• 2024/11/21 18:04

2022年オランダGP レースペース分析

  • ホーム
  • 2022年オランダGP レースペース分析

1. 分析結果と結論

 先に分析結果を示す。分析の過程については次項「2. レースペースの分析」をご覧いただきたい。

表1 ソフトタイヤでのレースペース

 ソフトタイヤでは表2のような勢力図になった。角田については後述するOECと見なし、第1スティント全体を平均した。ガスリーについてはコンテキストから角田と互角とした。ちなみにフェアな計算のため最終スティントでの知見は含んでいない。

表2 ミディアムタイヤでのレースペース

 ミディアムタイヤでは表2のような勢力図になった。ペレスについては後述する通りデグラデーションがフェルスタッペンと異なるため、スティントの長さを考慮に入れた数字の方を採用した。

表3 ハードタイヤでのレースペース

 ハードタイヤでは表3のような勢力図になった。

表4 全体のレースペースの勢力図

 総合すると、レース全体のペースの勢力図はこのように結論づけて良いだろう。

計算方法

 といっても今回は表4の正確さについては一部疑問符がつく。このレースでは3つの表を正確に総合する手段がなく、状況からミディアムとハードを同等と仮定してハミルトンがフェルスタッペンより0.2秒速いことを前提とした。この前提はハミルトンが第1スティント後半のアルボン(タイヤを労ってやや速く出ている)よりミディアムで1.2秒速いこと、フェルスタッペンがほぼ通常走行の第2スティントのアルボンより1.3秒速いことから、ある程度の正確性は担保できていると思われる。

 その上で、オコンのソフトとハードを平均して組み込み、他の中団勢も入れていき表4の結果を得た。実際のレースでのコンテキストから考えても妥当な値といえ、この点からも前述の前提をある程度信頼して良いと判断した。

レースペースを振り返って

 表4を信じるならば、今回のフェルスタッペンは予選でフェラーリに、レースペースではメルセデス勢に純粋な速さでは肉薄or上回れながらも、全てを完璧にまとめ上げ「速さよりも強さの勝利」という印象だ。

 一方でメルセデス勢は、優れたレースペースがありながら予選で後ろになってしまい、第1スティントでサインツに引っかかったのが痛かった。サインツがピットに入る14周目の時点でハミルトンはフェルスタッペンに10秒の差を付けられており、この時点で非常に厳しい状態だったということだろう。

 またフェラーリはレースペースで劣っている以上、予選で前を獲って抑えこむ以外に方策はなかった。Q3でのルクレールのターン9でのミスは高くついてしまった。

 中団勢ではアロンソやストロール、シューマッハが中団グループよりトップ3チームに接近するパフォーマンスを見せた。レースペースの計算では対象外とした終盤のショートスティントでも、タイヤを履き替えたサインツのペースにアロンソがついて行けており、今回は中団上位とトップ勢との差が小さかった。

2. レースペースの分析

 以下に分析の内容を示す。フューエルエフェクトは0.06[s/lap]で計算した。

 また、各ドライバーのクリアエアでの走行時を比較するために、全車の走行状態をこちらの記事にまとめた。

各ドライバーの使用タイヤはこちらのピレリ公式より

 また、今回は予選で使用したソフトと新品ソフトの差は無視することとした。

 またスティント前半でダーティエアでも、途中からクリアエアになっており、かつ前半のダーティエア内でもタイヤを労われていて極端なペースダウンでもない場合、スティント全体をクリアエアのように扱ってよく、当サイトではその状態をオープンエンドクリアエア(OEC)と定義している。

2.1 チームメイト比較

 まずは明確に比較可能なチームメイト同士で見ていこう。

Fig.1 フェルスタッペンとペレスのレースペース

 両者ソフトの第1スティントでは、フェルスタッペンが平均0.7秒ほど上回っている。

 両者ミディアムの第2スティントでは、フェルスタッペンが平均0.30秒上回っている。ペレスのタイヤが4周古いことを、デグラデーション0.10[s/lap]で考慮すると、実力的にはペレスが0.1秒ほど上回っていたと言える。

 ただし、第2スティントの2人はデグラデーションの傾向があまりにも異なる。補助線を引いて、ペレスの第2スティントの長さがフェルスタッペンと同等だったと仮定すると、フェルスタッペンが平均0.6秒上回っており、同様に計算すると、実力的にはフェルスタッペンが0.2秒上回っていたと見ることもできる。

 両者ハードの第3スティントでは、フェルスタッペンが平均0.46秒上回っている。ペレスのタイヤが8周古いことを、デグラデーション0.06[s/lap]で考慮すると、実力的には2人は互角だったと言える。ただし、サンプルとなる周回数がやや少なく、またフェルスタッペンはレースをモノにした段階であり、全力を出していなかった可能性もあるため、疑問符付きの値と考えた方が良い。

Fig.2 ハミルトン、ラッセルのレースペース

 両者ミディアムの第1スティントでクリアエアとなった15周目以降を見れば、完全に互角のペースだ。

 両者ハードの第2スティントでは、ラッセルが平均0.08秒上回っている。ハミルトンのタイヤが2周古いことを、デグラデーション0.06[s/lap]で考慮すると、実力的にはやはり互角だったと言える。

Fig.3 ルクレール、サインツのレースペース

 両者ソフトの第1スティントでは、ルクレールが0.5秒上回っている。

 両者ミディアムの第2スティントでは、ルクレールが平均0.45秒上回っている。サインツのタイヤが3周古いことを、デグラデーション0.06[s/lap]で考慮すると、実力的にはルクレールが0.3秒ほど上回っていたと言える。

 両者ソフトの第4スティントでは、ルクレールが0.7秒上回っている。タイヤの差は無視して良いだろう。

Fig.4 アロンソ、オコンのレースペース

 両者ハードの第2スティントでは、アロンソをOECとした場合、互角のペースとなっている。アロンソのタイヤが6周古いことを、デグラデーション0.06[s/lap]で考慮すると、実力的にはアロンソが0.4秒(OECの扱いの上で0.34なので四捨五入ではなく切り上げ)ほど上回っていたと言える。

Fig.5 ノリス、リカルドのレースペース

 ノリスの第2、リカルドの第3スティントの重なっている部分では、両者ハードでノリスが平均0.06秒上回っている。ノリスのタイヤが10周古いことを、デグラデーション0.06[s/lap]で考慮すると、実力的にはノリスが0.7秒ほど上回っていたと言える。

Fig.6 ベッテル、ストロールのレースペース

 両者ミディアムの第2スティントでは、ストロールが平均0.73秒上回っている。ベッテルのタイヤが7周古いことを、デグラデーション0.03[s/lap]で考慮すると、実力的にはストロールが0.5秒ほど上回っていたと言える。

Fig.7 ガスリーと角田のレースペース

 両者ミディアムの第2スティントでは、ガスリーをOECとした場合、互角のペースとなっている。ガスリーのタイヤが2周古いことを、デグラデーション0.07[s/lap]で考慮すると、実力的には2人は互角だったと言える。

Fig.8 アルボンとラティフィのレースペース

 アルボンの第1、ラティフィの第2スティントの重なっている部分では、両者ミディアムで、アルボンが平均0.19秒上回っている。アルボンのタイヤが13周古いことを、デグラデーション0.06[s/lap]で考慮すると、実力的にはアルボンが1.0秒ほど上回っていたと言える。

 また、両者ミディアムの第2スティントでは、アルボンが平均0.92秒上回っている。ラティフィのタイヤが8周古いことを、デグラデーション0.06[s/lap]で考慮すると、実力的にはアルボンが0.4秒ほど上回っていたと言える。

 平均すれば、トータルでアルボンがラティフィを0.7秒上回っていたという結論になる。

Fig.9 シューマッハ、マグヌッセンのレースペース

 両者ミディアムの第2スティントで、マグヌッセンをOECと見た場合、シューマッハが平均0.31秒上回っている。シューマッハのタイヤが1周古いことを、デグラデーション0.13[s/lap]で考慮すると、実力的にはシューマッハが0.3秒ほど上回っていたと言える。

2.3. チームを跨いだ比較

 ここからはライバルチーム同士で比較を行っていこう。先に使用する図を示す。

Fig.10 フェルスタッペン、サインツ、ラッセル、角田のレースペース
Fig.11 フェルスタッペン、ノリス、ストロール、
アルボン、シューマッハのレースペース
Fig.12 ハミルトン、ノリス、オコン、
ラティフィのレースペース

2.3.1. ソフトでの比較

 図10に着目する。

 第1スティントでフェルスタッペンはルクレールを平均0.25秒上回っている。新品と中古の差は無視すると前述したが、この数字はフェルスタッペンが新品であることを加味して、四捨五入ではなく切り捨て、0.2秒と読もう。

 また、フェルスタッペンはストロールを1.2秒、オコンを1.5秒、角田を1.8秒、ラティフィを2.4秒上回っている。

2.3.2. ミディアムでの比較

 再び図10に着目する。

 第2スティントでフェルスタッペンはルクレールを平均0.23秒上回っている。ルクレールのタイヤが1周古いことを、デグラデーション0.06[s/lap]で考慮すると、実力的にはフェルスタッペンが0.2秒ほど上回っていたと言える。

 第2スティントでフェルスタッペンはストロールを平均0.87秒上回っている。ストロールのタイヤが2周古いことを、デグラデーション0.06[s/lap]で考慮すると、実力的にはフェルスタッペンが0.8秒ほど上回っていたと言える。

 第2スティントでフェルスタッペンは角田を平均1.36秒上回っている。角田のタイヤが5周古いことを、デグラデーション0.07[s/lap]で考慮すると、実力的にはフェルスタッペンが1.0秒ほど上回っていたと言える。

 続いて図11に着目する。

 第2スティントでフェルスタッペンはアルボンを平均1.16秒上回っている。フェルスタッペンのタイヤが3周古いことを、デグラデーション0.06[s/lap]で考慮すると、実力的にはフェルスタッペンが1.3秒ほど上回っていたと言える。

 第2スティントでストロールはシューマッハを平均0.42秒上回っている。シューマッハのタイヤが3周古いことを、デグラデーション0.13[s/lap]で考慮すると、実力的には両者は互角だったと言える。

 また、同じく図11で第1スティントにミディアムを履いた3人を比較する。

 ノリスのスティント全体を平均し、デグラデーション0.06[s/lap]相当の走りをした場合を想定すると、シューマッハより0.5秒、アルボンより0.6秒速かったと考えられる。ただし、アルボンはスティント前半でジョウから距離をおきタイヤを労っていたことを加味した方がよく、この数字は本来のアルボンの力より少し上に出ているはずだ。

2.3.3. ハードでの比較

 図12に着目する。

 第2スティントでハミルトンはオコンを平均1.43秒上回っている。オコンのタイヤが11周古いことを、デグラデーション0.06[s/lap]で考慮すると、実力的にはハミルトンが0.8秒ほど上回っていたと言える。

 第2スティントでノリスとオコンはイーブンペースだ。ノリスのタイヤが1周古いことを、デグラデーション0.06[s/lap]で考慮すると、実力的にはノリスが0.1秒ほど上回っていたと言える。

 オコンの第2スティントとラティフィの第3スティントの重なっている部分では、オコンが平均0.69秒速い。オコンのタイヤが8周古いことを、デグラデーション0.06[s/lap]で考慮すると、実力的にはオコンが1.2秒ほど上回っていたと言える。

 これらを総合し、表1~4の結論を得た。

Analyst: Takumi