来年からは春開催となる日本GP。したがって当面は今回が、秋の鈴鹿を堪能できる最後のチャンスとなる。予選からドライバーズサーキットの名に相応しい展開となった今回のGP。本記事ではデータを交えつつ、各チーム、ドライバーの激闘の軌跡を振り返ってみよう。
1. フェルスタッペンの圧倒的予選パフォーマンス
今回はフェルスタッペンが2位ピアストリに0.581秒の差をつけてポールポジションを獲得した。僚友のペレスとも0.773秒の差がついており、もはやレッドブルのマシンが圧倒的と考えるより、フェルスタッペンが生み出すコンマ数秒が作り出している現在のレッドブルの独走という側面が強いかもしれない。
まずはフェルスタッペンのポールラップの車載映像を、F1公式のYouTube動画よりご覧いただこう。
Max Verstappen’s Mighty Pole Lap | 2023 Japanese Grand Prix | Pirelli
続いて、図1にフェルスタッペン(青)とペレス(白)のQ3のベストラップのテレメトリデータを示す。
上段が速度、下段がタイム差である。これを見ると、フェルスタッペンがターン1~2、S字から逆バンクにかけて着実にペレスに差をつけているのが分かる。その後のデグナー然りだ。特にS字の2つ目、3つ目、デグナーでは遠目に見ても明らかな速度差がついている。
タイム差を見れば、デグナー1つ目までは、ペレスのグラフが一瞬たりとも右肩下りになっていない。鈴鹿をドライバーズサーキット足らしめているこの区間で、フェルスタッペンはチームメイトに対して劣る部分が1m足りとも無かったということだ。
唯一ヘアピンではペレスがやや差を縮め、スプーンまでの間に0.05秒ほど詰めている。フェルスタッペンの車載映像を見ても、ヘアピンではややスムースな操作ができておらず、コーナーの進入時にステアリングを切るのを一瞬やめ、その後切り足している。
そしてスプーンでは再び僅かにフェルスタッペンが速く、シケインでは大きくリードを広げた。
ここで、フェルスタッペンのQ3での1回目(白)と2回目(青)のアタックを比較してみよう。
フェルスタッペンの最終アタックは、自身のQ3の1回目のアタックよりもS字でかなりスピードをキャリーしている。さらにデグナー2つ目でも詰め、スプーン2つ目の進入で攻めすぎたか立ち上がりが遅れているが、シケインで再びゲインしている。
このように、フェルスタッペンは1回目の自身のアタックよりも細かい部分を詰めていくことで、さらなるタイムアップを成し遂げた。鈴鹿サーキット、特にS字やデグナーは攻めることをタイムアップに繋げるのが非常に難しい特性を持つ。そんな中でこの走りができるのは、フェルスタッペンのフェルスタッペンたる所以だろう。
さて、決勝についても軽く触れておこう。図3にフェルスタッペンとマクラーレン勢のレースペースを示す。
今回も第1スティントが全てだった。スティント序盤こそノリスが0.3秒程度のペース差でついて行けたが、フェルスタッペンの方がデグラデーションが小さく、次第にペース差が大きくなった。そして第2スティント以降では後ろを見ながらペースをコントロールしているように見える。
シンガポールでまさかの不調に見舞われたレッドブル勢だったが、今回もペレスが予選でマクラーレン、フェラーリに食われ、レースもとっ散らかり気味と、完全復活とは言い切れないだろう。しかしそんな中でも、フェルスタッペンは世界屈指のドライバーズサーキットで水を得た魚の如き独走での優勝を飾った。
ペレスもドライバーズランキング2位につけており、レッドブルのマシンが遅いとまでは言うべきではない。だが、フェルスタッペンの存在がレッドブルチームを数段上に押し上げていることを分かりやすく示唆する、そんな日本GPだったのは確かだろう。
2. サインツの戦略は真っ当だったか?
さて、今回筆者が気になったのはサインツの戦略だ。2回目のピットストップであっさりハミルトンのアンダーカットを許し、ステイアウトしてタイヤのオフセットを作ってレース終盤に追いついたがオーバーテイクには至らず、6位チェッカーとなってしまった。
ここでは、ハミルトンの翌周にカバーしに行かなかったこの戦略について分析する。図4にハミルトン、サインツのレースペースを示そう。
まずハミルトンがピットに向かう直前の34周目、両者の差は3.3秒だった。
そして図4を見ると、ハミルトンの第3スティント2周目はサインツよりも3秒近く速い。アウトラップの爆発力がそれ以上ならば、翌周反応してもカバーしきれない可能性がある。フェラーリ側がこの数字を予めシミュレートしていたならば、ステイアウトしてタイヤのオフセットを作るという考え方には一定の正当性があると言えるだろう。
一方で、ハミルトンのピットでの静止時間は3.0秒と長めで、アウトラップもそこまで速くは無かった。実際スプーンに差し掛かるあたりでは両者の差は24秒で、ピットでのロスを22秒とすると2秒余裕があった。そしてそこからの区間はスプーンとシケインの2つの複合コーナーしかなく、タイヤの差が出にくいことを考慮すれば、サインツはここで入っても前に出られると結論づけることは可能なはずだ。
(ちなみに、比較ポイントをスプーン手前としたのは、サインツがシケイン手前でピットに入るか否か判断しなければならないギリギリのタイミングでハミルトンが通過するのがそのポイントだからである。)
これらを総合すると、フェラーリは来年以降チャンピオンを狙うチームだ。それならば35周目のストレートでサインツに「地獄のようにプッシュしろ!」と指示し、2.1秒のピットストップで送り出して前を抑えようというぐらいの気概があっても良かったのではないだろうか?ましてやここは抜きにくい鈴鹿だ。
少なくとも筆者には、今回のフェラーリの戦略は昨年のモナコのように特別悪いとまでは言わないまでも、あまりにコンサバだったように見受けられた。
3. 2週間後も高速サーキット
今回の日本GPは、フェルスタッペンの圧巻の走りとレッドブルのコンストラクターズタイトル決定、マクラーレン勢の健闘、角田のQ3進出など、見どころ満載のレースだった。
しかし、まだシーズンは終わっていない。2週間後はカタールGPだ。鈴鹿ほど起伏に富んでいるわけではないが、コーナーの速度域がかなり高く、ザンドフールトや鈴鹿と近い特性のトラックとなる。したがって、再びフェルスタッペンが後続に差をつけ、マクラーレン勢が表彰台に最も近い存在となるだろう。メルセデス、フェラーリ、アルピーヌやペレス、アロンソらも非常に接近したペースになると予想される。
各チーム・ドライバーが鈴鹿でのデータを踏まえ、どんなサプライズが起きるのか?フェルスタッペンのドライバーズタイトルはここで決まるのか?まだまだ楽しみ満載のGPとなりそうだ。
Writer: Takumi