ルクレールとフェルスタッペンの一騎打ちの様相を呈している2022年シーズン。F1はついにヨーロッパラウンド開幕。総合力が問われるバルセロナへとやってきた。低中高速コーナーやロングストレートなど様々な要素が含まれており、このサーキットで競争力を発揮したマシンがシーズンを制することが多いため、今季全体を占う上で非常に重要な一戦となった。
1. ルクレールにまさかのトラブル
1.1 予選を支配したルクレール
予選ではルクレールがフェルスタッペンに0.3秒差をつけてポール。Q3の1回目のアタックでスピンを喫しながらも、2回目で果敢に攻め、3つのセクターを自己ベスト&全体ベストで揃えた。1回目を失敗している以上、このアタックで失敗すると10位になってしまうため、通常はコンサバティブな走りをするものだが、この攻めの姿勢は見事だった。
今回はトラックエボリューションが小さいため、3つのセクター全てで自己ベスト&全体ベストは、いかにルクレールが純粋な走りで1回目の自身のアタックを上回ったかを意味していると言えるだろう。
さらにルクレールは予選での競争力の高さを活かしてQ2を中古ソフトで通過。決勝に向けて新品ソフトを1セット残すことに成功した。これが決勝で大きな意味を持ってくることになる。
1.2 第1スティントのペース差は?
図1にルクレールとフェルスタッペンのレースペースを示す。
今季のマシンはダーティエアの影響が少なく、3,4周目あたりからクリアエアと見てよく、第1スティントはルクレールがフェルスタッペンをじわじわと引き離して行く展開となった。ギャップは平均0.2秒のペースで広がり、その差が2.0秒を超えた9周目、フェルスタッペンがターン4で飛び出してしまう。
ここからのルクレールは、サインツやフェルスタッペンをコースオフに導いた風の影響を鑑みてか、数周ペースを落として慎重に走っているように見える。
8周目までの2人のペース差は0.2秒ではあるが、ルクレールはスティント終盤でかなりのハイペースを連発している。おそらく序盤はここ数戦と同じように、フェルスタッペンをDRS圏内に入れないように走っていたが、ついてこなかったのでタイヤをセーブできたのではないだろうか?
ここでフェルスタッペンが速く、1秒強の差でついてきてしまうと、ルクレールとしてはタイヤを庇う余裕がなくなり、タレにつながってしまうと思われ、それがイモラのスプリントとマイアミの決勝の展開だ。
今回イモラやマイアミのようにならずに済んだのは、素のペースの良さだけでなく、予選でセーブした新品タイヤでスタートできたことが大きかったのではないだろうか?
同程度のデグラデーション値を示したバーレーンGP(分析はこちら)では、新品タイヤのアドバンテージがスティント全体に渡って0.2[s/lap]もあった。
今回のルクレールのスティント終盤のハイペースと、9周目の時点でフェルスタッペンがコースオフする程度には余裕がない走りだったこと(突風がどこまでだったかは不明だが…)を考えれば、新品のアドバンテージが無くても少しルクレールの方がペースで上回っていた可能性が高そうに見える。しかし今回のレースにも0.2[s/lap]という値を適用するなら、新品タイヤがルクレールのレースを大きく楽に、そしてフェルスタッペンのレースを苦しくしたことは間違いない。
今後も、今回のようにデグラデーションの大きなトラックでは、予選Q2でいかにタイヤをセーブするかが鍵となってきそうだ。
残念ながら27周目にエンジントラブルでリタイアとなってしまったが、フェラーリは総合力の問われるバルセロナで、予選で完勝、レースペースで互角かやや優勢(?)という形となった。内容的には今シーズンの展望は明るく、今後多くのサーキットで高い競争力を見せてくることは間違いない。
2. フェルスタッペンの圧巻の追い上げ
突風があったとはいえ、フェルスタッペンが単独であそこまで派手にコースオフするシーンは、あまり記憶にないだろう。さらに厄介だったのはラッセルの後ろになってしまった後、DRSがトラブルで使えたり使えなくなったりする状況になってしまったことだ。
しかしここで見事だったのはフェルスタッペンの心理面での切り替え、そしてレッドブルの戦略面での切り替えだ。
コースオフの後、DRSトラブルに見舞われたことで、フェルスタッペンはかなり腹を立て、無線でも苛立ちが表面化していた。しかしレース後のコメントでは「あの時は腹を立てていたけど、自分自身を落ち着けて、より大きな絵(全体像)に集中した。」と語っており、チャンピオンに相応しいメンタリティを備えていることが分かる。
20戦以上のレースがあればミスもトラブルも不運もある。だが重要なことは、そのようにして後方に沈んでから「そこからできるベスト」を尽くすことだ。「本来〜位を走っていた」「このパーツはこう動くべきだ」「あいつはああいう走りをすべきでない!」と叫んだところで、過去に起きたことと現状は変えられない。ならば現状から得られる最大の結果に向けて歩むべき道を描き、成すべきことを地に足をつけてこなしていくのが、チャンピオンへの最大の近道だと筆者は考える。今回のフェルスタッペンはまさに王者の走りだったと言えるだろう。
そしてレッドブルの戦略も見事だった。図2にフェルスタッペン、ペレス、ラッセルのレースペースを示す。
ラッセルの後ろになってしまったフェルスタッペン。DRSの問題もさることながら、抜きにくいバルセロナとディフェンスが極めて上手いラッセルということもあり、第2スティントではDRSを使えてもラッセルを抜けない事態となった。
そこでレッドブル陣営は28周目にフェルスタッペンをピットへ。デグラデーションの大きなトラックで、ラッセルより15周新しいソフトタイヤのアドバンテージを活かし、1周3秒ものペースでその差を縮めていく。
そしてこの戦略の本質は、自身の3回目のピットストップを、ラッセルの2回目のピットよりも大きく遅らせることにある。それにより最終スティントでのタイヤの状態に差を作り、オーバーテイクすることを目論んでいた。
だが実際には、フェルスタッペンのハイペースがより楽な展開を生んだ。
フェルスタッペンのレースペースは驚異的で、コンパウンドの差とデグラデーションを考慮して算出すると、第3・4スティントでペレスを0.7秒上回っている。グラフでも、フェルスタッペンの第3スティント終盤はペレスの第3スティント序盤と被っているが、9周の履歴差があるにも関わらず、ほぼ同じペースで走っているのは驚異的だ。
この起死回生の凄まじいドライビングにより、まず36周目にラッセルに追いつき、ピットインさせることに成功。その後はタイヤを履き替えたラッセルを(安定性を加味すると)上回るペースを見せ、44周目にピットに入るとラッセルの前へ。オーバーカットに成功した。
ちなみにこの44周目に入るというレッドブルの判断も素晴らしい。素早いピットストップならばオーバーカットに成功するが、例えピットストップで手間取ってラッセルの後ろになっても、そしてDRSが機能しなくても抜けるからだ。ラッセルとは8周のタイヤ履歴の差があり、グラフからも第4スティント頭のペースはラッセルを2秒以上上回っている。こうなると、例えDRSが無くてもオーバーテイクに繋げられる可能性が高い。
あとは素のペース差とタイヤの差を活かしてペレスとの差を1周1秒以上のペースで縮め、49周目に譲ってもらう形でトップに躍り出た。
ペレス自身はこのチームオーダーに渋々従う様子にも見えたが、さすがにこれほどのペース差がある中で守り切るのは非現実的だ。チームはそうしたデータを踏まえての判断を行ったはずで、おそらくペレスもレース後にこのレースペースグラフを見せられ納得したのではないだろうか。
3. シーソーゲームのチャンピオン争い
さて、上位勢のポイントランキングは以下のようになった。
POS | DRIVER | CAR | PTS |
1 | Max Verstappen | RED BULL RACING RBPT | 110 |
2 | Charles Leclerc | FERRARI | 104 |
3 | Sergio Perez | RED BULL RACING RBPT | 85 |
4 | George Russell | MERCEDES | 74 |
5 | Carlos Sainz | FERRARI | 65 |
6 | Lewis Hamilton | MERCEDES | 46 |
フェルスタッペンは、負けレースだったバーレーンとオーストラリアで2回トラブルに見舞われている。一方ルクレールは、今回の1回だけとはいえ、楽に勝てたレースを逃した上に、フェルスタッペンに7ポイントを与えてしまった。フェルスタッペンは36ポイント相当、ルクレールは32ポイント相当の損失であり、ある意味ではここまでの信頼性の問題発生の運はイーブンに近い。
その上でのこのポイント差は、2人のここまでの接近した戦いぶりをよく表していると言えるだろう。
また、ラッセルは堅実に全戦5位以内を獲得し続けている。そしてマシンの総合的な性能が問われるバルセロナで今回メルセデスが優勝争いできるペース(詳細はレビューPart2とレースペース分析で言及)を見せたことで、ラッセル、或いはフェルスタッペンと64ポイント差のハミルトンにも僅かに光明が見えてきている。
今後ルクレールvsフェルスタッペンはどうなるのか?そしてメルセデスが争いに加わることは、ワンミスが6位転落を意味することになり、より緊迫した上位争いが見られるであろうことに、楽しみが膨らむバルセロナ決戦だった。
Writer: Takumi
Part2では高い競争力を発揮したメルセデス勢とハミルトンの追い上げ、そして最後尾から追い上げたアロンソにフォーカスする。(明日更新予定)