Part1ではルクレール、レッドブル勢とラッセルの戦いにフォーカスしたが、こちらでは猛烈な追い上げを見せたハミルトンに着目し、メルセデスの競争力について考察してみよう。また最後尾から追い上げたアロンソと、それに対抗した角田のバトルについても見ていこう。
1. 優勝も狙えたハミルトン
予選ではラッセルに遅れを取り6番手スタートとなったハミルトン。そしてレースでは、周囲がソフトタイヤでスタートする中でミディアムを選択したが、1周目でマグヌッセンと接触。ルクレールと54秒差の19番手へと後退してしまった。
しかしそこからの追い上げは、ここまで苦戦してきたメルセデスの序盤戦からは想像できないほどのものだった。図1にフェルスタッペンとラッセルとの比較でハミルトンのレースペースを示す。
ハミルトンの実質的な第2スティント(22周目〜)はラッセルより9周新しいタイヤだが、スティント前半ではラッセルを1.9秒ほど上回るペースで、タイヤの差を換算しても0.8秒ほど優れていたことになる。(詳細は後日更新予定のレースペース分析を参照のこと)
またスティント後半では、逆にラッセルの方が12周新しいタイヤになっているが、なんとハミルトンはラッセルの0.1秒落ちで走っており、こちらもタイヤの差を換算すれば0.9秒ほどハミルトンが優れていたことになる。
またレースペース分析では、ミディアムでのラッセルはフェルスタッペンの1.1秒落ちだったことがわかっており、ここからハミルトンはフェルスタッペンの0.2~0.3秒落ちのペースだったことが分かる。
実際、フェルスタッペンの第3スティントはハミルトンより6周新しいソフトにも関わらず、ハミルトンのペースは肉薄していることがグラフから分かるだろう。1周目のアクシデントが無ければフェルスタッペンと優勝を争っていてもおかしくないだけのペースだった。
また、ミディアムタイヤではハミルトンに大きく遅れたラッセルだったが、ソフトでは決して悪くなかった点も興味深い。
第1スティントでは、ラッセルがピットに入るまでほぼハミルトンとイーブンペースだ。ハミルトンのタイヤが1周新しいことを考慮すればラッセルが0.2秒ほど上回っているとも言える。
無線での「エンジンをセーブしよう」という発言からも、ハミルトンにややモチベーションの問題があった可能性は否定しきれないが、それでもミディアムでの0.9秒という差とは別世界だ。
ラッセルはバーレーンでのミディアム、そして(おそらく)マイアミでのハードでも極端に苦戦している。或いはハミルトンが特定のタイヤ・コンディションでマシンの性能を超えたスペシャルな走りを披露しているのかもしれない。
この辺りの現象の解明はできているのだろうか?そしてそれがラッセルとメルセデスのマシンパッケージのパフォーマンス向上に今後繋がってくるのだろうか?メルセデス勢のコンディション・タイヤによる競争力のアップダウンは、今後しばらく大きな注目ポイントとなりそうだ。
2. アロンソvs角田の高度なレース
最後尾からスタートしたアロンソ。スタートでポジションを上げると、第1スティントでストロール・ベッテル・ガスリーを次々とオーバーテイクした。
そして第2スティントからは、角田とアロンソが接近した勝負を繰り広げた。図2にアロンソ、角田のレースペースを示す。アロンソと角田はS新-M新-S新-S古の3ストップで同じ戦略だ。
まずは14周目、角田がアロンソをオーバーテイク。その後もアロンソを上回るペースで引き離して行く。ミディアムタイヤでは完全にアルファタウリ&角田のペースが優っていたようだ。
しかし32周目、アロンソより1周後にピットに入った角田は今ひとつペースが上がらず、ここぞとばかりにアロンソが攻め込み、34周目にオーバーテイクした。
そしてアロンソのレース巧者ぶりがここから発揮される。
グラフより、アロンソは角田を交わしてから、角田との距離を1.2~1.4秒程度に保ってペースコントロールしていることが分かる。そして、ある程度角田にダーティエアを浴びせつつ自身のタイヤを労わると、43周目から本来のペースで走り始めた。ここで角田は離されてしまい勝負アリとなった。
昨シーズンまでは2.0秒程度の差でダーティエアの影響があり、後方のマシンはタイヤを痛めることに繋がった。しかし今シーズンはこの1.2秒付近がクリア-ダーティエアのギリギリのラインと思われ、前方のマシンは少しでも塩梅を間違えるとDRS圏内に入られて抜かれてしまう。
したがってここで見せたアロンソの走りは、非常に高度なレースクラフトの戦略と戦術だったと言えるだろう。
その一方でアロンソの絶対的なスピードにはやや不安が残る。
図3にアロンソとオコンのレースペースを示す。
ミディアムの第2スティントでは平均でオコンが0.48秒上回るペースだが、タイヤのデグラデーションを考慮しても、まだオコンが0.2秒上回っている計算になる。
ソフトの第3スティントでは平均でオコンが0.18秒上回っており、デグラデーションを考慮するとアロンソが0.1秒上回っているが、この時アロンソは新品ソフト、対するオコンは中古ソフトだ。新品と中古の差を0.2秒とするならば、ここでもオコンが0.1秒上回っている計算になる。
勿論アロンソの第3スティントは角田を意識しており、全体の平均ペース重視の走り方ではないが、オコンを上回っていないことは確かだ。
今季のアロンソの対オコンのレースペースは、サウジアラビアで0.4秒上回ったものの、バーレーンで0.5秒、マイアミで0.2秒負け、そしてここバルセロナでもやや劣勢という内容だ。昨年の中盤戦以降の圧倒ぶりを考えれば、明らかに本調子とは言えなさそうである。最高齢ではあるが、1年で急に歳をとるわけもなく、今季のガラリと変わったマシンやタイヤを理解しきれていないのかもしれない。
3. 次戦は伝統のモナコ
さて、次戦はモナコGPだ。ルクレールにとってはホームグランプリだが、ルクレール自身は競争力の面では得意としているものの、マシントラブルや戦略ミス、チームの運営上のミスなど何とも流れが悪い。それが単なる不運によるものなのか、或いは何らかの根源的な原因があるのか、今回のレースで見えてくるかもしれない。
また各チーム、特にメルセデスのポーポシングにも注目だ。低速コーナー主体ではあるものの、ダウンフォースレベルが最も高く、路面はバンピーだ。また、低速コーナーを攻める上で足回りも少し柔らかめのセットアップになると考えられ、ポーポシング対策とのバランスを取るのは意外と簡単ではないかもしれない。
再びフェルスタッペンvsルクレールの一騎打ちになるのか?或いはメルセデスが加わり、3強の戦いになるのか?予報では雨となっており、天候面も含めて予測ができないレースとなりそうだ。
Writer: Takumi