1. 分析結果と結論
タイヤのデグラデーションや燃料搭載量などを考慮し、全ドライバーのレースペースの力関係を割り出すと表1のようになった。
Table1 レースペースの勢力図
※疑問符がつく部分はオレンジ色で示した
トップ2チームに目を向けると、ミディアムタイヤではハミルトンとフェルスタッペンが高い競争力を見せたものの、ハードタイヤではペレスが2人を0.1秒ほど上回り、総合では3人が互角という評価になった。またボッタスもハミルトンに近いペースで走れている。今回は4台が非常に近い競争力で、このことも非常に見応えのあるレースに繋がった。
一方で、中団勢ではアルピーヌ、アルファタウリ、アルファロメオでチームメイト間に大差が見られた。今回はタイヤマネジメントが非常に難しかったことも関係していると思われる。
また、レースペース上はガスリーがノリスを上回っていたにも関わらず、リザルトでは後塵を拝してしまったのは、17周目という早めのタイヤ交換が災いしたことがポイントだ。ノリスは24周目まで引っ張り周囲と明確なタイヤの差を生み出したため、フェラーリ勢を難なくパスして行くことができた。
アロンソも本来のペース的には優れていたものの、第1スティントでフェラーリ勢の後方を走りながらタイヤを傷めて順位を落とし、早めのピットストップとなったことで、レース後半でのペースをガスリーやリカルドへのオーバーテイクまで繋げることができなかった。
戦略で失敗したアロンソとガスリーに対し、マクラーレン勢はペース的に劣勢な中で非常に上手くやったと言える。
フェラーリ勢はタイヤのデグラデーション・グレイニングに特異性が見られるため、定量的な比較として適切かどうかは疑問符が残った。フェラーリ勢はハードだけなら、ハードタイヤで最速だったペレスの0.8秒落ちと競争力があった。それだけに、第1スティントで異常摩耗がわかっていたミディアムを履かせたルクレールの戦略には首を傾げざるを得ない。
2. 分析内容の詳細
以下に分析の内容を示す。フューエルエフェクトは0.06[s/lap]で計算した。
また、各ドライバーのクリーンエアでの走行時を比較するために、全車の走行状態をこちらの記事にまとめた。
2.1 チーム毎の分析
まずチームメイト比較を行う。
第1スティントで比較すると、フェルスタッペンはペレスを0.2秒ほど上回っている。後のハミルトンとのレース展開から考えて、フェルスタッペンの11周目以降のペースにダーティエアの影響は加味する必要はないと思われ、これを両者の差と素直に受け止めよう。
因みに第2スティントの重なっている部分ではイーブンペースで、フェルスタッペンのタイヤが6周古いことをデグラデーション0.06[s/lap]で考慮すると、実力的にはフェルスタッペンが0.4秒ほど速いことになる。しかし、ペレスがロングスティントを見据えてペースを抑えており、37周目から0.7秒程タイムアップしていることを考えると、このスティント全体でデグラデーション0.06[s/lap]で走った場合、この部分で0.5秒ほど速かった計算になる。これはペレスはハードタイヤではフェルスタッペンより0.1秒ほど速かったことを意味する。ただし、路面コンディションのなど問題もあるため、参考値程度の比較となる。現時点では第1スティントの0.2秒を両者の差とし、チームを跨いだ分析での間接的な比較に課題を託そう。
Fig.2 メルセデス勢のレースペース
第1スティントでは、ダーティエアの可能性が十分に小さいと見た場合、0.4秒差だ。
第2スティントをトータルで比較すると、ハミルトンが0.1秒ほど上回るペースだ。ボッタスのタイヤが2周古いことをデグラデーション0.06[s/lap]で考慮すると、実力的には互角だったと言える。
しかしハミルトンはフェルスタッペンをアンダーカットすることを狙って、タイヤを使ってでもフェルスタッペンの背後を追走し続けたとも考えられ、その場合はハミルトンが0.3秒上回るペース、すなわち実力的に0.2秒ほど上回っていた事になる。
戦略的な流れからは、後者の可能性の方が高いだろう。現時点では疑問符付きで0.2秒とする。
Fig.3 マクラーレン勢のレースペース
まず、第1スティントでリカルドがピットに入ってから、0.6秒ほどタイムを上げており、疑問符付きでシンプルに概算して、0.3秒ほどノリスが上回っていたのではないかと考えられる。
また第2スティントでは、ノリスが0.6秒ほど上回っているが、リカルドのタイヤが8周古いことをデグラデーション0.04[s/lap]で考慮すると、実力的には0.3秒程度だったと考えられる。
よって第1スティントの疑問符は消して、0.3秒を両者の差として問題ないだろう。
Fig.4 アルファタウリ勢のレースペース
第2スティント前半で、ガスリーがトラフィック内でどんなタイヤの使い方をしていたかによるが、マネジメントできてたとするなら、スティント全体を見て、角田を0.6秒ほど上回っている。タイヤを使っていたとしても0.8秒ほどで、最後にリカルドに追いついていなければもう少し速かったことも加味しつつ0.8秒差を採用して良いだろう。角田のタイヤが2周古いことをデグラデーション0.06[s/lap]で考慮すると、実力的には0.7秒ほどと言える。
Fig.5 アルピーヌ勢のレースペース
戦略が異なり直接の比較は不可能。
Fig.6 アストンマーティン勢のレースペース
第1スティントでベッテルが0.2秒ほど上回っている。
また第2スティントでは、サインツを交わした後のストロールが本来のペースで走っていないと思われるため、比較は不適切と言える。
Fig.7 フェラーリ勢のレースペース
2台ともデグラデーションに苦しんでいるが、第2スティントは(ダーティエアを考慮しても)中盤で、序盤と終盤と比べてタイムを落としすぎている。その後ペースが回復してからは、サンプルが少ないが、サインツの方が0.2秒ほど速そうだ。ルクレールのタイヤが3周古いことをデグラデーション0.06[s/lap]で考慮すると、イーブンペースと言える。
Fig.8 ウィリアムズ勢のレースペース
第2スティント前半で、ラッセルが角田の後ろでタイヤを温存できている前提で考えると、スティント全体を通してラッセルが0.3秒ほど上回っている。ラッセルのタイヤが1周古いことは、デグラデーションが0.02[s/lap]と小さいため考慮する必要がない。
Fig.9 アルファロメオ勢のレースペース
第2スティントで比較するとライコネンが0.8秒ほど上回っている。ジョビナッツィのタイヤが5周古いことを、デグラデーション0.06[s/lap]で考慮すると、実力的には0.5秒程度と言える。
Fig.10 ハース勢のレースペース
戦略が異なり、直接の比較は不適切と考えられる。
2.2 チームを跨いだ分析
2.2.1 第2スティントでハードを履いたドライバーなど
まず、図11にフェルスタッペン、ハミルトン、ペレスの比較を示す。
Fig.11 フェルスタッペン、ハミルトン、ペレスのレースペース
ペレスは第2スティントでハミルトンを0.4秒ほど上回っている。ハミルトンのタイヤが5周古いことをデグラデーション0.06[s/lap]で考慮すると、実力的にはペレスが0.1秒ほど上回っていたと言える。
一方で第1スティントではハミルトンが0.2秒ほど上回っており、今回はタイヤによって勢力図が変わる展開となっている。
続いてフェルスタッペンは、第1スティントでハミルトンとイーブンペースだ。また第2スティントではハミルトンに接近されているため、ハミルトンにペースアドバンテージがあったように見えがちだが、1周分(0.06秒のタイヤ性能差)のタイヤ履歴の違いと、前述したハミルトンがフェルスタッペンのアンダーカットレンジ内に留まることを重視していた可能性を踏まえると、ここでも互角の力関係は継続していたのではないかと考えられる。
これをチーム別分析の結論と合わせると、第1スティントのボッタスはダーティエアの影響を受けており、第2スティントでのハミルトンと0.2秒差が変わらなかった可能性が高く、トップ4台の中ではペレス1人がハードタイヤで競争力を増したと考えられる。
続いて、ペレスとノリス、ガスリーを比較してみよう。
Fig.12 ペレス、ノリス、ガスリーのレースペース
第2スティントでは、ペレスはノリスを1.0秒ほど上回っている。タイヤの差はない。
また、第2スティントで、ガスリーはペレスの1.3秒落ち程度だ。ガスリーのタイヤが7周古いことをデグラデーション0.06[s/lap]で考慮すると、実力的には0.9秒落ち程度だったことになる。
続いてアロンソとガスリーの比較だ。
Fig.13 アロンソとガスリーのレースペース
アロンソはレース後半、終始ガスリーを追い回しており、ガスリーのペースを上回っていたのは確かだ。一瞬差が開いた43,44周目にガスリーより0.4秒速いペースを刻んでいるが、これは一時的にバッテリーを充電して出したとも考えられる。その前の2周との平均はガスリーより0.2秒ほど速く、また、その後2秒以内に入ってからも同様に0.2秒速いタイムを刻んでいる。前者についてはエネルギーの効率的使用ではないこと、後者に関してはタービュランスの影響から、もう少し速かった可能性はあるものの、ガスリーに対する0.2秒リードとしよう。タイヤの差はデグラデーションが小さいため考慮する必要はない。
続いてペレスとサインツの比較だ。
Fig.14 ペレスとサインツのレースペース
サインツは第1スティントでペレスの1.6秒落ちだ。
第2スティントでは1.2秒落ち程度で、サインツのタイヤが7周古いことをデグラデーション0.06[s/lap]で考慮すると、実力的には0.8秒程度となる。
ミディアムの異常摩耗をレースペースの定量的な比較の真値に含めるかは、賛否があることと思われるが、ここでは疑問符付きで単純に両者を平均して、ペレスの1.2秒落ちとしておこう。
続いて、ラッセルとシューマッハをペレスと比較してみよう。
Fig.15 ペレス、シューマッハ、ラッセルのレースペース
第2スティントで、ラッセルはペレスの2.0秒落ち程度だ。ラッセルのタイヤが7周古いことをデグラデーション0.02[s/lap]で考慮すると、実力的には1.9秒落ちと言える。
シューマッハはペレスの2.6秒落ち程度だ。シューマッハのタイヤが9周古いことをデグラデーション0.02[s/lap]で考慮すると、実力的には2.4秒落ちといえる。
2.2.2 ハードスタート組を紐解く
ここからはハードでスタートしたドライバー同士の比較をしつつ、最終スティントにミディアムタイヤを履いたフェルスタッペンとの比較を通して、ミディアムスタート組との間接的な比較を行おう。
Fig.16 フェルスタッペン、オコン、ベッテルのレースペース
図16から、第2スティントでオコンはフェルスタッペンの2.1秒落ちのペースだ。オコンのタイヤが4周古いことをデグラデーション0.08[s/lap]で考慮すると、実力的には1.8秒落ちと言える。
ただし、これを2.1の結果に当てはめると、アロンソの1.2秒落ちとなり、にわかに信じがたいため、念の為オコンの第1スティント終盤とアロンソの第2スティント前半を比較する。
Fig.17 アロンソとオコンのレースペース
アロンソの第2スティントをトラフィックとタイヤのデグラデーションの差を考慮すると、オコンがクリーンエアで走っているスティント終盤で2.5秒ほど速かったと考えられる。ここにオコンのタイヤが18周古いことをデグラデーション0.07[s/lap]で考慮すると、やはりアロンソが1.2秒ほど上回っていたことになる。
有効数字の関係上、正確な数値とは言い切れないが、フェルスタッペンとの比較において発生したオコンのペースに対する疑問符を消すには十分だ。
また、ベッテルはフェルスタッペンの0.9秒落ち程度だ。フェルスタッペンのタイヤが5周古いことをデグラデーション0.09[s/lap]で考慮すると、実力的にはフェルスタッペンの1.4秒落ち程度と言える、
続いて、ライコネンとマゼピンをフェルスタッペンと比較してみよう。
Fig.18 フェルスタッペン、ライコネン、マゼピンのレースペース
ライコネンは第2スティントでフェルスタッペンの1.5秒落ちだ。フェルスタッペンのタイヤが1周古いことをデグラデーション0.09[s/lap]で考慮すると、実力的には1.6秒落ちと言える。
マゼピンは第2スティントでフェルスタッペンの3.0秒落ちだ。マゼピンのタイヤが1周古いことをデグラデーション0.09[s/lap]で考慮すると、実力的には2.9秒落ちと言える。
以上、2.2.1と2.2.2の結果を総合し、表1の結果を得た。