Part 1ではチャンピオンシップバトルの振り返りを行ったが、今回はチームメイト同士のペース比較を行い、各ドライバーのパフォーマンスを見ていこう。
ちなみに、これまでの各ドライバーのペース比較は、当サイトのドライバー紹介ページにてまとめて閲覧可能であるため、それらを参照しながらお楽しみいただいても良いかもしれない。
※比較に関する補足説明
当サイトでは、各GPにおいて予選とレースペースのチームメイト比較を行なっている。予選ではドライコンディションのみに絞り、最後に2台が共に走ったセッションでの比較を行なっている。ただし、両者ともクリーンなラップを走り、プッシュしている場合のみに限っている。例えば、一方が大きくミスをしている場合は比較対象としない。また、一方がポールポジションを争える状態で、他方がQ2落ちのような状況では、Q2のタイムで比較した際に一方のドライバーが本気でプッシュしていないことがある。これも比較対象から外す。これは、年間の予選一発の競争力の平均値を意味あるものにするためで、ドライバーの力を定量的に評価するためにベストの手法だと判断した。
またレースペースに関しても、ドライコンディションのみに絞り、燃料搭載量とタイヤのデグラデーションは勿論のこと、レース文脈(クリアエア、ダーティエア、タイヤの労り方、スティントの長さ、プッシュの必要性など)も考慮して、0.1秒を超える誤差が出ないよう算出している。
1. フェルスタッペン vs ペレス
表1-1 レッドブル勢の予選ペース比較
表1-2 レッドブル勢のレースペース比較
※注:予選については、ペレスがQ1, Q2で落ちているものを比較対象から外しているため、実際の差はさらに大きい。
データで示すまでもなくフェルスタッペンの圧勝となった。フェルスタッペンの実力についてはもはや触れるまでもないとして、ここではペレスのパフォーマンスについて考えてみよう。
さて、ここ数年の推移を見てみると、2人の年間平均タイム差は以下のようになる。
予選
2021年:0.403秒
2022年:0.284秒
2023年:0.396秒
レースペース
2021年:0.4秒
2022年:0.2秒
2023年:0.3秒
ペレスのフォースインディア時代以前の対チームメイト比較から考えても、本来のペレスは、予選・レース共にフェルスタッペンの0.3秒落ちで走れる力があったはずだ(これについては追って分析記事を公開する予定)。しかし、移籍初年度は仕方ないとしても、2年連続で予選パフォーマンスが低迷してしまった。
さらに、過去2年善戦していたレースペースでも、今年は移籍初年度と同じレベルの大差をつけられてしまった。これらと、レース中のミスなども考慮に入れると、到底本来の実力を発揮できているとは言えず、シート喪失も頷ける。
2. ノリス vs ピアストリ
表2-1 マクラーレン勢の予選ペース比較
表2-2 マクラーレン勢のレースペース比較
こちらはノリスが完勝した。レース展開やリザルト上はピアストリがノリスに接近していたように見えるが、それはノリスのスタートに問題があっただけで、ペース面では依然として差があった。
3. ルクレール vs サインツ
表3-1 フェラーリ勢の予選ペース比較
表3-2 フェラーリ勢のレースペース比較
予選ではサインツが互角に持ち込んだが、レースペースでルクレールが完勝した。
2022年までその傾向があったが、昨年は(誤差範囲内かもしれないが)予選の方が差がついていた。ジョック・クレアによれば、昨年のシンガポールGP以降ルクレールがレースペースにより比重を置くようになったとのことで、今年はそのアプローチの差が如実にデータに現れたと言えるだろう。
ここ4年間、サインツは特に予選でルクレールとの差が小さく、その実力は明白だ。思えばフェルスタッペンが予選でチームメイトに負け越したのは、シーズン途中で移籍した2016年を除けば、互いにルーキーイヤーだった2015年のvsサインツのみで、この時はサインツの7対4で勝ち越し、年間平均も0.084秒差で優位に立っていた。
とはいえ、この時もレースペースでは年間平均で0.2秒差で遅れをとっており、キャリアを通して予選で速さを発揮するタイプと言える。この辺りが、
・エースにするにはややペースが足りない
・セカンドにするには予選でエースの前に出てレースで蓋をしてしまう展開になりやすい
といった悩みを生んでしまうため、トップチームでの扱いを難しくしていると考えられる。一方で、ウィリアムズのような中堅チームでは予選の比重が高まるため、来シーズン以降は活躍の機会が増すかもしれない。
4. ハミルトン vs ラッセル
表4-1 メルセデス勢の予選ペース比較
表4-2 メルセデス勢のレースペース比較
過去2年は、予選で互角、レースペースでハミルトンが0.2秒リードというものだったが、今年はそれが綺麗に0.2秒ずつ平行移動する形で、ラッセルが予選で完勝、レースで互角という結果になった。若いラッセルが飛躍を遂げたのかもしれないが、ハミルトンがメルセデスでのラストイヤーで大苦戦を強いられたと見るのが常識的かもしれない。
5. アロンソ vs ストロール
表5-1 アストンマーティン勢の予選ペース比較
表5-2 アストンマーティン勢のレースペース比較
アロンソが完勝したが、昨年は予選・レース共に0.4秒差だったため、その差はやや縮まった。
6. ガスリー vs オコン
表6-1 アルピーヌ勢の予選ペース比較
表6-2 アルピーヌ勢のレースペース比較
こちらはレースペースの(特に後半戦の)サンプル数に疑問符がつくが、序盤戦ではオコンが善戦したものの、その後逆転、終盤戦ではガスリーの完勝という流れになった。
7. ヒュルケンベルグ vs マグヌッセン
表7-1 ハース勢の予選ペース比較
表7-2 ハース勢のレースペース比較
予選では善戦したマグヌッセンだったが、レースペースでは大きな差がついた。本来のマグヌッセン(ライコネンと互角だったグロージャンと互角)であれば、こうはならない筈であり、2年続けて本来のパフォーマンスを発揮できていなかったと考えられる。
なお、ベアマンの代役出場時については、サンプル数が少なすぎるため、ここでは割愛する。
8. RB勢の比較
8.1. 角田 vs リカルド
表8-1-1 RB勢の予選ペース比較 1
表8-1-2 RB勢のレースペース比較 1
予選の角田、レースのリカルドという傾向が見られた。これも後日分析記事を公開するが、リカルドがレースペースでは以前と同じレベル(フェルスタッペンの0.1秒落ち)に戻っていた一方で、予選ではかつての力を発揮できなかった(0.2秒ほど失った)と考えると辻褄があう。
この場合、リカルドは予選でフェルスタッペンから0.3~0.4秒落ちになるため、現在のペレスよりは若干良い可能性が高いが、レッドブルのシートを得る決定打にはならず、シンガポールGPをもって離脱となってしまった。
8.2. 角田 vs ローソン
表8-2-2 RB勢の予選ペース比較 2
表8-2-2 RB勢のレースペース比較 2
ローソンは予選で角田に迫り、レースペースでやや上回った。ただし、レースペースについては、サンプル数が少ない中、USGPではローソンがピットスタートだったため、セットアップ面で優位だったことは加味して考えた方が良く、ローソンが完勝したとまでは考えない方が良いだろう。
とはいえ、11戦しか走っていない新人でこれだけのペースを発揮できれば、レッドブルでもペレスより善戦できる可能性が高い。また、サインツの項目で言及したように、トップチームのセカンドとしては、予選よりもレースペースが良いドライバーが望ましい。さらに、将来的なフェルスタッペン離脱の可能性を考えた時も、今からローソンをフェルスタッペンと同じマシンに乗せてその成長の軌跡を評価しておけば、ローソンをエースに据えるべきか、他チームから新エースを引っ張ってくるべきかが判断しやすい。これらの点で、ローソンが選ばれたのは頷ける。
9. ウィリアムズ勢の比較
9.1. アルボン vs サージェント
表9-1-1 ウィリアムズ勢の予選ペース比較 1
表9-1-2 ウィリアムズ勢のレースペース比較 1
予選ではサージェントも戦えていたが、レースペースで大差がついた。これに加えてクラッシュの多さを鑑みると、シーズン途中でのシート喪失も仕方なしだろう。
9.2. アルボン vs コラピント
表9-2-2 ウィリアムズ勢の予選ペース比較 2
表9-2-2 ウィリアムズ勢のレースペース比較 2
予選ではサージェントもコラピントも大差は無い。ただし、レースペースについては定量的な比較ができたレースが少なく、現時点では何とも言えない。
10. ボッタス vs ジョウ
表10-1 ザウバー勢の予選ペース比較
表10-2 ザウバー勢のレースペース比較
予選で差がついたが、レースペースではジョウも決して悪くなかった。
また、トータルで見ればボッタスが完全に優位に立っていたが、ザウバーに競争力があったカタールGPでポイントを獲得したのはジョウ、という皮肉な結果となった。
11. 次回予告
当サイトでは2000年前後からのチームメイト同士のペース比較を総合して、ドライバーの競争力を分析してきた。次回は、今年のチームメイト比較を踏まえた上で、2010年以降に分析の対象を絞ることで、より正確な分析を試みる。その結果、誰がどの程度速く、今どの程度力を発揮できているのか、或いはこれからどのように変化していく可能性が高いのか、といった知見を得ていくことを目的とする。
Takumi