• 2024/11/21 17:40

2021年ロシアGP分析

1. 分析結果と結論

 先に分析結果を示す。分析の過程については次項「レースペースの分析」をご覧いただきたい。

Table1 全体のレースペースの勢力図

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 ペレスとハミルトンが抜け出しているが、アロンソやルクレールも優勝争いを繰り広げたノリスと近いペースで走れている。中団グループでもマシンの性能を引き出し、かつ予選やレースの展開が味方をすれば、勝利に手が届くということを示唆した興味深い内容となっている。

 実際にシルバーストーンでもルクレールが勝利に近づいており、ハンガリーのオコンがアロンソ並みのペースを発揮できていればハミルトンがアロンソを抜くのに手間取らなくても勝てていただろう。
 「メルセデス一強」や、「トップ2,3チーム以外勝利のチャンスが無い」と言われるここ数年のF1だが、通常の展開なら兎も角、年に数回訪れるこうしたチャンスで頂点を掴むポテンシャルが中団チームにも備わってきている。

2. レースペースの分析

 以下に分析の内容を示す。フューエルエフェクトは0.08[s/lap]で計算した。また、雨が降り始めたのは先頭が46周目のタイミングだった。

 各ドライバーのクリーンエアでの走行時を比較するために、全車の走行状態をこちらの記事にまとめた。

各ドライバーの使用タイヤはこちらのピレリ公式より

2.1 チームメイト同士の比較

 最初にチームメイト同士の比較を見ていこう。

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Fig.1 メルセデス勢のレースペース

 ボッタスの数少ないクリーンエアの周回だが、スティント序盤でどの程度のプッシュをしていたか全く分からない。従って今回のメルセデス勢のチームメイト比較は困難と言える。

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Fig.2 レッドブル勢のレースペース

 フェルスタッペンの第1スティントはクリーンエアで走れている部分が少ないが、オーバーテイクのためにタイヤを使っていたと考えられる。一方のペレスはリカルド、ハミルトンの後ろで、ある程度マネジメントして走ることができていた。そのため、同一周回で同じタイヤの状態として比較するのはフェアではなく、ここではスティントの残り周回数から、ペレスがクリーンエアで走り始めたあたりと、フェルスタッペンのクリーンエアの3周が同じくらいのタイヤの状態だったと想定してみよう。すると両者には11周分の燃料搭載量の差があり、フエルエフェクト0.9秒に相当する。実際の両者のタイム差は0.7秒程度だったため、フェルスタッペンはペレスより0.2秒ほど速かったことになる。ただし想定が曖昧なためクエスチョンマーク付きの数字と注釈すべきだろう。

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Fig.3 フェラーリ勢のレースペース

 ルクレールは第2スティントでオーバーテイクを連発しながら非常に速いタイムを並べており、競争力が高かったと思われる。また、ハードのデグラデーションは今回チーム・ドライバー毎に異なるが、フェラーリは0.08[s/lap]程度と考えられる。その上でルクレールの第1スティントとサインツのハードの第2スティントを比較すると、ポテンシャルではルクレールの方が0.2秒ほど速かったと考えられる。

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Fig.4 マクラーレン勢のレースペース

 第1スティントでは両者の差は0.7秒程度と言える。第2スティントは比較可能ではなかった。

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Fig.5 アルピーヌ勢のレースペース

 オコンのクリーンエアはスティント序盤のみのため、今回のチームメイト同士のレースペースは比較可能ではないと判断した。

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Fig.6 アルファロメオ勢のレースペース

 チームメイト同士のレースペースは比較不能だった。

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Fig.7 ウィリアムズ勢のレースペース

 ラティフィが感触が良かったと述べているように、高い競争力を発揮した。第2スティントでは前半は同等だが、スティント後半にタイムが伸びたラティフィに対して、ラッセルのデグラデーションはタイムが横ばいになる程度だった。スティント全体の平均としてはラティフィが0.3秒速かった。ただしラッセルは抜きづらいサーキット特性でトラックポジションを守ることに徹していた可能性もあり、クエスチョンマークをつけても良いかもしれない。

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Fig.8 アストンマーティン勢のレースペース

 チームメイト同士のレースペースは比較不能だった。

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Fig.9 アルファタウリ勢のレースペース

 ガスリーの第1スティントはベッテルがいなくなってもペースはさほど上がらなかった。角田の第2スティントは14周目始まりのため、デグラデーションを0.08[s/lap]として考慮すると、ガスリーとのペースの差は0.7秒程度だったと考えられる。

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Fig.10 ハース勢のレースペース

 マゼピンは第1スティントで序盤ハイペースだが、タイヤのタレが大きかった。シューマッハの第1スティントはクリーンエアになってから大きくタイムを上げている。第2スティントの序盤の差を踏まえても0.7秒程度の差でシューマッハの方が速かったと考えるのが妥当だろう。

2.2 ライバルチーム同士の比較

 続いて、チームを跨いだ比較を行う。

2.2.1 ハードスタート組で比較可能は5名

 ボッタス、フェルスタッペンはクリーンエアで走れている周回が少なく、タイミングも実力を測るのに適していなかった。したがって、ここではペレス、アロンソ、ルクレール、ガスリー、ジョビナッツィのレースペースを比較する。

 図11にペレス、アロンソ、ルクレールのレースペースを示す。

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Fig.11 ペレス、アロンソ、ルクレールのレースペース

 ルクレールは第1スティントの後半でクリーンエアだが、今回のフェラーリはペレスの0.8秒落ち程度だった。またアロンソはルクレールより0.1秒ほど速かった。

 次にルクレールとガスリー、ジョビナッツィを図12で比較する。

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Fig.12 ルクレール、ガスリー、ジョビナッツィのレースペース

 こちらは、ルクレールがガスリーを0.9秒上回り、ジョビナッツィはガスリーから0.1秒落ちだったと言えるだろう。

 したがってハードタイヤスタート組のレースペース総合順位は以下の通りとなる。

Table.1 ハードスタート組のレースペース

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2.2.2 ミディアムスタート組の比較

 図13の通り、ハミルトンの第1スティント終盤のペースはノリスより0.7秒ほど速い。そして第2スティントでは両者プッシュし始めると、ほぼ同等の(0.1秒ほどハミルトンが勝るか)ラップタイムとなった。
 ただしハミルトンの第1スティントは、遅いペースのリカルドの後方で無理に仕掛けず、タイヤやERSをかなりセーブできていたであろう事を踏まえると、終始クリーンエアなら23周目からのタイムはもう少し遅かっただろう。
 したがって、ここでは第2スティントの力関係で考える。ノリスはピットストップがハミルトンの2周後(デグラデーションが0.08[s/lap]の前提だと0.2秒相当)、スティント序盤にタイヤをセーブしていた事を踏まえると、第2スティントがイコールコンディションならハミルトンが0.1(実際のペース)+0.2(タイヤ履歴)+ノリスのタイヤセーブ分だけ速かった事を意味している。すなわち0.3秒より大きい差だ。
 第1スティントの0.7秒未満という結論と総合すると、このレース全体の2人の差は間をとって0.5秒前後としておくのが妥当だろう。

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Fig.13 ハミルトンとノリスのレースペース

 またサインツは図14に示すとおり、第1スティントでノリスより1.2秒ほど遅かった。第2スティントでは1.6秒ほどだが、タイヤの差14周分(1.1秒相当)を換算すると0.5秒落ち程度となる。普段のフェラーリの競争力やサーキット特性との相性などを踏まえ、フランスGPなどでの路面コンディションが悪い中でのフェラーリのグレイニングの癖なども考慮すると、第1スティントで極端にタイヤを使えなかっただけであり、こちらの差が両者の本来の差と考えられる。今回はサインツはノリスの0.5秒落ちのポテンシャルと結論づけたい。

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Fig.14 ノリスとサインツのレースペース

 図15の通り、ウィリアムズ勢はクリーンエアで走れている時間が長く、今回ラティフィの方が0.3秒ほどラッセルを上回っていたが、そのラティフィは第2スティントをタイヤ1周分の性能差も含め総合的に評価すると、サインツから1.2秒程度だった。

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Fig.15 サインツ、ラティフィ、ラッセルのレースペース

 図16に示す通り、角田の第2スティントは、前半ラティフィに対して優勢、後半劣勢で、トータルで見るとイーブンペースだった。実際マゼピンを抜いた17周目と雨が降り出す46周目で、2人の差はほとんど変わっていない。

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Fig.16 ラティフィと角田のレースペース

 図17に示すとおり、シューマッハは最も近い戦略だったリカルドと比較して第1スティントで1.7秒落ち程度だった。第2スティントでも非常に競争力が高く、このペースでタイヤが最後まで持ったか、ぜひトラブルなしで見てみたかった好パフォーマンスだった。

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Fig.17 リカルド、シューマッハ、マゼピンのレースペース

 総合するとミディアムスタート組のペース比較は以下の通りとなる。

Table.2 ミディアムスタート組のレースペース

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2.2.3 ミディアムスタート組とハードスタート組の擬似比較

 ミディアムスタートとハードスタートのラップタイムは有効数字の問題や路面コンディション、燃料搭載量が他のパラメータに与える影響などの問題から正確な比較は難しい。
 しかし、「クエスチョンマーク付きで」と前置きした上で、擬似的に比較してみよう。

 チームメイト比較において、クエスチョンマーク付きで比較した戦略違いのチームは

LEC 0.2? SAI
GAS 0.7? TSU

の2チームである。

 サインツがルクレールの0.2秒落ちで、角田がガスリーの0.7秒落ちとするならば、表1に当てはめるとサインツと角田の差は1.4秒程度のはずだ。実際はハードタイヤスタート組の表2の通り1.2秒差であり、異なる戦略の2台を比較することによって0.2秒の誤差が生じた。

 ここから言えるのは、ルクレールとサインツの差は0.2秒より大きく、ガスリーと角田の差は0.7秒より小さかった可能性が高いということだ。ここで表1,2の数値はより信頼性が高いため、それに合わせてルクレールとサインツの差を0.3秒、ガスリーと角田の差を0.6秒と、共に0.1秒ずつ補正する。

 すると表1の結論が得られる。