今回も【Race Impression】として管理人の簡単な感想を書き連ねてみよう。
1. 戦略失敗も最後まで攻め続けたベッテル
今回で引退レースとなった4度の王者ベッテル。第1スティントではペースの上がらないオコンを追い回したが、最後はリカルドの後ろ10番手でのフィニッシュとなってしまった。
図1にベッテルとリカルドのレースペースを示す。
ベッテルの第1スティントはオコンの後方でダーティエアで進んだが、クリアエアを得た15,18,19周目のタイムはかなり速いことが分かる。詳しくは後日行う「レースペース分析」にて明らかにするが、おそらくオコンより0.3秒前後速かったのではないだろうか?
だが、ここから前が開けたからといって第1スティントを引っ張ったのは大失敗だった。スティントを引っ張る際は、ピットストップを済ませた上位勢に抜かれる際のタイムロスを考慮すべきだ。今回のベッテルは16周目にペレス、20周目にサインツ、21周目にラッセル、23周目にハミルトン、24周目にはノリスに交わされている。図1にてクリアラップと抜かれるラップを比較すると、それが如何に損なことか分かるだろう。
また、ミディアムタイヤ(以下ミディアム)のデグラデーションは0.14[s/lap]と大きかったのに対し、ハードタイヤ(以下ハード)に履き替えると0.06[s/lap]と小さかったのも痛かった。こうなると、アンダーカットの優位性が高まる一方で、後半のハードスティントをライバルより新しいタイヤで戦うメリットが小さくなってしまうからだ。これによって、同じ1ストップでもベッテルより6周前に交換したリカルドにアンダーカットを許し、最後まで抜き返すこともできなかった。
1ストップそのものが致命的に悪かったわけではなく、引っ張りすぎたことが「デグラデーション」「ピットストップ組に抜かれる際のロス」の2点で響いてしまったことが問題だったと考えられる。
2. 三者三様の上位争い
図2にフェルスタッペン、ルクレール、ペレスのレースペースを示す。
(1)老獪なフェルスタッペン
フェルスタッペンは第1スティントでペレスとルクレールを引き離すと、第2スティント序盤はかなり抑えて入り、その後も1ストップを確実に成功させるべく、ルクレールを見ながら最小限のペースで走っていることが読み取れる。
全力疾走せずとも勝てる展開では、無駄に飛ばしてタイヤを壊すリスクを負うよりも、2番手と同じペースで走る方が賢い。この辺りも非常にクレバーなスイッチの切り替えと言えるだろう。
(2)激闘の2位争い
レース終盤には1ストップのルクレールに対し、2ストップのペレスが猛追する展開となった。最終的には1ストップのルクレールが僅差で逃げ切ったが、この戦いを紐解いてみよう。
第2スティントのルクレールは、ペレスより6周新しいタイヤでギャップを詰めてペレスの背後に。その差が1.3秒となった33周目にはエンジニアから「Box、ペレスの逆をやれ」と無線が飛ぶ。そしてペレスが入ったためルクレールは逆のステイアウトを選択。その後も1ストップを貫き、終盤の大接戦へと繋がった。
ピットストップ後のペレスのペースはルクレールより平均0.8秒速い。これはタイヤのデグラデーションの計算上の数値より0.1秒速いものだ。さらに39周目にはルクレールのみがシューマッハとラティフィの事故の煽りを食ってしまったことで風向きはペレスに。
しかしペレスは45周目にハミルトンを抜く際にシケインでロックアップ。抜き返されてしまい、ここで1秒近くロスがあった。最終ラップのDRSゾーンに入る際の差は1.7秒。このワンミスの影響は決して小さくなかったと言えるだろう。
ちなみに、ルクレールとしては「Box、ペレスの逆をやれ」の無線のタイミングが早すぎてペレスに反応されてしまったのは痛かったが、これが無くても2ストップのルクレールが1ストップのペレスに追いついていたのは最終盤の計算で、どちらでも大差はなかっただろう。また、ペレスのBoxの数周後に入って履歴の差で抜くという手もあったが、デグラデーションがそこまで大きくない中では数周足りない計算で、今回のフェラーリの判断は妥当なものだと考えられる。
3. F1も勝者
今年のF1は、背後についてもダウンフォースの損失が少なく、追走できる=オーバーテイクしやすい特性をコンセプトとした新規定のマシンに生まれ変わった。実は今季ここまでのレースでもレースペースのグラフに明らかな傾向が度々見受けられたが、今回のハミルトンとラッセルのグラフは印象的だった。図3に両者のレースペースを示す。
ハミルトンは第2スティントでラッセルより速く、35周目にはその差が2秒を切った。しかしハミルトンのペースは落ちておらず、ようやくドロップオフの傾向が見え始めたのが38周目。この時にはもうラッセルの1秒以内に入っていた。
昨年まで当サイトでは基本的に2秒以上の間隔でクリアエアとしてきたが、今季は早い段階からこの傾向を目の当たりにし、1.0~1.5秒付近でペースの落ち方などを見つつ臨機応変にクリアエア、ダーティエアの扱いを判別してきた。
最終戦でかなり分かりやすい形で出た今季のマシン特性。10のチーム、20人のドライバーと同様にF1そのものも非常に優れた仕事をした形跡がここにある。
Writer: Takumi
※より詳細なレースペース分析、レビューは11/22(火)以降アップロード予定。