• 2024/4/30 15:15

2021年フランスGPレビュー(1)【これぞF1! ”フェルスタッペン vs ハミルトン、ラスト2周の頂上決戦”】

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 例年メルセデス勢が競争力を発揮するフランスGPポールリカールサーキット。今季は開幕から好調の続くレッドブル勢が彼らにどんな戦いを挑むのか注目されたが、期待を裏切らないどころか小説よりも劇的な展開となった。今回もグラフを交えて、ラスト2周で決着となった優勝争いを振り返っていきたい。

各ドライバーの使用タイヤはこちらのピレリ公式より

※レース用語は太字部分で示し、記事末尾に用語解説を加筆した

目次

  1. フェルスタッペン、驚異のアンダーカット
  2. フェルスタッペンの2ストップ
  3. レッドブルのシートに相応しいことを証明したペレス
  4. 用語解説

1. フェルスタッペン、驚異のアンダーカット

 まず優勝争いを演じたフェルスタッペンとハミルトンのレースペースを図1に示す。

画像1を拡大表示

Fig.1 フェルスタッペンとハミルトンのレースペース

 スタート後のターン1でミスを犯し、ハミルトンに先行されたフェルスタッペン。その後は基本的に対等のペースで2.0秒前後の差でついていく。しかし15周目で突如2.8秒に広がっており、何らかのミスがあったと思われる。その後の2周でもややタイムを落としたフェルスタッペンに対し、ハミルトンは3.1秒まで差を広げた。

 ここで、まずボッタスが17周目にタイヤ交換に入り、フェルスタッペンに対するアンダーカットを仕掛ける。この時ボッタスとフェルスタッペンの差は2.6秒だったが、翌周反応したフェルスタッペンは順位を守ることに成功する。メルセデスはこの周でハミルトンを入れず、翌19周目に反応するが、なんとフェルスタッペンは3.1秒差を逆転しアンダーカットに成功。一転してレースの主導権を握った。

 メルセデスが18周目でハミルトンを入れなかったことを疑問に思われる方もいらっしゃるだろうが、筆者は合理的だったと考えている。
 あそこでハミルトンを入れていれば、フェルスタッペンはステイアウトし、ペレスと同等の25周目前後まで引っ張っていたかもしれない。となればフェルスタッペンはより均等割に近く効率的な1ストップ、メルセデス勢は後半ハードでのスティントが長い非効率的な1ストップとなりレース終盤にタイヤの差で2台まとめてオーバーテイクされるリスクが高いからだ。
 それを警戒して2ストップとしても、2ストップそのもののレースタイムが十分に速いかどうかへの疑問、およびストレートスピードの速いレッドブル2台をコース上ですんなり交わせるかという疑問を考慮すると、その手は安易には支持し難い。

2. フェルスタッペンの2ストップ

 第2スティントでは後ろからハミルトンがプレッシャーをかけ続ける展開となったが、レッドブル陣営は32周目でフェルスタッペンのタイヤ交換を決断。ミディアムタイヤに履き替えてピットストップ1回分のギャップを追い上げる戦略に出た。

 ハミルトンは30周目付近からタイムを落としていたが、無線から左フロントが厳しかったと考えられる。しかし今回のレースでのタイヤの性能劣化はグレイニングが原因であり、38周目からタイムが回復したのは、ペースを落としたことでグレイニングが改善したことが原因かもしれない。

 ちなみにメルセデスがハミルトンやボッタスを2ストップに切り替えるのは実質不可能だった。第一に比較的新しいタイヤを履いたペレスがいたため最後までペレスを抜けずに終わるリスク。第二にフェルスタッペンをコース上で抜けるほどタイヤの履歴に差を作ると最終スティントが短くなりすぎて追いつけないリスクだ。特に一つ目の方が切実で、現実的な選択肢ではなかった。

 その後、追ってくるフェルスタッペンに対抗し46周目までハイペースを刻んだハミルトンだったが、47周目から大きくドロップオフ。小さなコースオフも見られタイヤが限界を迎えてしまっていた。フェルスタッペンは52周目のバックストレートでこれをあっさり料理し、今季3勝目を上げた。

 敗れたハミルトンだが、こちらもボッタスとは別次元のタイヤマネジメントを披露し、「偉大な敗者」だったといえよう。
 フェルスタッペンに抜かれる際もレコードライン側を維持しつつ、微妙に左側に寄り、フェルスタッペンにより厳しいラインを取らせた。これにより自身はオフラインでタイヤを汚すリスクを避けつつフェルスタッペンがミスをする確率を引き上げたのは見事な戦術だった。

3. レッドブルのシートに相応しいことを証明したペレス

 図2に3位争いを繰り広げたペレスとボッタスののレースペースを示す。

画像2を拡大表示

Fig.2 ペレスとボッタスのレースペース

 ペレスとボッタスは7周のタイヤの履歴の差があったが、ボッタスに追いつく前の10周は0.8秒ほど速いペースを刻んでいる。

 ペレスは第1スティント序盤でスロースターターとなったが、これもタイヤのことを考えて無理していなかったと考えられる。2スティントともタイヤを最後まで持たせタイムを上げており、デビュー当初から定評のあるタイヤマネジメント能力を遺憾なく発揮している。

 フェルスタッペンとハミルトンのタイトル争いにはそれぞれのチームメイトの戦略的機能が大きく影響してくる。その点ではモナコ以降良いレースが続いているペレスの方に現状では軍配が上がるだろう。レッドブルにもペレスの存在を最大限活用するだけの戦略力がある。
 残りのレースも基本的にほぼ全てレッドブルVSメルセデスの構図が予想されるだけに、2チーム4台の戦略ゲームが実に楽しみだ。

 続くPart2では中段争いに着目しよう。

4. 用語解説

アンダーカット:前を走るライバルより先に新品タイヤに履き替えることで速いラップタイムを刻み、その間摩耗したタイヤで数周走ったライバルがタイヤを履き替えて出てきた際には自分が前に立つ、という戦略。

オーバーカット:前を走るライバルより後にタイヤを履き替えて逆転する戦略。頻繁には見られないが、タイヤが温まりにくいコンディションで新品タイヤに履き替えたライバルが1,2周ペースを上げられない場合などに起こりうる。路面の摩擦係数が低い市街地やストレートの多いモンツァなどが代表的なトラックだ。

ステイアウト:ピットに入らないこと

スティント:ピットストップからピットストップまで。もしくはスタートから最初のピットストップや、最後のストップからチェッカーまで。スタートから最初のストップまでを第1スティント、1回目から2回目を第2スティント・・・と呼ぶ。

グレイニング:ささくれ摩耗。正常摩耗がタイヤの表面が発熱によって溶けていくのに対し、グレイニングはタイヤが冷えた状態で負荷がかかることで消しゴムのように削り取られてしまう現象を指す。スローペースで走っていると回復してくることもある。

タイヤマネジメント:タイヤを労って走ること。現在のピレリタイヤは温度は1度変わるだけでグリップが変わってくる非常にセンシティブなものなので、ドライバーとエンジニアの連携による高度な技術が求められる。基本的にはタイヤマネジメントが上手いドライバーやチームが勝者となりチャンピオンとなることが多く、最も重要な能力と考える人も多いだろう。

オフライン:レコードライン(一般的に最も速いライン)から外れたライン。普段誰も通らないところなのでゴミが多く、タイヤに付着するとグリップが落ちてしまう。