ルクレールが優勝争い、ノリスが表彰台争いを演じる中、やや水を開けられたが、それぞれのチームメイト達も見事な接近戦を演じた。今回はリカルド以下の争いを振り返ってみよう。
目次
- サインツを抑え切ったリカルド
- レース巧者アロンソの戦略的トレイン
- 用語解説
1. サインツを抑え切ったリカルド
図1にリカルドとサインツのレースペースを示す。
Fig.1 リカルドとサインツのレースペース
全ドライバーのまとめ記事の方で触れた通り、サインツはミディアムでの第1スティント終盤でのクリーンエア時は競争力は非常に高かった。グラフからも完全にリカルドをオーバーカットできるペースだったことが分かる。しかしピットストップで10秒ロスをしてしまい、再びリカルドの後ろとなり、チェッカーまでオーバーテイクには至らなかった。
サインツは終始リカルドに対し攻勢で、本来はもっと速かったことが見て取れるが、ハミルトンが1秒遅いルクレールを簡単にパスしていることから、サインツはリカルドに対して1秒のペースアドバンテージは無かったことが伺える。第1スティントの終盤のペースも、20周目付近まではリカルドのDRS圏外に下がりタイヤをセーブしていた事によって可能になったもので、ルクレール(リカルドよりミディアム・ハード共にほぼ1秒速い)ほどの競争力は無かった可能性が高い。
2. レース巧者アロンソの戦略的トレイン
予選レースではソフトタイヤの利点を最大限に活かし7番グリッドからスタートしたアロンソ。スタートで抜かれたベッテルを赤旗リスタート時に料理し、以降はストロールを後方に従えてのレースとなった。図2にアロンソとストロール、そして参考値としてペレスのレースペースを示す。ちなみにアロンソは1周目でディフューザーに軽いダメージを負っていたようだ。
Fig.2 アロンソ、ストロール、ペレスのレースペース
フエルエフェクトを0.07[s/lap]とすると、タイヤのデグラデーションがゼロだとしても10周で0.7[s]タイムが上がるはずだが、アロンソの両スティントは特にスティント後半でそれを上回るタイムの向上を見せている。これは前半で相当ペースを抑えていたことを示唆している。
2018年以前からアロンソは後方のドライバーがDRSを使える状態であることを問題にせず、後ろのドライバーを引きつけてダーティエアを浴びせ、自身はタイヤをセーブし、スティント後半でタイムを上げて突き放すというドライビングを得意としてきた。今回もストロールにDRSを使わせつつ、0.8~0.9[s]ほどのギャップでDRS区間に入って順位を守り、スティント後半でペースを上げてピットストップ前にはストロールを3秒以上引き離し、アンダーカットを阻止した。(結果ピットストップが5.4秒かかり一瞬後ろになるが、ウェリントンストレートでオーバーテイク)
特筆すべきは後半のスティントで、筆者自身も観戦中、ストロールに意図的にDRSを使わせているように見える旨をツイートした。実際ブコウスキのコメントで「順位を守るためにDRSトレインを形成し、非常に戦略的にペースをマネジメントした」との事が確認できた。
つまり、ストロールにDRSを使用させることで、ペレスやガスリーがストロールを抜けなくなることが狙いだったと思われる。ペレスの単独でのペースは1秒以上速く、アロンソもストロールも単独走行していれば一発で抜かれてしまっていただろう。そこでアロンソはストロールにDRSを使わせてペレスが背後に迫ってくることを防いでいた。
その証拠に、ペレスとガスリーが消えてからアロンソは一気にタイムを上げている。もちろん、この戦術は自身は決してミスをしないことが大前提になる。DRS区間手前の数コーナーで0.1~0.2[s]相当のミスをすれば抜かれてしまうからだ。
そして、レース終盤にはストロールをDRS圏外に引き離して余裕の7位チェッカーと、実に玄人好みの戦略的レースを展開した。
Part3ではライコネンやアルファタウリ勢、ハースの2台の争いなどに焦点を当てていきたい。
3. 用語解説
スティント:ピットストップからピットストップまで。もしくはスタートから最初のピットストップや、最後のストップからチェッカーまで。スタートから最初のストップまでを第1スティント、1回目から2回目を第2スティント・・・と呼ぶ。
クリーンエア:前に誰もいない状態。F1マシンの性能はダウンフォースに依存している。したがって高速で走るマシンの後ろにできる乱気流の中では本来の性能を発揮しきれず、前のマシンにある程度接近すると本来自分の方が速くてもそれ以上近づけなくなる。そうした乱気流の影響を受けている状態をダーティエアという。多くのサーキットでは同等のペースでは2秒以内に近づくことは難しい。0.2~0.3秒のペース差があっても1秒以内に近づくのは至難の技だ。
アンダーカット:前を走るライバルより先に新品タイヤに履き替えることで速いラップタイムを刻み、その間摩耗したタイヤで数周走ったライバルがタイヤを履き替えて出てきた際には自分が前に立つ、という戦略。
オーバーカット:前を走るライバルより後にタイヤを履き替えて逆転する戦略。頻繁には見られないが、タイヤが温まりにくいコンディションで新品タイヤに履き替えたライバルが1,2周ペースを上げられない場合などに起こりうる。路面の摩擦係数が低い市街地やストレートの多いモンツァなどが代表的なトラックだ。
オーバーテイク:追い抜き
DRS:前車と1.000秒以内にいると使えるオーバーテイク促進システム。DRSゾーンのみ使用ができる。通常1箇所か2箇所に設定される。その少し手前に設定された検知ポイントでタイム差を計測するので、後ろのドライバーにとっては例えサーキットの他の部分で離されようともそこで1.000秒以内に入れるようにすることが重要で、そのためにエネルギーマネジメントを調整する(「ターン15で近づきたいからターン1〜7で充電してターン8〜14で放出しよう」など)。前のドライバーはその逆を考え、裏をかいた奇襲なども考えられる。
デグラデーション:タイヤのタレ。1周あたり〜秒という表現が多い。使い方次第でコントロールできる。
フエルエフェクト:燃料搭載量がラップタイムに及ぼす影響。燃料が重くなることでより大きな慣性力(加速しない、止まれない)が働き、コーナリング時も遠心力が大きくなり曲がれなくなる。それによって落ちるラップタイムへの影響を1周あたりで[s/lap]としたり、単位質量あたりで[s/kg]、あるいは単位体積あたりで[s/l]としたりする。また英語でFuel Effectなので、「フューエルエフェクト」や「フュエルエフェクト」などの表記がある。当サイトでは「フエルエフェクト」と[s/lap]を標準として扱う。
DRSトレイン:集団の中で皆がDRSを使っている状態。例えば集団の先頭のドライバーの1秒以内に2番目のドライバーがいればそのドライバーはDRSを使えるが、その1秒以内に3番手のドライバーがいればそのドライバーもDRSを使える。互いにDRSを使い合っている2番手と3番手のドライバーの間での順位の変動は非常に起こりにくく、DRSトレインの前から3番目以降となってしまった場合は非常に厳しい戦いが予想される。