ルクレールとフェルスタッペンの非常にハイレベルな一騎打ちが繰り広げられた中東2連戦を終え、F1サーカスは3年ぶりとなるオーストラリアGPへとやって来た。今回も接戦が予想されたが、蓋を開けてみれば予選から決勝までルクレールが完全支配し、グランドスラム(ポールポジション・ファステストラップ・全周回リード・優勝)を達成した。今回は上位勢の戦いぶりを振り返ってみよう。
1. 予選一発はスーパーラップ
予選ではポールポジションを獲得したルクレール。多くのドライバーがQ2から0.1~0.3秒程度のタイムアップを見せる中、ルクレールは0.738秒もゲイン。Q2まで最大のパフォーマンスを引き出していなかったにしても、これはスーパーラップと言えるだろう。
ポールラップのオンボード映像を見ると、随所で驚異的なコントロールを見せている。ターン3の侵入と立ち上がりで一瞬のオーバーステアが出ており、かなり尖ったセットアップに見える。しかしルクレールにとってはこれが速く走れるやり方なのだろう。
車が曲がらないアンダーステア現象に対し、曲がりすぎてスピンしてしまう傾向をオーバーステア現象という。車を曲げるフロントが弱いとアンダーになり、リアが弱いと滑ってスピン、オーバーステアとなる。
セオリーは弱アンダーステア気味で4輪を確実にグリップさせて曲がり、リアに安定して力をかけながら加速していくやり方だ。しかし、シューマッハやハミルトン、フェルスタッペンら一部のトップドライバーはオーバーステア気味にセットアップし、リアタイヤの動きをスピンしない程度にコントロールしながら曲がる力に変える。さらに、これによって素早く車の向きを変え、立ち上がりでタイヤにかかる横方向の力を減らし、余った縦方向の力で加速に繋げる。言うまでもなく卓越したコントロール力が必要だが、ルクレールもこの類いのドライバーで、その中でもかなり尖ったオーバーステアを好むように見受けられる。
特筆すべきはターン11(動画の1:17)で、一瞬のオーバーステアをまるで無かったかの如くねじ伏せており、ラインも一歳乱れていない。ここだけを見てもルクレールの尋常ではないスキルが伺える。
※参考:公式サーキットガイドはこちら
2. 独走のフェラーリ&ルクレール
続いてはルクレールとフェルスタッペンのレースペースを見ていこう。
第1スティント序盤では、フェルスタッペンも必死に食らいついたが、途中からグレイニングがひどくなってしまっているのが見て取れる。対してルクレールは綺麗なタイムの落ちとなっており、スティント全体の平均では0.8秒ほどのペース差で引き離した。
第2スティントでも、最初はルクレールが0.5秒ほどのペースで引き離し、途中からはコントロールに入っているのが見て取れる。37周目にフェルスタッペンがタイムを上げると、翌周に見事に反応しており、タイヤ、エネルギーの充電状態ともに余裕を持っていたと思われる。ルクレールの方が4周新しいタイヤを履いていたことを加味しても、純粋なペースで0.4秒ほど上回っていたと考えられ、今回のフェラーリのペースは圧倒的だった。
2. フェラーリのレース戦術は大丈夫か?
完勝に見えたフェラーリ。しかし実は穴があった。
ファステストラップの1点をもぎ取り、26点を追加するはずだったこのレース。終盤は49周目に1分20秒966のファステストを記録。その後は53周目にルクレールがファステストについて尋ねると、エンジニアは「いいや、我々がファステストを持っていて、誰も破れないと思うよ。」と答えた。この時点では問題なかったが、その後大きな危機にさらされる。以下にルクレールとアロンソのレースペースを示す。
ハードタイヤスタートのアロンソはセーフティカーにより戦略が崩壊、53周目に新品ミディアムタイヤに履き替え、大差の最下位となってしまった。争う順位も無いため、ここでアロンソはファステストラップを獲りに来た。ファステストでポイントが与えられるのはトップ10フィニッシュをした場合のみで、アロンソにポイントが与えられることはないが、ルクレールの1ポイントは削られてしまう。よってルクレールはここでアタックする必要があった。
ルクレール自身は56周目に「まだ誰もファステストを取りそうな奴はいないか?」と念を押したが、エンジニアは「いや、誰もいない。」と返答している。
だが、グラフからも分かるように、アロンソのアタックラップはそれまでルクレールが出していたタイムを上回っており、もしルクレールが独断で最終ラップでのアタックを敢行していなければ、ここで1点を削られていた。
このルクレールの判断は、やりたかっただけなのか?念の為と考えたのか?客席モニターなどでアロンソが新品を履いたことを確認していたのか?興味深い所だ。
レッドブル&フェルスタッペン、そして現時点では問題を抱えながらも侮れないメルセデスらを相手にチャンピオンシップを戦うとなれば、このようにレースの全体像が見えていない状態では、いくらマシンにアドバンテージがあっても厳しい戦いとなってしまうだろう。
筆者はバーレーンGPレビューでもフェラーリの戦術に疑問を抱いており、昨年良くなっていたチーム力が悪化してしまっているように見える。せっかくのハイレベルなチャンピオン争いが戦略・戦術の初歩的なミスで決してしまっては興醒めだ。幸運はいつまでも続かない。フェラーリのチーム力が本調子に戻ってくれることを切に願っている。
Writer: Takumi
次回は大活躍のアルボンをはじめとする中団争いをフォーカス