第5戦、F1サーカスはその人気が急上昇しているアメリカ、マイアミへとやって来た。サーキットは高速S字、ウォールに囲まれた低速セクション、そしてロングストレートと様々な要素を併せ持つテクニカルなレイアウトだ。今回もグラフを交えながら激闘の軌跡を振り返っていこう。
1. リバースストラテジーで大逆転
予選Q3の1回目のアタックでのミスが響き、赤旗の影響も受けて9番手スタートとなってしまったフェルスタッペン。しかしレースではハードタイヤでスタートすると、序盤から猛烈な勢いで順位を上げ、レースを通して圧巻のペースを見せた。図1にフェルスタッペンとペレスのレースペースを示す。
15周目にアロンソを交わして2番手に上がったフェルスタッペン。その後のクリアエアでのペースは圧巻だ。
まず、ペレスがタイヤを交換した後も、20周古いタイヤでペレスの0.3秒落ち程度のペースで走り続けている。そして30周目を過ぎるとさらに一段上の次元へ。ここでは何と互角のペースを見せ、38周目からのペレスのペースダウンもあり、その差を18秒以上に広げた。
ペレスがハードタイヤに履き替えてからフェルスタッペンがピットに入るまでの間を平均すると、2人のペースは互角だ。20周古いタイヤはデグラデーションを0.03[s/lap]とすると約0.6秒の不利になる。したがって、フェルスタッペンは同条件ならばペレスに対して0.6秒のアドバンテージを有していたことになり、9番グリッドからの優勝も頷ける。
今季のフェルスタッペンは開幕からペレスとの差が小さく、アゼルバイジャンでは寧ろ遅れをとっていた。本来のポテンシャル(参考:歴代ドライバーの競争力分析)を考えればやや心配になってしまう状態だったが、ここに来てここ2年で見慣れた”いつものフェルスタッペン”の姿を見ることができた。今回はペレスが苦戦した側面もあると思われるが、今後数戦で傾向が継続するか否かに注目してみたいところだ。
2. アロンソ&アストンのレースクラフト
今回アロンソとアストンマーティンが繰り広げた卓越したレースクラフトは、レースペースグラフを見ないとピンと来にくいかもしれない。図2にアロンソとサインツのレースペースを示す。
2.1. 賢い第1スティント
第1スティントを通してサインツはアロンソのDRS圏内でついて来ていた。通常この展開を見ればサインツのペースの方が優れていると考えるのが普通だ。アロンソとしては引き離さなければアンダーカットの脅威に晒されることになるため、アロンソが意図的にペースを落としてタイヤを労っているとは考えにくかった。
しかし現実は違った。サインツがピットに入っても反応せず、アンダーカットされることを気にしなかった。そして20周目からはなんと0.5秒もペースアップ。新品タイヤのサインツと互角のペースを見せた。ちなみにこのペースは先頭のペレスがピットに入る前の数周よりも速い。
アロンソがサインツの前で見せたスローペースは完全に”Fox”のそれだった。
この戦略の意図は2つ考えられる。
1つは「スティントを長くした方がタイヤに優しいアストンマーティンの特性が活きること」だ。これによって、より効率的な戦略となる。
2つ目は「ハミルトンやヒュルケンベルグの前に戻ること」だ。例え抜けたとしても遅い2台を料理するのにはタイムロスが伴う。これを防ぐには、彼らにピットストップ1回分の差をつける周回まで引っ張ることが必要だ。
いずれにせよ、これは6周のタイヤの差(デグラデーションを0.03[s/lap]として0.2秒相当)でアロンソがサインツを抜けるという信頼が前提となって初めて可能な戦略だ。移籍5戦目にして、早くもドライバーとチームの絶妙なコンビネーションが光った。
2.2. 脅威となるアロンソのリスクマネジメント
そしてハードタイヤに履き替えると、サインツより6周新しいタイヤを活かしてあっさりオーバーテイク。その後はすぐにはペースを上げず、37周目から7周だけ速いペースを刻んだ。その後2回速いラップを刻んでいることからも、アロンソの第2スティントはかなり余裕を持っていたことが読み取れる。
図3にペレスとアロンソのレースペースを示す。
アロンソが飛ばしている部分だけを切り取って、第2スティント全体でこのペースを維持した場合を想定したのが水色の補助線だ。この場合もう少しペレスにプレッシャーをかけることも出来たかもしれない。
しかしそこで無理をしないのがアロンソの強みだ。筆者は2006年のシーズンレビュー1.1.項にて「敗北を受け入れないシューマッハ」との対比で「手堅いアロンソ」と表現した。攻める時はどこまでもアグレッシブに走ることができる一方で、当時から「2位で良い」という判断ができたアロンソが、今回またしても滑りやすい路面とウォールの近いコース特性で、前を追うことを”積極的に放棄”したように読み取れる。
アロンソのこのキャラクターは、今後アストンマーティンの競争力が上がりチャンピオン争いに絡んできた時に大きな強みとなるだろう。ライバル勢にとっては大きな脅威となるのは間違いない。
3. 角田のレースペースは中団最速クラス
今回は予選で下位に沈んだ角田が素晴らしいレースを魅せた。先に行ったレースペース分析で導いたレースペースの力関係を表1に示す。
表1 レースペース分析結果
角田のレースペースはフェラーリ、メルセデス、ストロールに迫るレベルだ。詳細はレースペース分析に記したため割愛するが、第1スティントではヒュルケンベルグより明らかに速かった。そしてミディアムタイヤでハミルトンの0.2秒落ちのペースを見せており、今回はかなり競争力があった。
開幕からの数戦を見る限り、今季のアルファタウリは予選よりもレースで強みを発揮するタイプのようにも見える。加えて角田自身の洗練されたレース運びによって、決勝では最大限の結果を持ち帰って来ている。
昨今のフェラーリ、あるいは極端な例として2021年カタールGPにおけるアルファタウリのように、予選で速さを見せることがレースペースを犠牲にすることと表裏一体であることは、しばしばある。今回も今季初めてデ・フリースが角田を上回ったと思えば、レースペースでは角田が大差をつけた。
予選の速さだけでマシンの性能やドライバーの速さを論じることはできない。予選とレースペースという相反する課題に対し、最適なセットアップ上の妥協点を見つけていく必要がある。土曜日の結果の本質的な意味、すなわち「速いから速かった」「遅いから遅かった」のか、「明日を犠牲にして速かった」「明日のために遅くした」のか、その答えは日曜日まで分からない。そこがF1の面白さだと筆者は考える。
Writer: Takumi