開幕戦から非常に接近したバトルを繰り広げ続けるフェルスタッペンとハミルトンのチャンピオン争い。両者ともチームメイトに明確な差をつけ、ドライバーとしての異次元の能力を魅せてきた。今回もレースペースが拮抗する中、終盤まで勝負の行方が分からないスリリングな展開となった。
今回もグラフを交えて、彼らの激闘の軌跡を分析してみよう。
※レース用語は太字部分で示し、記事末尾に用語解説を加筆した
目次
- 今季4度目の戦略レース
- 中団勢はフェラーリに軍配
- クリーンな週末&バトルも充実の角田
- 用語解説
1. 今季4度目の戦略レース
F1において、純粋なペースが拮抗した際に勝負の行方を握る重要な要素が戦略だ。今季のフェルスタッペンvsハミルトンの王者争いは、開幕戦バーレーンGP、第4戦スペインGP、第7戦フランスGPで、両陣営が戦略の差で突破口を見出そうとする展開となった。
今回も、戦略の差によって非常にエキサイティングなレースとなったわけだが、まずは両者のレースペースをグラフで見てみよう。
Fig.1 フェルスタッペンとハミルトンのレースペース
まず、スタートで2番手ハミルトンがポールポジションのフェルスタッペンを逆転すると、第1スティントではフェルスタッペンのペースが良く、ハミルトンの真後ろで余裕を持ってついていくことができた。
ここでレッドブル&フェルスタッペンは、10周目に早めのタイヤ交換でアンダーカットを試みる。真後ろにつけている状態で先にピットに入れば、ハミルトンが翌周反応した所で、逆転は確実だ。
そこでハミルトン&メルセデス陣営はトップを死守できない以上、ピットストップを遅らせて、より大きなタイヤの差を生み出す方向へシフトするのが自然な判断だ。ハミルトンは13周目にタイヤ交換を行い、フェルスタッペンより3周新しいタイヤで第2スティントを有利に進める展開となった。
ただし、本来ハミルトンは14、15周…と走り続け、フェルスタッペンとの間により大きな差を生み出そうと考えていたと思われるが、レッドブルがペレスを12周目に入れた事は大きい。ハミルトンは5.9秒後方のペレスに逆転されることを防ぐため、13周目にピットインせざるを得なかったのだ。ここにレッドブルのチームプレイが機能している。
さて、第2スティントではハミルトンがフレッシュなタイヤを活かして、追い上げるかと思われたが、図1からスティント序盤は温存し、22周目以降で爆発的なタイムを連発していることがわかる。フェルスタッペンより0.7秒ほど速いペースはコース上でのオーバーテイクの可能性も視野に入るレベルと考えられる。そして、29周目にはフェルスタッペンの3秒以内まで迫り、この周でハミルトンがタイヤ交換を行うと、翌周でフェルスタッペンが入っても逆転は避けられない状態となった。
ここでレッドブルが取れる選択肢は2つで、(1)アンダーカットされるリスクを負ってでもタイヤが終盤まで持つ周回まで引っ張るか、(2)タイヤが持たなくなり最終盤に抜かれるリスクを負ってでも、アンダーカット防止で先に入るか、だ。
レッドブルは後者を選択したが、フェルスタッペンの言う通り、これは非常にアグレッシブな戦略と言えるだろう。ただし、一度アンダーカットされてしまえば、逆転はかなり困難だったと考えられ、非常に賢明な判断だったと言える。その理由について見ていこう。
まず第2スティントの15周目から29周目を全体を平均すると、ハミルトンのペースはフェルスタッペンを0.25秒ほど上回っている。これはタイヤ履歴の差3周分をデグラデーション0.07[s/lap]で計算するとほぼ互角と言え、ミディアムタイヤの第1スティントのようなフェルスタッペン優勢の状態ではなくなっている事が分かる。これが大前提だ。
その上で、フェルスタッペンの第2スティント終盤のタイムを見ると落ち始めており、ここから引っ張れたとしても34周目前後がいい所だっただろう。すると、ハミルトンが29周目にアンダーカットに来た場合、第3スティントではフェルスタッペンは5周しかアドバンテージのないタイヤで追い上げ&オーバーテイクを試みることになる。これでは実質ノーチャンスと言える。
このことから、29周目のタイヤ交換はレッドブルが勝つために採れる唯一の選択と言っても過言ではなかったと考えられる。
そして迎えた最終スティント。ここでフェルスタッペンはスティント序盤に抑えて走ることでタイヤをセーブし、ハミルトンが追いついてくるとペースを上げる戦術を見せた。ここでもタイヤを持たせ、且つ順位を守り切れるペース、という絶妙な塩梅が求められたが、非常に上手くやってのけた。
8周フレッシュなタイヤを活かしたハミルトンは、49周目にはフェルスタッペンの2秒以内に迫り、ラスト数周は1秒以内に迫るシーンもあり、非常にスリリングな展開となったが、オーバーテイクまでは至らず、絶妙なタイヤマネジメントに成功したフェルスタッペンに軍配が上がった。
ちなみにこの最終スティントでも、8周新しいタイヤで平均のペース差が0.6秒程度で、これも第2スティントと同様の計算をすると両者は互角だったと言える。レースペース上はどちらに転んでもおかしくない中、1回目のピットストップでアンダーカットを決断したレッドブル&フェルスタッペンがその後も正しい戦略チョイスと巧妙な戦術でトップを守り切った形となり、今季の戦略レースラウンド4は幕を閉じた。
2. 中団勢はフェラーリに軍配
シルバーストーンでマクラーレン勢にレースペースで0.4秒以上の差をつけていたフェラーリ。今回、高速S字や回り込む低速コーナーなどサーキット特性が近いCOTAでどうなるか、筆者も注目していたが、やはりリカルドに27秒差をつけ、フェルスタッペンやハミルトンからもそう遠くないペースを見せた。ルクレールとリカルド、ハミルトンの比較を図2に示す。
Fig.2 ハミルトン、ルクレール、リカルドのレースペース
ルクレールは第2、3スティントの後半でハードタイヤがかなり厳しくなっているが、第1スティントはかなり抑え目のペースで入ってタイヤを持たせている事が分かる。
第2スティントでは、タイヤが大きくタレるまではリカルドに対して0.6秒速いペースを刻んでおり、1周タイヤが新しい事を考慮しても0.5秒のアドバンテージがあった。第3スティントでも同様の計算で0.4秒ほどリカルドより速く、両スティントとも終盤にドロップオフしているため、少し無理をしている節はあるものの、今回のフェラーリは非常に競争力があった。さらにハミルトンとの比較でも第2、3スティント共に0.6秒落ちで、健闘していた。
また、リカルドがまだ脅威となる位置にいる第1スティントではタイヤをしっかり管理してスティント終盤に引き離し、第2スティント以降ではペレスにプレッシャーをかけるかのように、無理をしてでもプッシュするという戦い方も状況判断ができており見事だ。筆者としては、ルクレール&フェラーリのチーム力の向上にも目を見張る部分があると感じている。来年以降マシンの性能次第ではタイトル争いができるチームになりつつある雰囲気は明白に感じ取れるようになってきた。
3. クリーンな週末&バトルも充実の角田
今回は週末を通してクリーンに過ごした角田。予選ではソフトタイヤでのQ3進出が疑問視される声もあったが、蓋を開けてみればミディアム勢もそれほど長いスティントにはならず、大きな不利にはならなかった。角田と直近のライバルであるライコネンのレースペースを図3にて比較する。
Fig.3 角田とライコネンのレースペース
今回の角田は第1スティントでボッタスの前に止まり続けると、ピットストップを遅らせたボッタスの前にも2周居座り、巧みなブロックラインも披露した。ピットストップをしていなかったストロールに対するオーバーテイクや、後方のライコネンに対して全く隙を見せずに、タイヤもマネジメントして、最大限のペースで走り切った。
図3からもライコネンとのペースは接近しており、実力の近いライバル勢との争いを制して先頭でチェッカーを受けたことは、クリーンな週末という正しいプロセスが結果につながったという点で自信にも繋がったのではないだろうか?
続くPart2では各チーム、全ドライバーの勢力図を分析してみよう。ハミルトンとフェルスタッペンの頭抜けたペースや中団勢の奮闘も詳らかにしていきたい。
用語解説
スティント:ピットストップからピットストップまで。もしくはスタートから最初のピットストップや、最後のストップからチェッカーまで。スタートから最初のストップまでを第1スティント、1回目から2回目を第2スティント・・・と呼ぶ。
アンダーカット:前を走るライバルより先に新品タイヤに履き替えることで速いラップタイムを刻み、その間摩耗したタイヤで数周走ったライバルがタイヤを履き替えて出てきた際には自分が前に立つ、という戦略。
オーバーカット:前を走るライバルより後にタイヤを履き替えて逆転する戦略。頻繁には見られないが、タイヤが温まりにくいコンディションで新品タイヤに履き替えたライバルが1,2周ペースを上げられない場合などに起こりうる。路面の摩擦係数が低い市街地やストレートの多いモンツァなどが代表的なトラックだ。
オーバーテイク:追い抜き
タイヤマネジメント:タイヤを労って走ること。現在のピレリタイヤは温度は1度変わるだけでグリップが変わってくる非常にセンシティブなものなので、ドライバーとエンジニアの連携による高度な技術が求められる。基本的にはタイヤマネジメントが上手いドライバーやチームが勝者となりチャンピオンとなることが多く、最も重要な能力と考える人も多いだろう。