンス低下は、種々の要因が複合的に絡み合った結果生じたものであると考えられる。
これらの分析から、F1ドライバーのパフォーマンスは年齢だけでなく、ブランク期間中の活動、身体的なコンディション、外的要因など多岐にわたる要素によって影響を受けることが明らかになる。アロンソとライコネンのケースはドライバーが年齢を重ねても一定レベルのパフォーマンスを維持できることを示し、シューマッハの例は複数の要因が絡み合いパフォーマンスに影響を与えることを示している。これらの事例を通じて、F1ドライバーの年齢とパフォーマンスの関係についてより深く理解することが可能となる。
F1は極めて複雑な情報処理が求められ、脳への要求が非常に高いスポーツだ。年齢を重ねるごとに、人は知識と経験を積み重ね、物事をより体系的に捉えられるようになる。特にF1のようなスポーツでは、多くのレギュレーション変更や未知の状況に対応する必要があり、脳は豊富な学習データを基に直感力を養い、フレキシブルな適応力を身につける。それらはコース上でのアクションのみならず、チームとの連携においてもベネフィットとなる。そして言わずもがな、F1はチームスポーツである。
以上より、F1では少なくとも40代前半程度であればスピード面に関する顕著な衰えが来にくい傾向がある程度説明できた。経験豊富なドライバーたちが見せるパフォーマンスは、経験と知識を過小評価してはならないことを物語っている。F1の世界は常に進化し、ドライバーたちはその変化に適応し続ける必要がある。だが、彼らが持つ豊富な経験は、新しい挑戦に立ち向かう上での貴重な武器となる。末筆ながら、F1というスポーツの奥深さと、そこで活躍するドライバーたちの素晴らしさに改めて感嘆する。
Writer: Takumi