オランダGPで激しいバトルを演じたチャンピオン争いの2人。高速モンツァではなんと両雄が接触リタイヤ、マクラーレンのリカルドが優勝し、今シーズン、レッドブルもメルセデスも成し得ていない1−2フィニッシュを達成した。
彼らの戦いをグラフを使って客観的に振り返ってみよう。
※レース用語は太字部分で示し、記事末尾に用語解説を加筆した
目次
- 予選はメルセデス圧勝も…
- まさかの…
- さらにまさかの…
- 用語解説
1. 予選はメルセデス圧勝も…
今回は予選Q3でフェルスタッペンに0.4秒の差をつけたボッタスがポール、ハミルトンが2番手に続き、メルセデス勢が競争力の高さを示したかに見えた。
しかしスプリントレースでは図1のようにボッタスとフェルスタッペンが互角のペースを示した。
Fig.1 ボッタスとフェルスタッペンのスプリントレースでのペース
ここでボッタスは余力を残していたのか?を考えてみたい。
図2よりボッタスはマクラーレン勢より0.7秒速く、これでペースコントロールしていたとすると、ハミルトンはノリスより1秒前後速くても抜けなかった事になる。
スプリントレースとはいえ、メルセデス優位のトラックでフェルスタッペンとの間に2台のマクラーレンを置いて、偶数グリッドからスタートすることは避けたいはずで、そう考えるとハミルトンにそれほどのペースがあったなら抜いていた筈だ。よってハミルトンのマクラーレン勢に対するアドバンテージもボッタス同様0.7秒程度だったと思われる。するとボッタスがハミルトンを大きく上回っていない限り、ボッタスも全力かそれに近いスピードで走っていたと考えることができる。
このようにレースペースでは完全に互角にやりあえる事が分かったフェルスタッペン。レースではボッタスのパワーユニット交換によりポールポジションからスタートし、マクラーレン勢が間に挟まることで、非常に優位にレースを進められることが期待できた。
2. まさかの…
レースではスタートでリカルドが先頭に立ち、フェルスタッペンはリカルドの後方、ハミルトンはノリスの後方と、ストレートが速くオーバーテイクが難しいマクラーレンの後ろで、自分のペースを発揮できない状態になった。
今回はミディアムスタートでも第1スティントではデグラデーションが大きく(0.09[s/lap]程度)、図3のようにタイムが下がっていく展開だった。通常モンツァではオーバーカットが有効なことも多いが、今回はアンダーカットが有利に働きそうなことは明確に読み取れた。
Fig.3 マクラーレン勢のレースペース
先に動いたのはリカルドだった。フェルスタッペンのコースオフや無線での訴えからタイヤが厳しくなってきたのを察知したのだろう。前述の通りそこでフェルスタッペンが先に入れば、新品タイヤと元々のペースアドバンテージが効き、ほぼ確実にアンダーカットされ、レース後半は0.7秒ずつ離されていく展開になってしまう。従ってリカルドは先に動く必要があった。
一方のフェルスタッペンは同じ戦略では抜けないため、ステイアウトし翌周ピットに入るが、そこで11.1秒のストップ時間と大きくロスをしてしまう。これはリカルドより8.7秒長かった。これによりフェルスタッペンは一気にノリスの後ろに後ろに後退してしまう。
3. さらにまさかの…
ここでハミルトンはマクラーレン勢を破ってレースに勝つことよりもフェルスタッペンの前で確実にフィニッシュすることを選んだ。フェルスタッペンの2周後にタイヤ交換を行なったのだ。本来はハードタイヤでスタートし、ピットストップはレース後半まで引っ張って、周囲とタイヤの履歴の差を生み出した所で新品のミディアムタイヤに履き替えて、コース上でごぼう抜きをする戦略だったと思われる。
しかし、あのままハードタイヤで走り続ければ、せっかくトラブルで後方に下がったフェルスタッペンに再度逆転されてしまう。いくらタイヤの差があっても、フェルスタッペンをコース上で抜くことはそれなりのリスクが伴う。それはイモラやバルセロナの1周目のターン1や、今回の1周目のロッジアを鑑みれば相応のリスクであり、皮肉にも実際この直後にそれが証明されてしまう。そうしたリスクを避け、確実にフェルスタッペンの前で戻り、ミディアムタイヤ28周とややロングスティントになるが、0.3秒ほど落としてマネジメントして走っても抜かれはしないと思われる中、トラックポジションを重視した戦略を採った。
筆者はオランダGP付近から両陣営が相手の前でゴールすることだけを考えた方が賢明だと考えており、メルセデスはまさにそれを実行してきた形だ。
しかしメルセデスのピットストップは4.2秒かかり、ターン1でフェルスタッペンとサイドバイサイドになってしまった。ここでハミルトンもオーバーシュート気味でターン1の外側に膨らむようなラインになってしまっており、フェルスタッペンも強引に突っ込んで行っているように見える。フェルスタッペンには次戦3グリッド降格ペナルティが下った。
ハミルトンとしてはミディアムタイヤで28周という厳しいスティントで、フェルスタッペンの後ろになってしまえば、あとはチェッカーまでタイヤを労り続けるレースで負けが確定してしまう。さらに今回はルクレールやペレスも近い場所におり、終盤にピットストップをして1点をもぎ取ることもできない展開が明確に予想できた。
ハミルトンはレースの展開がよく見えているドライバーだ。上記のような諸要因も無意識に働いたのか、ハミルトンはフェアな範囲ではあるものの、「アクシデントを避ける走り」からは程遠い走りになってしまった。2012年バレンシアでマルドナードと接触した際のアクシデントと似ており、シケインであの形になれば、相手がバトンやアロンソのようなドライバーでない限りは接触してしまう。今回は完全に対極のフェルスタッペンだったので、この結果は明らかだった。
前述の通り、あそこで引けばフェルスタッペンにチャンピオンシップリードを広げられるのが確定的だっただけに、両者ノーポイントはハミルトンにとってはそこまで悪くない結果とも考えることができるだろう。
一方のフェルスタッペンも、もはやスペースがない状態で通常と大差ないスピードでターン2に向かって行っており、接触より先に結果が見えた視聴者も多かったのではないだろうか?
フェルスタッペンにとっては、メルセデス優位と考えられたトラックで、先頭に立ったものの、ピットストップ失敗で再びハミルトンに差をつけられそうな状態になってしまった所で起きたアクシデントだった。これはフェルスタッペンにとってもそこまで悪くない結果とも考えることができるだろう。
もちろん、差を広げられそうだからと言って、(故意にとは言わないが、「当たってもいいや」ぐらいの考えで)接触するリスクを普段より明らかに多く取ってバトルをする、というのはスポーツマンシップ上褒められたスタンスとは言えない。チャンピオン争いらしいといえばらしい展開になってきてしまったが、残りのレースでは是非バーレーンやフランスのような、心技体を極めた頂上決戦を期待したい所だ。
Part2ではリカルドの優勝について考察してみよう。
4. 用語解説
オーバーテイク:追い抜き
デグラデーション:タイヤのタレ。1周あたり〜秒という表現が多い。使い方次第でコントロールできる。
アンダーカット:前を走るライバルより先に新品タイヤに履き替えることで速いラップタイムを刻み、その間摩耗したタイヤで数周走ったライバルがタイヤを履き替えて出てきた際には自分が前に立つ、という戦略。
オーバーカット:前を走るライバルより後にタイヤを履き替えて逆転する戦略。頻繁には見られないが、タイヤが温まりにくいコンディションで新品タイヤに履き替えたライバルが1,2周ペースを上げられない場合などに起こりうる。路面の摩擦係数が低い市街地やストレートの多いモンツァなどが代表的なトラックだ。
スティント:ピットストップからピットストップまで。もしくはスタートから最初のピットストップや、最後のストップからチェッカーまで。スタートから最初のストップまでを第1スティント、1回目から2回目を第2スティント・・・と呼ぶ。
サイドバイサイド:横並びの状態のこと
テールトゥノーズ:前後に非常に接近している様子。前方のマシンのテール(リア)と後方のマシンのノーズ(フロント)がくっつきそうという意味。
オーバーシュート:ブレーキングで突っ込みすぎてコーナー進入でラインが膨らんでしまったり、コースアウトしてしまったりすること。