Part1ではレッドブルとフェラーリの4台に焦点を当てたが、今回はメルセデスについて見ていこう。ゼロポッドという過激なコンセプトを採用し、序盤戦は中団に埋もれそうなほどに低迷したメルセデス。しかし後半戦では大躍進を遂げ、フェラーリとコンストラクターズ選手権2位を争う所まで来た。今回もデータに基づき、メルセデスの1年を分析的視点で振り返る。
1. ハミルトンvsラッセル
メルセデス自体を他チームと比較する前に、まずはチームメイト間の力関係を見ておこう。表1-1に予選、表1−2にレースペースを示す。
注1:予選はドライコンディションのみを扱い、両者が揃って走った最終セッションでクリアラップを走れたもののみを比較した。
注2:レースペースは燃料、タイヤを加味した地力のペースを算出。クリア・ダーティエア、全力を出す必要性などのレース文脈も可能な限り考慮した。
表1-1 ハミルトンとラッセルの予選比較
表1-2 ハミルトンとラッセルのレースペース比較
予選では互角、レースペースではハミルトン優勢となっている。ただし、予選は勝敗差ではハミルトン優勢な上、ラッセルが優位に立った前半戦(アゼルバイジャンGPまで)はハミルトンがセットアップ面で実験的なアプローチを試みたという面が大きいだろう。実際、フランスGP以降ではハミルトンの6勝0敗で、平均でも0.138秒差と明確な差がついた。
当サイトの歴代ドライバーの競争力分析に当てはめれば、ラッセルの予選での力は全盛期のベッテルやロズベルグ相当、現役ならボッタスやマグヌッセンと互角レベルとなりそうだ。
レースペースに関する歴代ドライバーの分析は現在進行中だが、メルセデス時代のハミルトンは予選よりも少し上に位置すると考えられ、ハミルトンがシューマッハ、アロンソ、フェルスタッペン、ルクレールらと並ぶトップと仮定すれば、0.2秒落ちのラッセルの他ドライバーたちに対するペース上の立ち位置がぼんやりと見えてくるだろう。
総じて言えば、ハミルトンは前半戦の予選を除けば昨年のトップフォームを維持していたと考えてよいだろう。一方で、ラッセルは1年目としては文句なしのペースを見せたが、ハミルトンの後継者としてメルセデスを牽引していくにはあともう一歩の成長が期待される所だろう。今後数年でのペースの変遷に注目したい。
2. メルセデスとレッドブルの力関係
続いて、チャンピオンのレッドブルとメルセデスの純粋なペースを比較してみよう。表2-1に予選、表2−2にレースペースを示す。
注1:予選はドライコンディションのみを扱い、両チームの上位のドライバー同士を両者が揃って走った最終セッションにて比較した。
注2:レースペースは燃料、タイヤを加味した地力のペースを算出。クリア・ダーティエア、全力を出す必要性などのレース文脈も可能な限り考慮した。
表2-1 レッドブルとメルセデスの予選比較
表2-2 レッドブルとメルセデスのレースペース比較
予選、レース共に共通して言えることは波が非常に激しいことだ。また、傾向としては予選よりもレースで力を発揮するマシンと言えるだろう。
またシーズンをアゼルバイジャンGPまでとそれ以降で前後半に分けるとさらに興味深い。表2にその比較を示す。
表2 レッドブルとメルセデスの前後半戦の比較
特にレースペースでは後半戦に入って0.4秒のゲインと、大躍進を遂げていることが分かる。また予選でも後半戦の平均値にはベルギーGPの1.838秒差を含んでいるため、これを除けばレッドブルとの差を明確に縮めたと考えても良いだろう。
そして最も重要なことは比較対象のレッドブル自体が後半戦で大きく競争力を増したことだ。このレッドブルに対して差を詰めたメルセデスは、シーズン序盤の出遅れから大きく盛り返してきたと考えて間違い無いだろう。
参考:2022年シーズンレビュー(1) レッドブルvsフェラーリ
ここまでの数値を見る限り、力を引き出すには苦労するが、ポテンシャル自体は非常に高いという印象は間違っていなさそうだ。ゼロポッドという奇抜なコンセプトを来季も継続するかもしれないメルセデス。今年1年で学んだノウハウをどうスピードに繋げてくるのか、興味津々の冬休みとなりそうだ。
Part3からは中団勢について見ていこう。
Writer: Takumi