• 2024/11/21 17:46

2022年イタリアGPレビュー 〜速さ×巧さの完勝劇〜

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 ローダウンフォースのスパ・フランコルシャンで圧勝を飾ったフェルスタッペン。空力的には似た特性を持つ超高速モンツァサーキットでも同様の独走劇が予想された。蓋を開けてみれば、フェラーリ勢が善戦はしたものの、やはりフェルスタッペンが頭ひとつ抜けたレース展開となった。

各ドライバーの使用タイヤはこちらのピレリ公式より

初心者向けF1用語集はこちら

1. 予選でスーパーラップを刻んだルクレール

 今回はサインツ、フェルスタッペン、ペレス、ハミルトンにPUコンポーネント交換のグリッドペナルティがあり、ルクレールとしてはラッセルに勝ちさえすればポールポジションという状況だった。したがって、予選重視のセットアップをする必要はほぼ皆無で、トップ3チームの6台が全車レースに重きを置いていたと考えられる。

 その中でルクレールは、レッドブル優勢の下馬票を覆してポールポジションを獲得した。

 「リスクを取った」との本人の弁の通り、その走りは非常にスリリングなものだった。レズモ1に代表されるように、オーバーステア気味のセットアップ特性を利用して高い速度でコーナーに進入しつつ向きを変え、そのセットアップ特性ゆえにスピンする一歩手前の状態でコーナリングしつつもアクセルコントロールでリアの動きを制御し、高い速度で立ち上がっていた。これは最近のルクレールの象徴的なドライビングだ。

 このフェラーリ&ルクレールのパッケージだと、鈴鹿のS字やデグナー、スプーンでも同様のアクセルコントロールの妙技が見られるかもしれない。さらに鈴鹿のようなサーキットではフロントタイヤを守ることにも繋がるやり方と考えられ、1ヶ月後が非常に楽しみになるポールラップだった。

F1公式YouTubeのポールラップ
(音が0.03秒前後遅れており、差し引いて見る必要あり)

2. 速さと巧さのレッドブル&フェルスタッペン

 しかし、レースになるとフェルスタッペンが7番手から追い上げ、2周目には3番手、5周目にはラッセルを交わして2番手に上がり、12周目にはルクレールまで1.3秒差まで迫っていた。しかしここでVSCが出動した。

2.1. VSC時に別れた判断

 ここでルクレールはピットへ。対するフェルスタッペンはステイアウトを選択した。この判断はどうだったのだろうか?現実で終盤に入ったSCは無視するとして、図1に2人のシミュレーションギャップグラフを示す。条件は以下の通りだ。

・ソフトとミディアムの差を無視
・フェルスタッペンとルクレールが同条件で互角のペース(12周目時点では不明のため)
・フューエルエフェクトは0.06[s/lap]
・タイヤのデグラデーションも0.06[s/lap]
・ピットストップロスタイムは24.0秒、SC・VSC時で17.0秒

図1 フェルスタッペンとルクレールのシミュレーション

 スタートからの過程はこの際関係ないとして、12周目にルクレールが1.3秒差のトップからピットに入った場合を考えよう。チェッカーまでを大きく3つのパートに分けることができる。

 まず①はルクレールが約16秒後ろに下がり、12周分新しいタイヤで0.7秒ずつ追い上げるパートだ。

 次に25周目、今度はフェルスタッペンがピットストップを行う。約17秒後方から13周分新しいタイヤで0.8秒ずつ追い上げるのが②のパートだ。

 そして33周目にルクレールがピットに入ると、今度は8周分新しいタイヤで0.5秒ずつ追い上げていく。ここが③のパートだ。

 結果的にルクレールはフェルスタッペンの3秒後方でレースを終えることになる。

 フェラーリが12周目のVSCでボックスの判断をしたからには、フェラーリとしては異なるシミュレーションをしていたのかもしれないが、少し冒険をしすぎた印象も否めない。

 ステイアウトを選んだ場合はもう少し相手を苦しめられる。フェルスタッペンが入れば、相手に計算上そしてトラックポジション上不利な戦略を採らせることができる。またフェルスタッペンが入らなければ、ピットストップ前後の攻防さえ守り切れば、コース上で抑えきって勝利というチャンスも十分見えてくる。

2.2. 実際のルクレールとフェルスタッペンの力関係

 上記シミュレーションはルクレールとフェルスタッペンが同等の力であることを前提とした。だが、実際はどうだったのだろうか?

 これは少なくとも12周目の段階では分からず、意外と複雑な話となっている。以下に2人の実際のレースペースを示す。

図2 フェルスタッペンとルクレールのレースペース

 第2スティントのVSC開け14~24周目では、ルクレールがミディアム、フェルスタッペンがソフトだが、タイヤの差を換算するとフェルスタッペンが0.4秒ほど上回っている。ただしフェルスタッペンはスティント後半でタイヤを使い切ろうという状態、ルクレールはスティント前半でタイヤを守っている状態と考えられ、フェルスタッペンに有利な数字と考えられる。

 また、28~32周目(両者ミディアム)で見れば、タイヤの差を換算した上で2人が互角であるという結果が出る。ただしこちらは逆にフェルスタッペンがスティント前半、ルクレールがスティント後半で、ルクレールに有利な数字になっている。

 一方ルクレールが第3スティントに入った35周目以降では、ルクレールがソフト、フェルスタッペンがミディアムだが、タイヤの差を換算するとフェルスタッペンが0.2秒ほど上回っている。

 これらを総合すると、ソフトとミディアムは実際に同程度のロングランパフォーマンスで、フェルスタッペンがルクレールを同条件で0.2秒上回る力を有していたと導くことができる。

 となるとVSCが出た際、ルクレールがステイアウト、フェルスタッペンがピットに入っていた場合でも、フェルスタッペンが素の速さで追い上げて勝つことができる。それが図3の展開だ。

図3 フェルスタッペンとルクレールのシミュレーション2

 ただし、この場合でも追いつくのはラスト3周とタイトな戦いになる。

 さらに現実世界のルクレール同様、フェルスタッペンがピット通過中にグリーンフラッグとなり2秒ほどロスをすることになる。となれば、今回のフェルスタッペンの速さを持ってしてもVSC時に入っていれば、かなり際どい戦いになっていたと考えられる。

 ちなみに12周目にレッドブルはフェルスタッペンに「Box、ルクレールの逆をやれ」と指示している。つまり、ルクレールがステイアウトした場合は本項でのシミュレーションに近い展開になった可能性が高いだろう。

 一方で、ルクレールのステイアウトに対して一緒にステイアウトしても、それなりに難しいレースになる。今回はアンダーカットはそう簡単ではなかった。18周目にリカルドの真後ろからアンダーカットを仕掛けたガスリーに対し、19周目に反応したリカルドがポジションを守っていることからも、それが確認できる。オーバーカットもルクレールが引っ張れば厳しくなってくるだろう。

 最も可能性を作れるのは履歴の差を作るやり方だ。デグラデーションが0.06[s/lap]ならば、5周引っ張った場合0.3秒のアドバンテージを作れる。元々のフェルスタッペンの0.2秒の速さを上乗せして0.5秒のペース差があれば、抜けるかもしれない。ただし、今回のフェラーリはストレートが速く、それもイージーとはいかなかっただろう。

 よってVSC時にルクレールと戦略を分け、「速ければ勝てる」状況を作り出しそうとした「Box、ルクレールの逆をやれ」の判断自体は正しかったと言えるだろう。

 このように今回スピード面で明確なアドバンテージがあったフェルスタッペンだが、VSCでフェラーリがルクレールを入れていなければそれなりにタイトなレースとなっていた可能性がある。フェラーリとしては相手に一番楽な展開を与えてしまったという見方もでき、もう少し相手を苦しめることを考えても良かったのかもしれない。そしてレッドブル&フェルスタッペンとしては、またしても「巧いレース」を魅せたと言えるだろう。

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Writer: Takumi