Part1ではフェルスタッペンの戦略について考察した。こちらではノリスに焦点を当てて見ていこう。
※レース用語は太字部分で示し、記事末尾に用語解説を加筆した
目次
- ハミルトンはノリスを抜けたか?
- 雨足はどちらへ?
- 用語解説
1. ハミルトンはノリスを抜けたか?
今回は雨がらみの予選で、ウェットでも乾きかけのドライでも高い競争力を見せたノリスがポールポジションを獲得した。スタートではサインツに先行されるものの、レースペースの如実な差でオーバーテイク。以降は1周目のポジションダウンから追い上げてきたハミルトンとのバトルになった。
まず、図1にハミルトンとノリスのレースペースを示す。
Fig.1 ハミルトンとノリスのレースペース
ハミルトンは第1スティントの終盤リカルドがピットに入ったことでクリーンエアとなったが、ここでのペースはノリスより0.7秒ほど速い。さらに第2スティント序盤も同様のペース差で追いついていき、オーバーテイクもギリギリあり得るペース差かと思われた。しかしノリスは突如ペースアップし、それまでのハミルトンのハイペースを上回るタイムを連発する。
ノリスは第1スティントでもリカルドを大きく上回るペースを見せているが(図2)、ここでのペースは驚異的だ。第1スティントでのリカルドとの差が0.7秒程度、6周のタイヤのアドバンテージが0.5秒程度とするならば、ノリスはリカルドより1.2秒ほど速く走れたはずだが、そうすると1分38秒フラット〜前半程度だ。ノリスのペースはそれをやや上回っていたが、スティント序盤で抑えていたことも考慮すると、決して無理しているという程でもなく、雨が降らなければこのペースを最後まで持たせ、ノリスが優勝していた可能性が高かっただろう。
Fig.2 リカルドとノリスのレースペース
2. 雨足はどちらへ?
しかし、ノリスには試練が待ち受けていた。46周目から雨が降り始めたのだ。ここでマクラーレンは雨足は現状維持と読み、ノリス自身のステイアウトの判断を尊重、一方のメルセデスは雨足が強まると読み、ハミルトンに対してピットインを指示した。ちなみにハミルトンはノリスと同様ステイアウトを望んでおり、48周目のチームからの指示を無視してステイアウトしたが、メルセデスチームの強固な主張により49周目にタイヤ交換を行いこれが優勝に繋がった。
これを運によるものとするか、気象レーダーを読み解く実力とするか。それはおそらく気象予報士などの専門家の間でも意見が割れるのではないだろうか?
筆者自身はこの手の気象条件の予測については運の要素が大きいと考えている。それを完全に読み切り、サーキットのどのコーナーにどれだけの水量が落ちて来るのか?それによってタイムがどうなるのか?を完全に予測するのはほぼ不可能であり、だからこそ2008,2012年インテルラゴスや2019年のホッケンハイムなどを始めとするウェットレースで最高峰のF1チームたちの頭を悩ませてきた。
よって、最終盤の展開は「コントロールできない運」だったと筆者自身は考えており、チームやドライバーの実力の真値および今後の展開の予測の材料として有効なのは46周目までの展開だと考えている。
そうした中で「外れくじ」を引いてしまったノリスだが、一方でモータースポーツの結果を左右するのは、コントロール可能で再現性のある「実力」だけではなく、そうした「運」の要素も大きいことを受け入れ、進んでいくだろう。
そして忘れてはならないのは「試行回数を増やしていけば運の要素が結果にもたらす影響は平均化されてくる」ということだ。サイコロを1回しか降らなければ1も出るし、6も出るだろう。しかし100回降れば平均は3.5ぐらいになってくる。
今後ノリスが同じような展開に持ち込めれば、その時は運が味方するかもしれないし、逆に2・3番手を走っている時に思わぬ幸運が転がり込んでくることもあるだろう。そんな風に幸運を掴むチャンスを今後沢山作っていけることを確信させるに十分なノリスの激走だった。
3. 用語解説
オーバーテイク:追い抜き
クリーンエア:前に誰もいない状態。F1マシンの性能はダウンフォースに依存している。したがって高速で走るマシンの後ろにできる乱気流の中では本来の性能を発揮しきれず、前のマシンにある程度接近すると本来自分の方が速くてもそれ以上近づけなくなる。そうした乱気流の影響を受けている状態をダーティエアという。多くのサーキットでは同等のペースでは2秒以内に近づくことは難しい。0.2~0.3秒のペース差があっても1秒以内に近づくのは至難の技だ。
スティント:ピットストップからピットストップまで。もしくはスタートから最初のピットストップや、最後のストップからチェッカーまで。スタートから最初のストップまでを第1スティント、1回目から2回目を第2スティント・・・と呼ぶ。
ステイアウト:ピットに入らないこと