このシリーズでは、現在FIAでラップタイムが公開されている最古の年2006年からのレースを振り返ってみよう。今回はシューマッハとアロンソが異次元のペースを見せた日本GPをお送りしよう。
なお、最初に1. レースのあらすじ、次に2. 詳細な分析、記事末尾に3. まとめを記した。あらすじとまとめのみで概要が分かるようになっているので、詳細分析は読み飛ばしていただいても問題ない。
目次
- レースのあらすじ
- 詳細なレース分析
- まとめ
1. レースのあらすじ
予選ではマッサがポール、シューマッハが2番手とフロントロウを独占。アロンソはトヨタ勢の後ろの5番手からのスタートとなった。
アロンソはスタートでアグレッシブな動きを見せ、トゥルーリをパス。対するフェラーリ勢は3周目に入るホームストレートでマッサとシューマッハの順位を入れ替え、シューマッハが先頭に立った。アロンソはその後13周目にラルフをパスすると、フェラーリ勢を追った。
しかし13周目にマッサがピットイン。これはパンクによるもので、本来は16周目に入るはずだったようだ。静止時間は8.3秒でピットアウトするが、ハイドフェルドの後ろに入ってしまう。ここで引っかかってしまったのが効いてしまい、アロンソが15周目に8.1秒のピットストップを済ませた時には、逆転となった。
シューマッハは18周目にピットストップ。8.9秒の静止時間で送り出す。
第2スティントではシューマッハとアロンソが互角のペースを刻み、19周目終了時点の5.4秒差は、34周目時点でも5.9秒という凄まじいタイムバトルが展開された。
2回目のピットストップはアロンソが35周目、7.2秒の静止時間でコースに戻った。そしてシューマッハは翌36周目にピットイン。7.4秒の静止時間でトップでコースに戻ることに成功した。
これにて勝負アリ。シューマッハがアロンソを2ポイント引き離す通算92勝目、と思われたが悲劇は起きた。37周目のデグナーでフェラーリエンジンは白煙を上げてストップ。リタイアとなった。そしてチャンピオンシップは、シューマッハ0ポイント、アロンソ10ポイントとなったことで、ほぼ決着。最終戦でアロンソがノーポイントに終わらない限りシューマッハに望みはなく、事実上の終戦となった。
2. 詳細なレース分析
さて、トラブルによってアロンソのレースとなったわけだが、そこに至るまでの2人のレース内容は非常に濃いものだった。屈指のドライバーズサーキットで繰り広げられた王者2人のバトルをグラフで振り返っていこう。
Fig.1 シューマッハとアロンソのレースペース
第2スティントではシューマッハとアロンソのペースは互角だ。そしてデグラデーションを0.04[s/lap]するとタイヤでシューマッハに3周分の0.1秒、フューエルエフェクトを0.12[s/lap]とすると燃料搭載量でアロンソに0.1秒のペースアドバンテージがあったため、2人は実力的にも全くの互角だったことになる。
それが2回目のピットストップ時点で「シューマッハの6秒勝ち」という結果になったのは、やはり予選が大きかった。アロンソは予選でトヨタ勢の後ろとなり、第1スティントの大半をラルフの後ろで引っ掛かり、大きくタイムロスをしてしまった。
この展開は今季幾度となく繰り広げられてきた。サンマリノGP、フランスGPのアロンソ、そしてスペインGP、イギリスGP、カナダGPのシューマッハだ。これらのGPでは一方が予選で後ろになったことで、本来のレースペースでは勝負になるはずのレースを落としてしまったレースだ。ただしこの中でアロンソのサンマリノGP、シューマッハのスペインGP、イギリスGP、カナダGPは燃料の積み過ぎが問題だったのに対し、アロンソのフランスGP、日本GPは予選での競争力不足が問題だった。つまり、後半戦のブリヂストンは予選一発に秀でつつも、レースペースでミシュランと互角に持ち込めるタイヤを持ち込んだことで、シューマッハに有利なレース展開を作り上げたと言える。特に今回の日本GPでは同じブリヂストンのトヨタ勢が間に割って入ったため、ブリヂストンとしては「してやったり」だったのではないだろうか。
ただし、今回のシューマッハは予選でアロンソに対して(燃料搭載量を個加味した地力の競争力で)1.02秒ものアドバンテージがあった。そしてレースペースで互角となり、第2スティントでプッシュせざるを得ない状況となってしまったのは美味しくなかった。必然的にエンジンにも負荷が掛かったと考えられ、もしフェラーリ&ブリヂストンがもう少しコンサバな選択をしていたら…と考えずにはいられない数値となった。
3. まとめ
3.1 レースレビューのまとめ
以下に日本GPレビューのまとめを記す。
(1) 両者万全の状態、燃料搭載量やタイヤが同条件ならば、シューマッハとアロンソのレースペースは互角だった。
(2) シューマッハの(2度目のピットストップ後までの)勝因は、予選に強いブリヂストンタイヤの特性を活かし、先頭でレースを勧められたことだった。逆にアロンソは予選でトヨタ勢に割って入られ、レース序盤で蓋をされてしまったことで勝利が遠のいてしまった。夏以降のブリヂストンの予選のスピードはシューマッハ優位の展開に大きく貢献している。
(3) その一方で今回のシューマッハは、燃料搭載量を加味すると予選でアロンソを1.02秒上回っていた。もう少しレースペースに振ったタイヤの方が楽にレースを進めることができたかも知れない。
3.2 上位勢の勢力図
上位勢のレースペースを、デグラデーションやフューエルエフェクトを考慮して分析すると、以下のようになった。
Table1 上位勢のレースペース
今回もシューマッハとアロンソの2人だけが異次元となった。第1スティントではマッサがシューマッハのペースについていけており、フューエルエフェクトを考慮すると実力的には0.2秒程度の差だった(パンクのため正確な数値は分からないが、計算上はシューマッハより2周分軽かった)が、ルノー勢が軽いことが分かっていた中で、シューマッハは無理にプッシュしていなかったと考えられる。実際、アロンソのスピードが脅威になり得ることが判明した第2スティントではシューマッハもペースを上げている。
シューマッハのエンジンブローという衝撃的な幕切ればかりが印象に残りがちな日本GP。しかしその内容は、今シーズン開幕から繰り広げられてきたシューマッハとアロンソの類稀なハイレベルの頂上決戦そのものだった。