Part1ではフェラーリの取りこぼしについて深く掘り下げたが、今回は当サイトでここまで行ってきた分析を踏まえ、2022年シーズン前半戦でのドライバーの競争力について見ていこう。
まずは、全10チームのチームメイト同士を予選・レースペースそれぞれ振り返っていきたい。予選はドライコンディションで同条件での比較が可能なもののみを対象とし、レースペースはタイヤ・燃料の状態およびクリアエア・ダーティエアも考慮して計算したものだ。
前後半に分け、本記事ではトップ3チームを扱う。
1. レッドブル勢
まず表1にレッドブル勢についてを示す。
表1-1 レッドブル勢の予選比較
表1-2 レッドブル勢のレースペース比較
昨年のフェルスタッペンはペレスに予選・決勝共に0.4秒の差をつけていた。しかし今季は特に予選でペレスに接近を許し、レースペースでは相対的に改善されるという傾向が続いていた。
これは2010,11年にメルセデスでミハエル・シューマッハが経験したことに似ており、オーバーステアを好むドライバーはマシンがアンダーステア傾向だと予選で力を発揮できず、レースではそれが改善されるという傾向がありそうだ。
参考:フェルスタッペンの対チームメイト分析、ミハエル・シューマッハの対チームメイト分析
その中でもフェルスタッペンは最大限のペースを発揮し、そしてミスを最小限にとどめ「レース巧者」ぶりを見せつけた前半戦と言えるだろう。
もちろん善戦しているレースペースでも、ペレスに対して0.2秒というのは本来のフェルスタッペンを考えればやや物足りなさを感じる。だが、直近の数レースでは予選・レースペース共にペレスに大差をつけ始めており、純粋なペース面でも昨年のフェルスタッペンが戻ってきているように見え、後半戦にはかなりの大躍進が予想される。(※ちなみにフランスGPでは文脈から0.5秒以上フェルスタッペンの方が速かったと考えるのが自然だ)
この要因として、アップデートによるマシン特性の変化がフェルスタッペンにとって追い風に働いていることが考えられ、逆にペレスは序盤戦での活躍から一気に逆風になってしまっている。F1では1年を通してマシンがアップデートされ、その中で浮き沈みを経験しながらも、それを最小限にとどめて1年間のパフォーマンス全体を最大化したものが勝者となる。
その点で、苦しかった序盤戦をこの戦績で乗り切ったフェルスタッペンには王者の貫禄を見える、そのように筆者の目には映った。
2. フェラーリ勢
では続いてフェラーリ勢を見てみよう。
表2-1 フェラーリ勢の予選比較
表2-2 フェラーリ勢のレースペース比較
ルクレールは予選に強いドライバーのような評判もあるが、それはフェラーリのマシン特性やレースでのフェラーリの戦略・戦術面のミスによる所が大きい。実際には予選よりもレースペースでサインツに大差をつけており、この傾向は昨年からあった。
対チームメイトという観点で、ここまでマシンの性能を引き出し、僚友に完勝しているのは、他にはノリスとアルボンしかおらず、比較対象やその状況も加味すると、今季の前半戦でレースペース最速ドライバーの称号を与えられるに相応しいパフォーマンスだろう。
純粋なレースペースのみならず、レースクラフトや接近戦での巧さも非常に優れており、殆ど文句ない内容だった。
ただし、エミリア・ロマーニャGPとフランスGPでのミスはいただけない。フランスGPのレビューで触れた通り、「無理すれば勝てるかもしれない場面で、無理をする価値に疑問を抱いてみる」ことも必要だ。フェラーリの戦略・戦術面が危ないだけに、ポイントを最大化するには、ルクレールがアロンソのような強かさを身に付けられるか否かが重要になってくるように思われる。
参考:フランスGPレビュー
対するサインツは予選ではルクレールに接近したグランプリが多い。一方でレースペースではオーストリアを除いてかなりの差をつけられており、これは誰にとっても望ましくない状況だ。
なぜならば、サインツ自身もレースで遅れて行ってしまう展開では、結果をマキシマイズできないのは当然として、ルクレールにとっても予選一発でサインツが前に出てしまった時に、サインツに頭を押さえられて自分のレースができない展開になってしまうからだ(例:イギリス・ハンガリー)。こうなればチームもチームオーダーやそれを出さないためにサインツに無理なペースアップを指示することになる。
これでは誰も得をしない。よってサインツにもう少しレース重視のアプローチを採らせることが、フェラーリチームとして今季のチャンピオンシップの結果をマキシマイズする上で必要なことなのではないろうか?
3. メルセデス勢
続いてメルセデス勢を見てみよう。
表3−1 メルセデス勢の予選比較
表3−2 メルセデス勢のレースペース比較
メルセデスの序盤戦はマシンに問題を抱え、2台で実験的な試みを行いつつの走行だった。したがって、2人を比較して良いのはマシンの問題が解消され始めたスペインGPあたりから、と考えた方が無難だろう。
となると、予選では有効なサンプルが少なく、何らかの結論を出すのは難しい。一方でレースペースではハミルトンがラッセルを明確に上回っており、SCなどの運・不運で順位が左右されることこそあっても、まだ2人の間には差があると考えてよいだろう。
ラッセルは昨年も対ラティフィでレースペースよりも予選で差をつけていた。ルクレールが予選型だった2019年から現在の姿に変貌を遂げたように、ラッセルもトップチームに来てハミルトンというベンチマークを得て、今後自身の弱点を分析し克服していくだろう。
ただし戦略面については前述のサインツのケースとは異なる。それは、メルセデスは3番目のチームだということだ。予選一発を重視することで、レッドブルやフェラーリを困らせることには一定の効果があるだろう。逆にレースペース重視にもリスクがある。予選で失敗した時に中団最上位にやられるリスクだ。したがってこの位置にいるチームとしてはサインツと同じ論理は適用できない。
続くPart3では中団勢に着目して行こう。
Writer: Takumi