• 2024/11/21 17:33

2006年 イタリアGPレビュー 【This is Michael Schumacher】

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 このシリーズでは、現在FIAでラップタイムが公開されている最古の年2006年からのレースを振り返ってみよう。今回はミハエル・シューマッハが優勝後の会見で引退を発表したイタリアGPを振り返って行こう。

 なお、最初に1. レースのあらすじ、次に2. 詳細な分析、記事末尾に3. まとめを記した。あらすじまとめのみで概要が分かるようになっているので、詳細分析は読み飛ばしていただいても問題ない。

目次

  1. レースのあらすじ
  2. 詳細なレース分析
  3. まとめ

1. レースのあらすじ

 予選では0.002秒差でポールポジションを獲得したライコネン。しかしシューマッハはスタートで辛くも2番手を死守すると、その後はライコネンを追走した。

 ライコネンは16周目にピットストップ。8.9秒の静止時間でピットを後にする。燃料をたっぷり積んで重い状態になったライコネンを尻目に、シューマッハは軽い燃料で2周引っ張り、18周目にピットイン。9.5秒の静止時間でピットアウトすると、順位は逆転。ライコネンの前でコースに戻った。

 シューマッハはその後も危なげない走りを披露。フェラーリの地元モンツァで優勝し、レース後の会見にて引退発表を行った。

 なおアロンソは10番手スタートから追い上げ、2回目のピットストップを終えて3位まで浮上したが、残り10周となったところで無念のエンジンブロー。これにてシューマッハとのポイント差は2ポイントまで縮まってしまった。

2. 詳細なレース分析

 今回はピットストップでの逆転劇という、最も典型的なシューマッハ勝ちパターンとなった。今回のレースを分析しつつ、シューマッハの強さとこの時代の戦略の本質について見ていこう。

 まず、2人のレースペースを図1に示す。

画像1を拡大表示

Fig.1 シューマッハとライコネンのレースペース

 シューマッハは第1スティントで、燃料が2周分重い状態にも関わらず、ライコネンを1秒前後の間隔で追走した。フューエルエフェクト0.09[s/lap]とすると、0.2秒程度のハンディを追いながら互角以上のペースを証明したことになるため、シューマッハは実力的には少なくとも0.2秒ライコネンを上回っていたのは間違いない。

 こうなれば勝利は確実だ。フューエルエフェクトが0.09[s/lap]と大きい一方で、デグラデーションは0.01[s/lap]と小さく、新品タイヤの効果も大きくないモンツァのコース特性上、重くなったライコネンは1周1秒以上遅くなる。実際グラフを見てみても、シューマッハの第1スティント終盤のタイムが、ライコネンの第2スティント頭のタイムを1.3秒ほど上回っており、2周で2.6秒を稼ぎ出し、余裕を持って前に戻れていることが分かる。

 よく、燃料が軽くなってからのシューマッハのスパートが注目されるが、シューマッハの本当の強さはそこだけではないことがこの一連の展開から見えてくるだろう。シューマッハの強みはレースペースの速さと、スティント全体を通して安定してハイペースを刻む能力だ。今回もシューマッハの勝因は、重い燃料にも関わらず15周に渡ってライコネンに食らいついたことが大きい。マッサはシューマッハより0.4秒ほど遅かったため、重い燃料ではライコネンに離されてしまい、同じことはできなかったはずだ。

 前述の通り、後からピットに入る側が有利になるモンツァのような場所では、相手がピットに入ってからはスパートする必要すらなく、実際シューマッハも16周目のタイムを見る限りはそこまで本気のプッシュはしていない。

 そして勿論、サンマリノGPやヨーロッパGPの2回目のピットストップ前のように爆発的なスパートが必要とされる場面では、超人的な走りもできる。勿論そこにはヨーロッパGPの1回目のピットストップ前のようなミスが起きるリスクもあるが、今回のモンツァのような有利な状況ではそうしたリスクは負わず、「必要最小限のプッシュで確実に前に出る」という判断ができている。実際ファステストラップを出す能力があったことはデータから明らかだが、敢えて出していないのだ。

 土台のスピードと安定性、爆発力、そこに攻めと守りの状況判断力を備えており、7度のチャンピオンという記録も実に頷ける内容と言えるだろう。

3. まとめ

3.1 レースレビューのまとめ

 以下にイタリアGPレビューのまとめを記す。

(1) 両者万全の状態、燃料搭載量やタイヤが同条件ならば、シューマッハがライコネンを少なくとも0.2秒は上回っていた。

(2) シューマッハの「土台となるレースペースの速さ」と「スティントを通して安定してハイペースを刻む能力」は、ライバルより重い状態で食らいついていく上で非常に大きな強みになっている。こうなると、ライバルがピットに入って1スティント分のガソリンを積んだ際に、自身は軽い状態で飛ばし、ピットストップを終えた時には逆転するという十八番に持ち込むことができる。

(3) シューマッハは攻める必要が無い時には攻めず、無駄なリスクを負わない。これが年間を通して獲るポイントを最大化することに、ひいてはチャンピオン獲得へと繋がっていくことになる。

3.2 上位勢の勢力図

 上位勢のレースペースを、デグラデーションやフューエルエフェクトを考慮して分析すると、以下のようになった。

Table1 上位勢のレースペース

スクリーンショット 2022-01-24 19.58.57を拡大表示

 今回もシューマッハとアロンソがそれぞれのチームメイトに0.4秒と0.5秒という明確なペース差を見せた。僅かな例外はあるものの、年間を通して基本的にチームメイトを全くライバルにしていないおらず、2人だけの異次元のバトルとなっている。

 また大活躍で表彰台に上がったクビサは、第1スティントではシューマッハの0.5秒落ちだった。ただし、第2スティントで後半ペースが上がらず0.8秒落ちとなり、平均を四捨五入する形でこのような勢力図表とした。