• 2024/11/21 17:44

2013年オーストラリアGP レビュー

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 今回は、ライコネンとアロンソがそれぞれ異なる戦略を駆使してハイレベルなレースを繰り広げた2013年のメルボルンを振り返っていこう。

 なお、最初に1. レースのあらすじ、次に2. 詳細な分析を記した。

1. レースのあらすじ

 予選は結果は以下の通りとなった。Q3序盤までウェット、終盤はダンプコンディションでドライタイヤの出番となった。

POSDRIVERCARQ1Q2Q3
1Sebastian VettelRED BULL RACING RENAULT1:44.6571:36.7451:27.407
2Mark WebberRED BULL RACING RENAULT1:44.4721:36.5241:27.827
3Lewis HamiltonMERCEDES1:45.4561:36.6251:28.087
4Felipe MassaFERRARI1:44.6351:36.6661:28.490
5Fernando AlonsoFERRARI1:43.8501:36.6911:28.493
6Nico RosbergMERCEDES1:43.3801:36.1941:28.523
7Kimi RäikkönenLOTUS RENAULT1:45.5451:37.5171:28.738
8Romain GrosjeanLOTUS RENAULT1:44.2841:37.6411:29.013
9Paul di RestaFORCE INDIA MERCEDES1:45.6011:36.9011:29.305
10Jenson ButtonMCLAREN MERCEDES1:44.6881:36.6441:30.357
11Nico HulkenbergSAUBER FERRARI1:45.9301:38.067
12Adrian SutilFORCE INDIA MERCEDES1:47.3301:38.134
13Jean-Eric VergneSTR FERRARI1:44.8711:38.778
14Daniel RicciardoSTR FERRARI1:46.4501:39.042
15Sergio PerezMCLAREN MERCEDES1:44.3001:39.900
16Valtteri BottasWILLIAMS RENAULT1:47.3281:40.290
17Pastor MaldonadoWILLIAMS RENAULT1:47.614
18Esteban GutierrezSAUBER FERRARI1:47.776
19Jules BianchiMARUSSIA COSWORTH1:48.147
20Max ChiltonMARUSSIA COSWORTH1:48.909
21Giedo van der GardeCATERHAM RENAULT1:49.519
Charles PicCATERHAM RENAULT1:50.626

 ポールポジションからスタートしたベッテルだったが、レースは序盤からマッサ&アロンソのフェラーリ勢に追い回される展開に。またライコネンも2周目にハミルトンを交わし、トップ3台を追う。

 1回目のピットストップは、ベッテルが7周目、マッサは8周目、アロンソ&ライコネンは9周目に行い、ここでの順位変動は無し。しかし、13周目にベッテルがまだピットを済ませていないスーティルに追いつくと、ベッテルはこれを抜く事ができず、再びマッサ、アロンソまで数珠繋ぎとなり、ライコネンもアロンソの2秒以内につけた。

 そして20周目、アロンソがピットへ。ベッテルとスーティルが翌周反応するも、アロンソのアンダーカットは大成功。ピットレーン出口でベッテルを交わすと、ターン1の立ち上がりでスーティルをオーバーテイクした。

 これにて3ストップ勢の先頭に躍り出たアロンソ。後ろにつけるベッテルも最初は食らいつくものの、徐々に離されていく。一方のライコネンはステイアウトし続け、こちらは2ストップのようだ。

 31周目には、2ストップに拘ろうとするハミルトンをアロンソがオーバーテイク。非常に慎重な動きでライコネンの15秒後方の2番手に浮上した。

 ライコネンは34周目にピットへ。プライムタイヤを装着しアロンソの11秒後方へ。

 一方アロンソは使い古したタイヤでもライコネンを上回るペースで走行。その差を15秒に広げて39周目にピットへ。ライコネンの9秒後方でコースに戻った。

 そこからアロンソはライコネンより5周新しいタイヤで差を詰めにかかる。ライコネンがスーティルを交わすのに手間取ったこともあり、44周目にはその差を4秒まで詰めた。

 しかしアロンソは、46周目にスーティルを交わしたものの、その後は今ひとつペースが上がらず。逆にライコネンが差を広げた。アロンソはその後ペースを戻すも、ライコネンには及ばず。タイヤが鍵を握った開幕戦はロータスのキミ・ライコネンが優勝を飾った。

 決勝結果は以下の通りとなった。

POSDRIVERCARLAPSTIME/RETIREDPTS
1Kimi RäikkönenLOTUS RENAULT581:30:03.22525
2Fernando AlonsoFERRARI58+12.451s18
3Sebastian VettelRED BULL RACING RENAULT58+22.346s15
4Felipe MassaFERRARI58+33.577s12
5Lewis HamiltonMERCEDES58+45.561s10
6Mark WebberRED BULL RACING RENAULT58+46.800s8
7Adrian SutilFORCE INDIA MERCEDES58+65.068s6
8Paul di RestaFORCE INDIA MERCEDES58+68.449s4
9Jenson ButtonMCLAREN MERCEDES58+81.630s2
10Romain GrosjeanLOTUS RENAULT58+82.759s1
11Sergio PerezMCLAREN MERCEDES58+83.367s0
12Jean-Eric VergneSTR FERRARI58+83.857s0
13Esteban GutierrezSAUBER FERRARI57+1 lap0
14Valtteri BottasWILLIAMS RENAULT57+1 lap0
15Jules BianchiMARUSSIA COSWORTH57+1 lap0
16Charles PicCATERHAM RENAULT56+2 laps0
17Max ChiltonMARUSSIA COSWORTH56+2 laps0
18Giedo van der GardeCATERHAM RENAULT56+2 laps0
Daniel RicciardoSTR FERRARI39DNF0
Nico RosbergMERCEDES26DNF0
Pastor MaldonadoWILLIAMS RENAULT24DNF0
Nico HulkenbergSAUBER FERRARIDNS0

2. 詳細なレース分析

 まずはライコネンとアロンソのレースペースを見てみよう。

図1 ライコネンとアロンソのレースペース

 ライコネンの勝因は、何と言ってもプライムタイヤの第2、第3スティントでそれぞれ25周と24周のロングスティントを走り、それでいてハイペースをキープできたことだ。

 図2に、同じく2ストップを目指したハミルトンとの比較を示す。

図2 ライコネンとハミルトンのレースペース

 ハミルトンは1回目のピットストップをライコネンの4周後に行っているにも関わらず、第2スティントの終盤にはタイムがガタ落ちしてしまい、31周目にピットに入らざるを得なくなった。第3スティントでも厳しいデグラデーションに見舞われ、3ストップに切り替えていることが分かる。

 対するライコネンは、第2スティント中盤にベッテル、マッサ、アロンソの集団に追いつくと、2秒弱の距離を置いて静観。23周目にマッサがピットに入りクリアエアを得ると、ハイペースを刻みつつ34周目までタイヤを持たせた。ちなみに、30周目手前でのタイムの落ちは雨によるものだ。

 そして再び図1に着目しよう。第3スティントでは、序盤はタイヤを労わり、重い状態だった第2スティントと大差無いペースで周回している。だが、アロンソがタイヤを履き替えて追い上げ始めると、ライコネンも応戦。スーティルに引っかかった周を除けば、アロンソの0.5~0.7秒落ちのタイムで周回している。

 ただし、このペースだとラスト数周でアロンソが追いつく計算になるが、アロンソはスーティルを交わした46周目の後、47周目は周回遅れのバトルに巻き込まれてはいるものの、その後のペースも今ひとつだ。スティント序盤のペースに戻ったのは52周目。既にライコネンとは7秒以上の差が開いており、残り6周となっては万事休すとなった。

 アロンソのペースダウンはグレイニングと思われるが、その原因は何だったのだろうか?1つ目の可能性はスティント序盤の飛ばし過ぎだが、グラフを見るとこの可能性は無さそうだ。

 アロンソの第4スティントは、自身の第3スティントの19周後で、それだけ軽くなっている状態だ。フューエルエフェクトを0.11[s/lap]とすれば、第3スティントの走り始めよりも2.1秒速く走れる計算で、アロンソのスティント序盤のペースはまさにそのペースだ。ちなみに42周目の落ちはピットアウトしてきたボッタスと交錯したためと思われる。

 第3スティント自体は、第2スティントよりもゆっくり入って、スティント後半にペースアップしており、アロンソとしては第4スティントも同様の展開を描いていたのだろう。

 よって、ペース配分自体は問題なく、ペースダウンの最たる要因として考えられるのは、スーティルの背後でタイヤを使ってしまったことではないだろうか?

 44周目の終盤にはダーティエアの影響が出てくる距離に詰め寄ったが、45周目は丸々抑えられてしまう。そして46周目のターン2からのストレートで並びかけて、定石通りターン3で交わしたが、これは左フロントを消耗する抜き方であると思われる。

 この仕掛けをするためには、右回りのターン1を上手く抜けて背後につける必要がある。さらに、そこにつなげるためには最終コーナーで離されているわけにはいかず、ここも右コーナーだ。そしてその最終コーナーで射程圏内にいるためには、2つ手前のターン14もあまり緩めすぎるわけにはいかない。

 ターン14は高速コーナー、最終コーナーとターン1もそこそこのスピードの右コーナーで、ここを後方乱気流の影響のある中で、アグレッシブに攻めるとなれば、かなり左フロントタイヤを消耗することが容易に想像できる。

 一方のライコネンは43周目にターン13でスーティルにブロックラインを取らせ、クロスラインでターン14のインを取ってオーバーテイクした。これにより、定石通りのターン3で仕掛ける場合に比べて大きくタイヤをセーブできた可能性が高い。

 もちろんターン13で仕掛けるには、ターン11,12で後ろにつく必要があるが、ここはコーナー滞在時間が一瞬な上に、その前のターン9,10はタイヤを消耗しにくい低速コーナーだ。そもそもターン9,10でそれほど攻めなくても、KERSの使い方次第ではターン10から11のストレートで間合いを詰めることができる。この辺りは想像にすぎないが、おそらくライコネンがタイヤを使ってプッシュしたのはターン11,12だけだったのではないだろうか。

 このライコネンのアグレッシブな一手と、長いチャンピオンシップを考えて無難に行ったアロンソの戦略の違いが、「グレイニングの有無」という形で勝負の分かれ目になったのではないか?筆者はこのレースをそのように見ている。

 何れにせよ、この当時ドライバーの腕という点で最高峰と考えられていたアロンソとライコネンという2人のチャンピオンが、戦略を分けて互いの強みを遺憾無く発揮した非常に見応えのあるレースだったと言えるだろう。

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Writer: Takumi