Part2では、当サイトでここまで行ってきた分析を踏まえ、2022年シーズン前半戦でのトップ3チームのドライバーの競争力について見てきた。
こちらの記事では中団勢のチームメイト比較について振り返っていきたい。予選はドライコンディションで同条件での比較が可能なもののみを対象とし、レースペースはタイヤ・燃料の状態およびクリアエア・ダーティエアも考慮して計算したものだ。
1. アルピーヌ勢
まず表1にアルピーヌ勢についてを示す。
表1-1 アルピーヌ勢の予選比較
表1-2 アルピーヌ勢のレースペース比較
予選では多くのグランプリにおいてどちらかがクリーンなセッションを戦えていない。これではサンプル数が十分とは言えず、比較は意味を成さないだろう。
レースペースでは、序盤戦でアロンソの不調が目立った。通常レースペースでアロンソがチームメイトに遅れを取るのは年に2回程度で、昨年のブランク明けよりも悪い内容となっており、かなり心配された。
参考:アロンソの対チームメイト分析、2021年のアロンソvsオコン
しかしアゼルバイジャンGP以降は、猛烈な速さを見せており、この6戦は6勝0敗(平均0.5秒差)となっている。序盤戦は新しいマシンをどうセットアップし走らせるか、今ひとつ方向性を掴めていなかったのではないだろうか?そんな中、焦らず着実に理解を深めた先に現在の容赦ないパフォーマンスがあると考えれば、本人の弁の通り「年齢はアドバンテージ」というところだろう。
2. マクラーレン勢
続いて表2にマクラーレン勢についてを示す。
表2-1 マクラーレン勢の予選比較
表2-2 マクラーレン勢のレースペース比較
こちらは予選・レースペース共にノリスの圧勝だ。
ちなみに当サイトの分析によれば、現在リカルドが自身の力を発揮できているとすると、ノリスの実力はミハエル・シューマッハ、マックス・フェルスタッペン、シャルル・ルクレールより0.1秒以上速いということになる。
流石にそれは考えづらく、リカルドとマクラーレンの車との相性が悪いのは確かだろう。巷ではピアストリがマクラーレンに加入し、リカルドに移籍の話題が上がっているが、それはリカルドとマクラーレン双方にとってWin-Winな判断のように思える。
3. アルファロメオ勢
続いて表3にアルファロメオ勢についてを示す。
表3-1 アルファロメオ勢の予選比較
表3-2 アルファロメオ勢のレースペース比較
予選、レースペース共にサンプル数が少ないが、概ねボッタスが明確にリードしていると考えて問題はないだろう。ただし、ハンガリーの最終スティントではジョウがソフトタイヤで実質的にサインツを上回るペースを見せるなど、ジョウの内容が序盤戦と比べて良くなってきているのは確かだ。
4. ハース勢
続いて表4にハース勢についてを示す。
表4-1 ハース勢の予選比較
表4-2 ハース勢のレースペース比較
こちらはマグヌッセンが明確に上回っており、1年のブランクがありながら非常によくやっていると言えるだろう。元々マグヌッセンは当サイトの分析でも、予選一発でロズベルグやベッテルらと互角の力を有しているという計算結果が出ており、マシン次第ではチャンピオンも狙えるスピードの持ち主だ。
参考:マグヌッセンの対チームメイト分析、歴代ドライバーの競争力分析(予選)
それを踏まえると、現状のミック・シューマッハの力は父ミハエルの0.5秒落ち程度、現役で比較するとペレスよりも0.1秒強遅いということになる。昨年マゼピンに完勝したシューマッハだったが、やはりルーキー2人の組み合わせでは学習できることに限界があったのではないか?と窺わせる対戦成績だ。
逆の見方をすれば現状でマグヌッセンから吸収できるものは非常に多いと言えるだろう。今後の成長に期待したいところだ。
5. アルファタウリ勢
続いて表5にアルファタウリ勢についてを示す。
表5-1 アルファタウリ勢の予選比較
表5-2 アルファタウリ勢のレースペース比較
予選・レースペース共にサンプル数がやや心もとないが、定性的にはガスリーが明確に上回っているといって良いだろう。
ただし、角田も主に予選で昨年よりも差を詰めており、仮にガスリーの0.2秒落ちとして、前述した当サイトの歴代ドライバー分析に照らし合わせると、オコンと互角程度、ペレスよりも速いという計算になる。
レースペースでも、例えばハンガリーの数値を異常値と見て除くならば、ガスリーとの差の平均は0.2秒になる。マシンの出来が今ひとつであること、そしてガスリーが歴代でも上位の速さを持っていることで意外と見えにくいが、角田の今季のパフォーマンスレベルはかなり高いと言ってよいだろう。
6. アストンマーティン勢
続いて表6にアストンマーティン勢についてを示す。
表6-1 アストンマーティン勢の予選比較 R1,2
表6-2 アストンマーティン勢のレースペース比較 R1,2
表6-3 アストンマーティン勢の予選比較 R3~13
表6-4 アストンマーティン勢のレースペース比較 R3~13
開幕2戦ではサンプル数が少ないものの、ヒュルケンベルグがストロールと互角の走りを見せた。
ベッテルが復帰してからは、やや浮き沈みがあるものの予選・レースペース共に僅差でベッテルが上回っているようだ。
19,20年においてストロールの予選は僚友のペレスより0.2秒以上遅かった。若いドライバーであるため成長を遂げた可能性もあるが、前述の歴代ドライバー予選分析を基準に考えれば、全盛期のベッテルならばストロールに0.3~0.4秒の差をつけていたはずで、この辺りの数字を見るとやや寂しさを感じざるを得ず、このタイミングでの引退も真っ当な判断に思えてくる。
7. ウィリアムズ勢
続いて表7にウィリアムズ勢についてを示す。
表7-1 ウィリアムズ勢の予選比較
表7-2 ウィリアムズ勢のレースペース比較
予選・レースペース共に0.5秒の差がついており、アルボンの完勝だ。この差は昨年のラッセルより大きく、アルボンが如何に優れたドライバーであるかを示唆するとともに、レッドブル時代は一体何だったのか?という疑問符も浮かび上がらせるものでもある。
8. 全体総括
Part2(記事はこちら)の内容と併せてここまでの内容を総括してみよう。
全体を見渡すと、何人かが非常に優れたパフォーマンスを発揮しているが、完璧な走りを見せているドライバーはいない。
フェルスタッペンはレースペースはともかく、予選でペレスに肉薄されてしまっている。ここ数戦では改善されてきているものの、フェルスタッペンの基準では前半気味の前半戦だった。
ルクレールは予選よりもレースペースを重視しつつ、予選でもサインツに完勝し、レースペースでは大差をつけ、「純粋な速さ」の点では今季唯一の完璧なパフォーマンスと言えるだろう。しかしエミリア・ロマーニャGPとフランスGPではミスがあり、多くのポイントを失ってしまった。
ハミルトンはラッセル相手に予選で差をつけきれていない。元々ラッセルが一発に長けていることやメルセデスのチーム状況といった文脈を加味すると、そこまで問題視しなくても良いかもしれないが、ラッセルの評価の基準となってきたラティフィのアルボンとの比較を踏まえると少し物足りなく感じる部分もある。
アロンソはアゼルバイジャン以降のレースペースは完璧だ。また予選についても、オコンとの有効な比較が少ないとはいえ、序盤から(オーストラリアGPでの驚異的な速さを含め)良いパフォーマンスを見せていたように見える。そして最大の強みであるレースクラフトにも一層磨きがかかっているように見える。一方で序盤戦ではレースペースで遅れをとっており、これにより100点満点とは言えないだろう。
こうした傾向から見ても、ガラッと生まれ変わった新世代のマシンから安定してパフォーマンスを引き出すのは、この前半戦だけではなかなかの難題だったのかもしれない。
ミハエル・シューマッハやハミルトンもシーズン序盤はチームメイトに肉薄されることも多かった印象だ。その年のマシンをどうセットアップしてどう走らせればパフォーマンスに結びつくのか?理解が進んだ後半戦こそ、ドライバーやエンジニアの腕の見せ所だ。ここまでの表の数値が今後どんな軌跡を辿るのか、大いに注目したい。
Writer: Takumi