※11/29 アロンソのミスの項目を修正
長い2023年シーズンも閉幕を迎えた。ここからは全チーム・全ドライバーに個々に焦点を当てて振り返りを行なっていこう。
比較に関する補足説明
当サイトでは、各GPにおいて予選とレースペースのチームメイト比較を行なっている。予選ではドライコンディションのみに絞り、最後に2台が共に走ったセッションでの比較を行なっている。ただし、両者ともクリーンなラップを走り、プッシュしている場合のみに限っている。例えば、一方が大きくミスをしている場合は比較対象としない。また、一方がポールポジションを争える状態で、他方がQ2落ちのような状況では、Q2のタイムで比較した際に一方のドライバーが本気でプッシュしていないことがある。これも比較対象から外す。これは、年間の予選一発の競争力の平均値を意味あるものにするためで、ドライバーの力を定量的に評価するためにベストの手法だと判断した。
またレースペースに関しても、ドライコンディションのみに絞り、燃料搭載量とタイヤのデグラデーションは勿論のこと、レース文脈(クリアエア、ダーティエア、タイヤの労り方、プッシュの必要性など)も考慮して、0.1秒を超える誤差が出ないよう算出している。
1. レッドブル
表1に予選でのチームメイト比較、表2にレースペースの比較を示す。
表1 フェルスタッペンとペレスの予選ペース比較
表2 フェルスタッペンとペレスのレースペース比較
予選では、特に中盤戦でペレスがQ2で落ちてしまい、フェルスタッペンとの比較ができないケースが相次いだ。そこを空欄とした以上、年間平均の値はフェルスタッペンにとってやや不利な数値だ。またレースペースでも、フェルスタッペンが後ろを見ながら首位を独走する一方で、ペレスはライバルとのレースで本気でプッシュしているといった状況が多く、ここでもフェルスタッペンに不利な数字が出ている可能性が高い。よって、予選・レースペース共に、表に記した数字以上の差があったのは確かだ。
全体としてフェルスタッペンは、年間を通して極めて一貫性が高い点が印象的だ。シーズン序盤はやや苦戦したように見受けられるが、マイアミ以降は特にレースペースで圧倒的なパフォーマンスを見せた。
一方ペレスは中盤戦の予選での苦戦が目立ったが、レースペースを見ると、マイアミGPからカタールGPまでかなり長きにわたってフェルスタッペンに大差をつけられてしまった。しかしシミュレーターでの作業が功を奏したのか、サンパウロGP以降は一貫してフェルスタッペンと0.2秒差のレースペースを示している。これで一皮剥けた感はあり、来季に向けて期待を抱かせる終盤戦となった。
また、純粋なペース以外の面についても触れておこう。
今年のフェルスタッペンは「速さ」以上に「強さ」が目立った。週末の中で特に重要な局面を理解し、そこを必ず抑える。決めるべき予選、決めるべきスタートを決め、後方に沈んだ際には的確にリスクをマネジメントしつつ、大胆なオーバーテイクを繰り広げてくる。また後半戦ではマクラーレンやメルセデスとの差が小さいレースでも要所を押さえて勝利をもぎ獲ってきた。
当サイトの分析でも、トップドライバー間での純粋なペースの差はそれほど大きくない。
※参考
歴代ドライバーの競争力分析【予選編】
歴代ドライバーの競争力分析【レースペース編】
だからこそ、スピードをポイントに還元し、チャンピオンを獲得するためには「強さ」が必要になる。そしてそれは単なるスカラー量ではなく、多次元のベクトルのようなものである。すなわち同じように強くても、フェルスタッペンの強さとアロンソの強さ、ハミルトンやルクレールの強さは異なる。そうした個性がコース上で互いに影響を及ぼしあうことで、スポーツとしてのダイナミクスと予測不能性が生まれ、よりレースがエキサイティングになる。来季、ライバルチームの戦闘力が上がった際に、今のフェルスタッペンと彼らの争いにどんなハーモニーが生まれるのか、楽しみだ。
2. メルセデス
次はメルセデス勢について見てみよう。
表3 ハミルトンとラッセルの予選ペース比較
表4 ハミルトンとラッセルのレースペース比較
予選では両者が完全に互角となった。僅差の予選は意外と少なく、一方が他方にある程度の差をつけるシーソーゲームが続いたような状態だ。
一方、レースペースではハミルトンのワンサイドゲームとなっており、2014年以降のレースペースを重視するハミルトンの傾向が今年も明確に示された。ここ2年はマシンに手を焼いたが、ドライバーとしてのハミルトンの実力は、未だに全盛期と考えて問題ないだろう。
両者のレースペースの差が0.2秒となるのは2年連続であり、段々とラッセルの力の真値が見えてきた。ちなみに、前述の歴代ドライバーの競争力分析より、ハミルトンがレースペース重視に寄っているのであって、ラッセルが予選とレースのバランスが取れていると見るのが正しそうだ。
ラッセルが未来のメルセデスを背負い、レッドブル+フェルスタッペン、フェラーリ+ルクレール、アストンマーティン+アロンソらとやり合うには、もう一皮剥ける必要があるだろう。ただし大差がついたレースは殆どなく、一貫性に関しては十分と言える。まだまだ若くトップチームでの経験も浅いため、今後に期待したい所だ。
現時点では、フェラーリと並んで最強のドライバーラインナップを抱えていると考えて良いだろう。
3. フェラーリ
次はフェラーリ勢について見てみよう。
表5 ルクレールとサインツの予選ペース比較
表6 ルクレールとサインツのレースペース比較
ここ2年、予選で強いサインツとレースペースに強いルクレールという傾向があった。だが、予選で前を取ったサインツがルクレールの蓋をしてしまう展開は避けたいため、本来ならばチームメイト間で予選とレースのパワーバランスが変化しない方が望ましい。よって、筆者は今年はどのようなアプローチを取ってくるか注目していた。
結果として、今年はバランスが取れ(レースペース平均の0.1秒差は0.14を四捨五入したもの)、両者が予選・決勝で極端に失速することがなくなった。こうなるとレース戦略を立てやすくなる。
また、フェルスタッペンと同様に、ルクレールも接近戦における強さを持ったドライバーだ。日本GPやラスベガスGPでのオーバーテイクは記憶に新しい。前述の通り、フェルスタッペンとはやや異なるキャラクターながらも、チャンピオンを狙える実力者であると考えられ、来季フェラーリが競争力のあるマシンを用意できれば、非常に楽しみな存在だ。
また、サインツも、スピード面ではやや遅れたが、シンガポールGPでの戦術的なドライビングに代表されるように、非常にクレバーな走りができるドライバーだ。2016~18年(特にルノー時代)でやや評価を下げてしまったが、トロロッソでフェルスタッペンと互角、マクラーレンでノリスとほぼ互角からやや劣勢というデータは素晴らしく、ここ数年のルクレールとの比較を見ても、サインツの実力を再評価することは当サイトでもオフシーズン中の検討事項だ。
前述の通り、フェラーリのドライバーラインナップもメルセデスに匹敵するほどで、かなり強力と言えるだろう。
4. マクラーレン
次はマクラーレン勢について見てみよう。
表7 ノリスとピアストリの予選ペース比較
表8 ノリスとピアストリのレースペース比較
F2ではルクレールを彷彿とさせる圧倒的な成績を収め、F1でも大活躍が見込まれたピアストリ。
後半戦でマシンの性能が上がったことで、印象上は良くなったが、現状はノリスがミスをしない限り予選でも勝つのは難しい。そしてレースペースとなるとさらに大きな差がついてしまっている。バトルでの強さやミスの少なさは見事だが、スピード面では順風満帆とは言えない1年目となってしまった。
ただし、ピアストリにとって痛手だったのはF2を卒業したのち、1年のブランクを置いてからのF1デビューとなってしまったことだ。あのアロンソですら、2021年の序盤戦は苦戦しており、2020年のオコンも、予選でリカルドに0.6秒差、レースでも0.2秒差で完敗した。ただし、これらにおいて、アロンソとオコンは後半戦には持ち直しているため、やはり今年のピアストリのパフォーマンスはやや物足りない。
これはノリスのレベルが非常に高いと見ることもできる。フェラーリの項では、サインツの実力をより高く評価する必要性について触れたが、それはマクラーレン時代のチームメイトのノリスの評価も上げることに繋がりうる。場合によっては、マクラーレン時代のリカルドは我々が思っていた以上に自身の力を発揮した上で、ノリスのレベルが高すぎたが故に相対的に悪く見えた可能性もある。
これらは、当サイトでもオフシーズン中の研究テーマとなるが、来年ピアストリがどのようなパフォーマンスを見せるかによって、より多くの情報が見えてくるだろう。
また、ノリスについてはスピードは申し分ないと評して良いだろう。ただし、肝心なところでミスがあり、度々ポールや優勝を逃してしまっているのは気になる所だ。この辺りは、ラッセルとは違った意味で一皮剥ける必要のある部分なのかもしれない。
5. アストンマーティン
続いてアストンマーティン勢を見てみよう。
表9 アロンソとストロールの予選ペース比較
表10 アロンソとストロールのレースペース比較
予選、決勝ともに、平均タイム差が最も大きかったのがこのチームだ。
ただし、アロンソはフェルスタッペン、ハミルトンと並んで最もレースペースの速いドライバーの1人だ。マッサやライコネン、オコンらでも、1秒以上の差をつけられることは時折あり、今年もその腕が衰えた様子は全く見えない。よって、レースペースで0.4秒差につけたストロールの走りは評価されて然るべきだろう。
特にサンパウロGPでのアロンソは特に出来が悪かったわけでもないにも関わらず、ストロールが上回った。一貫性は課題だが、ハマった時のペースは申し分なく、将来性という点では伸びが期待できるのではないだろうか?
また、レース型のアロンソにしては、予選での差の方が大きいことを不思議に思う視聴者もいるかもしれない。これは、今年のアストンマーティンの競争力が影響していると考えられる。
2006年(ノックアウト方式導入)以降、予選でミスをしやすいアロンソだが、それはQ3の最終アタックの話だ。今年はストロールがQ2以前で落ちることも多かったため、アロンソの弱みが出ない中での比較となり、より大きな差がついたと考えられる。
そしてアロンソに焦点を当てるならば、今年はペース面は勿論のこと、レースでのスーパープレイが目立った。開幕戦でのハミルトンやサインツに対するオーバーテイクに始まり、モントリオールでの少ないペース差でのオーバーテイクの実現、ザンドフールトでの印象的なラインどり、サンパウロでのガスリーやペレスとのバトルなど列挙しきれないほどの内容であった。2006年以降のアロンソは独創的なラインを見つけるのが上手く、来季以降速い車を手にすれば、間違いなくそうした近接戦闘術を一つの武器にしてタイトルを手繰り寄せるだろう。
一方で、今年のアロンソはスペインGPの予選、カタールGPでのコースオフとラスベガスのターン1の計3回、ポイントに響くミスを犯してしまった。例年0~1回のミスに抑えるアロンソだけに、今年は「可もあり不可もあり」の1年だったと言える。アストンマーティン移籍1年目ということも影響した可能性や、そもそも全体的にアグレッシブなアプローチを採った可能性も考えられるが、この傾向が来年以降どうなるか注目したい。
続く後編では、アルピーヌ以降について見ていこう。
Writer: Takumi