今回は入賞争いでも1ポイントをもぎ取る非常に激しい争いが繰り広げられた。その中でアルファタウリやアルファロメオの実力が見え、さらに広報ではハースの2台が激闘を繰り広げていた。
目次
- レースペースが良かったアルファタウリ
- あと一歩!競争力が足りないアルファロメオ
- 「この3年でベストオーバーテイク」のマゼピン
- 用語解説
1. レースペースが良かったアルファタウリ
図1にアロンソ、ガスリーの比較を、図2にアルファタウリ勢のレースペースを示す。
Fig.1 アロンソ、ガスリーのレースペース
Fig.2 アルファタウリ勢のレースペース
レビューPart2で分析した通り、アロンソのペースはタイヤやペレスのDRSの事を考えてのものなので、第1スティント後半と第2スティントの39周目以降が参考値になる。
一方ガスリーのクリーンエアでの走行は、実質第1スティント19周目以降だけだ。しかしここでのペースは非常に優れており、アロンソのペースを僅差ではあるが上回っていることが図1から分かる。ガスリーはダーティエアとはいえ、余裕を持ってついていくことでタイヤをセーブできていたと思われるが、Part2で前述した通り、アロンソもスティント前半でタイヤをかなり労っており、この差は同条件のペース差を反映していると考えて良いだろう。
また図2より、角田もクリーンエアを得た24周目以降は、ガスリーと全く互角のペースを示していることが分かる。第2スティント終盤でも目の前のペレスがプランFでいなくなったおかげでクリーンエアを得ているが、ここで4周連続で1:30.8~1:31.2を並べた。これはマクラーレン勢を上回っており、非常に競争力が高かった。
一見センセーショナルに見えた開幕戦バーレーンだったが、あの時はガスリーが後退しており、実はガスリーはダメージを負った状態で、最終スティントでは角田どころかノリスを上回りペレスと互角のペースを見せていた。すなわちマシンパフォーマンスが非常に優れていたということだが、ガスリーが単独最下位を走っていたことでこれが見えにくかったという部分も大きい。
そういう意味では角田のパフォーマンスは向上し続けており、右肩上がりであることを強調しておきたい。今回のレースは内容的にベストパフォーマンスと言えるものだったのではないか。
2. あと一歩!競争力が足りないアルファロメオ
図3にアロンソとライコネンのレースペースを示す。
Fig.3 アロンソとライコネンのレースペース
ライコネンは11周目以降前方との間隔が開き、ペレスとのバトルはあったものの、基本的に自分のペースで走れている。その上で、アロンソ同様にスティント前半では後続を抑え込みつつタイヤを労り、スティント後半にタイムを上げていることが見て取れるが、全体的なペースがあと一歩アルピーヌに及んでいない。
今回はスプリントレースでソフトタイヤスタートを上手く活かし、トラックポジションを結果につなげたかったが、入賞圏内が近そうで遠い印象のレースだった。
3. 「この3年でベストオーバーテイク」のマゼピン
昨年F2で圧倒的な速さを見せたマゼピン。今年はF1初年度でシューマッハに大きく遅れをとってきたが、得意のシルバーストーンでどんな走りを見せるか注目していた。
ハース勢のレースペースを図4に示す。
Fig.4 シューマッハとマゼピンのレースペース
シューマッハは第1スティントでマゼピンと差を広げたかったが、ピットストップ直前でも2.3[s]といつもとは様相が違うことがこの時点で見てとれた。
さらにマゼピンは「オーバーテイクが難しいコース特性では前に出たもの勝ち」と分かっていた旨をコメントしており、第2スティント序盤でタイヤを酷使するリスクを負ってでもペースを上げ、シューマッハをオーバーテイク。その後のペースはシューマッハの方が速かったと思われるが、抜き返すには至らず、今季初めて純粋な勝負でマゼピンがシューマッハを下した。
筆者は移籍・復帰&ルーキー組のなかでサインツの適応が飛び抜けて速いこととシューマッハとマゼピンの差が大きかったことから、フェラーリのシミュレーターやフィオラノを使ったテストプログラムに何らかの優位性があるのではないかと推測している。F2時代の走りを見ればマゼピンは決して遅いドライバーではない。上記の理由か否かは分からないが、シューマッハに何らかの初期適応のアドバンテージがあったとしても、それは徐々に埋まってくると思われ、最後方ながらも今後激しいバトルが繰り広げられることを期待したい所だ。
次戦は2週間後、平均速度こそ低いものの、中高速コーナーも多いハンガリーGPだ。モナコで強さを見せたフェラーリが屈指のコーナリングサーキットで輝くのか?回り込むタイプのコーナーでレッドブルがタイムを稼ぐのか?他にも注目ポイント豊富なGPとなりそうだ。
4. 用語解説
DRS:前車と1.000秒以内にいると使えるオーバーテイク促進システム。DRSゾーンのみ使用ができる。通常1箇所か2箇所に設定される。その少し手前に設定された検知ポイントでタイム差を計測するので、後ろのドライバーにとっては例えサーキットの他の部分で離されようともそこで1.000秒以内に入れるようにすることが重要で、そのためにエネルギーマネジメントを調整する(「ターン15で近づきたいからターン1〜7で充電してターン8〜14で放出しよう」など)。前のドライバーはその逆を考え、裏をかいた奇襲なども考えられる。
スティント:ピットストップからピットストップまで。もしくはスタートから最初のピットストップや、最後のストップからチェッカーまで。スタートから最初のストップまでを第1スティント、1回目から2回目を第2スティント・・・と呼ぶ。
クリーンエア:前に誰もいない状態。F1マシンの性能はダウンフォースに依存している。したがって高速で走るマシンの後ろにできる乱気流の中では本来の性能を発揮しきれず、前のマシンにある程度接近すると本来自分の方が速くてもそれ以上近づけなくなる。そうした乱気流の影響を受けている状態をダーティエアという。多くのサーキットでは同等のペースでは2秒以内に近づくことは難しい。0.2~0.3秒のペース差があっても1秒以内に近づくのは至難の技だ。
プランF:ファステストラップ狙いで終盤にピットに入りタイヤを履き替えること。
オーバーテイク:追い抜き