• 2024/11/21 17:43

2023年アブダビGPレビュー 〜最終戦に相応しいハイレベルな戦い〜

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※21:04 角田の順位の間違いを修正

 フェルスタッペンの22戦19勝、レッドブルとしても22戦21勝という歴史的圧勝劇となった2023年シーズンもついに閉幕した。来シーズンの開幕までは97日。カウントダウンはもう始まっているが、今回もひとまずアブダビGPのレースをデータを交えて振り返っていこう。

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1. またしても驚異的な能力を披露したルクレール

 独走したフェルスタッペンに関しては、この後のシーズンレビューで詳しく振り返るとして、本記事ではまずルクレールに焦点を当てていきたい。

 今回のルクレールの走りの素晴らしかった点を、順を追って整理していこう。

 まずは純粋なペースだ。予選ではQ1でサインツを0.279秒上回り、僚友が敗退する中、Q2そしてQ3へと進出。そしてQ3の最終アタックで爆発的なタイムを刻み、2番グリッドを獲得した。そしてレースペースでも、先に行った分析ではサインツに0.5秒差をつけ、レーストータルで見ればレッドブル勢に次ぐ競争力があった。参考までに、図1にフェルスタッペン、ルクレール、サインツのレースペースを示しておこう。

図1 フェルスタッペン、ルクレール、サインツのレースペース

 そして、レース序盤の判断も素晴らしかった。

 マシンの差を考えれば、フェルスタッペンに仕掛けられるとしたら、1周目しかあり得ない。そこで狙いすましてバトルに持ち込んだのも見事だったが、抜けないと判断してからの潔さが素晴らしかった。2周目にはもうフェルスタッペンの1.3秒後方まで下がったのだ。

 DRSが使えるようになる3周目まで粘ってみるのも一つの手だろう。しかしこのサーキットではダーティエアがタイヤの消耗に及ぼす影響が大きい。したがって、このルクレールの思い切った判断が、この後ライバルたちに対して優勢に戦う上で役立ったのは確かだろう。

 最後に、レース終盤の状況判断能力とコミュニケーション能力、そしてスポーツマンシップだ。

 57周目にはチームに「ペレスとラッセルのギャップを教えてくれ。5秒未満ならば彼にスリップストリームを与えてパスさせる。」と告げ、実際にファイナルラップのターン5前で減速し、ペレスにDRSを獲得させることに成功している。

 これはフェラーリがコンストラクターズ選手権でメルセデスに勝つための戦略だ。レース開始時点でフェラーリはメルセデスに4ポイント負けている状態だった。したがって、ラッセルが3位で15ポイント、ハミルトンが9位で2ポイントを獲得すると、ルクレールが2位で18ポイントを獲得しても、3ポイント差で負けてしまう。しかし、ペレスを表彰台に上げ、ラッセルを4位に押しやることができれば、同点となり、シンガポールGPでのサインツの勝利の分、フェラーリが2位を勝ち取ることになる。

 これをチームからの指示ではなくドライバー自身が考え、チームとコミュニケーションを取って状況を明確化し、的確に実行した点は驚異的だ。結果的にペレスのペースは十分ではなく、メルセデスの勝利となったが、この週末はルクレールがその資質を遺憾無く発揮したグランプリだったと言えるだろう。

 また、やろうと思えば、最終セクターで(2021年のペレスのように)スローダウンしてラッセルを強引に4位に追いやることもできたはずだ。筆者がルクレールの立場ならば間違いなくやっていた。しかし、この辺りはルクレールのフェアプレー精神であり、尊敬できるスポーツマンシップだ。この点に関しては正解不正解はない。徹底的にやらなかったことに対して、批判の声が上がるかもしれないが、筆者は倫理観の多様性の範疇であり、むしろ望ましい判断であると考える。

2. 殊勲の8位フィニッシュ

 今回は角田が予選、決勝を通じて素晴らしいペースを見せた。最終ラップではハミルトンとの攻防に打ち勝ち、8位でフィニッシュした。先に行ったレースペース分析でもサインツやストロールらと互角のペースを見せ、アルピーヌを完全に上回った。

 しかし、レース展開を見れば、もう少し上を狙えたのではないか?と考えるのも当然の反応だろう。選択肢は2つ

・1ストップでピットタイミングを遅らせる
・2ストップ

だ。ではそれぞれについて見ていこう。参考として図2にピアストリ、アロンソ、角田のレースペースを示す。

2.1. 第1スティントを伸ばす1ストップ

 角田は22周目にピットストップしてタイヤを新品に変えたことで、約1.5秒タイムを上げている。つまり仮に27周目まで遅らせていた場合、1.5秒×5で7.5秒のロスが発生。しかし、その5周のオフセットにより、第2スティントで1周あたり0.3秒ほどのタイムゲイン(デグラデーションを0.06[s/lap]とした場合)が見込める。残り周回数が31周であるため、これにより9.3秒のゲインが可能だ。よって、この戦略は単独走行ならば、トータルで1.8秒の利益をもたらす。

 しかし、ピットストップを遅らせることでオコン、ガスリー、ヒュルケンベルグらに引っかかるリスクや、似た戦略のストロールにアンダーカットされるリスクもある。彼らがDRSトレインを形成すれば壊滅的になる可能性すらある。その見返りが1.8秒であることを考えると、1ストップ戦略であれ以上タイミングを遅らせるのは得策ではない。

2.2. 真っ向勝負の2ストップ

 一方で、2ストップ戦略の場合はどうだろう?12周目にアロンソに先に入られた時点で、アロンソの後ろになること自体は避けられなかったため、オフセットを作る戦略が有効だろう。ただしハミルトンの前でコースに戻ることは肝心であるため、引っ張りすぎは良くない。

 例えば、20周目に入れば、第2スティントをピアストリより7周新しいタイヤで戦うことができる。前述の分析では素のペースで0.2秒劣っているが、このオフセットは0.4秒ほどのアドバンテージとなるため、勝負になる可能性は十分にある。ただし、この0.2秒の差でオーバーテイクまで至るか?という点には疑問符がつく。

 したがって、22周目に入る1ストップ戦略(現実)も、2ストップ戦略も、どちらも一長一短があり、どちらも正解と言えるだろう。素のペースでマクラーレン勢やアロンソには及んでいなかったため、今回の結果は望みうる最高の結果だったと言える。マシン、ドライビング、戦略、全てにおいてソリッドな仕事をした結果がポイントに繋がった。惜しくもコンストラクターズ選手権でウィリアムズを逆転することは叶わなかったが、これ以上ない最終戦になったのではないだろうか。

3. 開幕まで97日

 さて、これにて2023年シーズンが終了した。

 当サイトではシーズン全体を振り返るシーズンレビューを行う予定だ。こちらでは、年間を通じた予選・レースペースにおけるチームメイト比較、チーム間比較などから、各ドライバーやチームの真のパフォーマンスを詳らかにしていく。

 来たる2024年シーズンは、ライバルチームが差を埋め、四、五つ巴の争いになるのか?フェルスタッペンとレッドブルがさらに差を広げて今年以上の伝説を作り上げるのか?今から楽しみの尽きない冬休みになりそうだ。

Writer: Takumi