• 2026/7/28 00:40

ハンガリーGPレビュー

F1はサマーブレイク最後の1戦ハンガリーへとやってきた。平均時速は低いが、中高速コーナーも存在する屈指のコーナリングサーキットだ。オーバーテイクが非常に難しく、予選と戦略の重要性が特に高いサーキットでもある。今回も激戦の裏側をデータを紐解きながら振り返っていこう。

1. チャンピオンの帰還

予選で見事なポールポジションを獲得したノリス。レースでは1周目のターン2でワイドになりピアストリに首位を譲ってしまったが、その後は常にペースで攻勢を見せ、ピアストリが周回遅れのサインツに当てられるという珍事も味方して首位を奪取。独走優勝へと繋げた。

図1にノリスとピアストリ、ハミルトンのレースペースを示す。第2スティント後半、ピアストリがピットに入ってクリアエアを得たノリスのペースは凄まじい。直前までのピアストリよりも1秒以上速く、その後の新しいタイヤを履くピアストリとも殆ど遜色ないタイムを並べている。

先に行ったレースペース分析では、レース全体を通じてノリスはピアストリよりも0.2秒ほど速かったという結論が出ており、今回のノリスは純粋に最速のパッケージだった。

勿論、ピアストリとサインツのインシデントなしで勝てたかと言われると、かなり良い勝負になっていただろう。

第3スティントのタイヤオフセットは6周で、ピアストリの後ろで戻ることを受け入れた戦略だったとしても、ハミルトンの前では戻らなければならない。そうなると、これ以上大幅に引っ張ることは難しかった。そしてピアストリやハミルトンのラップタイムを横ばいと読むなら、それはフューエルエフェクト(0.038[s/lap])とデグラデーションが釣り合っていることを示す。よって6周のタイヤオフセットの有利は0.2秒程度であり、元々のノリスのペース的優位の0.2秒を上乗せしても0.4秒のペース差。第2スティントのようにピアストリにタイヤを使わせながら背後でタイヤを守り続ければ、終盤にチャンスは生み出せたかもしれない。少し厳しい戦いではあるが、この展開も見てみたかったところだ。

図1 ノリス、ピアストリ、ハミルトンのレースペース

今季のノリスは、ここまでピアストリに対して予選で7勝4敗の0.068秒差、レースペースでも5勝1敗の0.2秒差と優勢を築いている。
昨年も結局1年通してみれば、ノリスが明確に、特にレースペースでピアストリよりも速さで優位に立っており、ノリスのスピードは非常に印象的だ。

今週末、ノリスは今年のクルマへの適応について、「人生で毎年ドライビングスタイルを変えてきた」と語った。自分本来のスタイルがそのまま通用したのは、F1初テストを行った2018年くらいで、それ以降は毎年何かを変え続けてきた、という。「違うマシンに適応する準備ができていないなら、十分なレベルではない」というのが彼の考えであり、良いマシンでも悪いマシンでも、簡単でも難しくても、与えられた車を速く走らせるのが仕事であり、そのために高額な報酬を受け取っている、という論理だ。

こうしたストイックな姿勢が、サインツと互角以上のペースを示し、リカルドやピアストリといったトップクラスの実力者相手でも僚友以上にマシンのパフォーマンスを引き出し続けてきた実績に繋がっているのだろう。筆者はノリスに対し、こと純粋なスピードにおいては、F1史上でも最高レベルに位置していると考えており、そんな彼がチャンピオンとしての初優勝を成し遂げて夏休みを迎えることができたことを嬉しく思う。

2. 本当は面白かった “ifの世界”

今季はここまで、鈴鹿、バルセロナ、シルバーストーンと、戦略によってレース後半から終盤に逆転が起こるはずだったレースが、SCやVSC、マシントラブルなどでスポイルされてしまっている。前述の通り、今回サインツがもう少し注意深さを発揮していれば、ノリスとピアストリの争いもラスト数周のバトルになっていたかもしれない。

そして今回のピアストリのストップによるVSCも、本来見られるはずだった展開をまたしてもスポイルしてしまった。図2に、55周目終了時点でのピアストリ、ハミルトン、フェルスタッペン、ルクレール、アントネッリのギャップと各車のペースからその後のギャップ推移をシミュレーションしたグラフを示す。

図2 ピアストリ、ハミルトン、フェルスタッペン、ルクレール、アントネッリのギャップシミュレーション

前提としたペースは

  • ピアストリ、ハミルトン、ルクレール:1:24.5
  • フェルスタッペン:1:23.6
  • アントネッリ:1:22.9

である。

まず、アントネッリはピアストリ、ハミルトン、ルクレールより1.6秒速く、これは31周目にハミルトンがハジャーを易々と交わして行った時の二人のペース差と近い。よって、この三者に対するオーバーテイクはほぼタイムロスなく抜いていくだろう。

一方、フェルスタッペンはハミルトンとピアストリに対して0.9秒程度のペースアドバンテージしかない。よって、フェルスタッペンがこの二人を抜きあぐねる可能性は高い。実際のレースでノリスがアントネッリを抜いた時のペース差が1秒強で、オーバーテイク完了に2周を要していることを考えると、それなりに苦しい。

また、アントネッリとフェルスタッペンのペース差も0.7秒しかなく、オーバーテイクを狙うのはより厳しい。

となると、考えられるシナリオは

  • フェルスタッペンはピアストリやハミルトンを攻略するが、時間がかかりアントネッリに早く追いつかれてアントネッリが2位
  • それでもフェルスタッペンが守り切って2位
  • フェルスタッペンがピアストリやハミルトンを抜けず、アントネッリもそのフェルスタッペンを抜けずにピアストリが2位

上二つが最もあり得た展開で、何らかの要因でオーバーテイクが極めて困難な場合のみ三つ目のシナリオになるだろう。実際のレースではピアストリとハミルトンが存在しないフェルスタッペンとアントネッリ二人のレースになったことで、ややフェルスタッペンに有利な展開となった。これも本来ならば全てグリーンフラッグ下で見てみたいレースだった。

3. 変則2ストップの是非

結果的には、VSCの導入により、多くの上位勢が3ストップを採用することになったが、それがなければ、ハミルトンの「13周/17周/40周」やピアストリの「16周/17周/37周」のような、非常に変則的な2ストップが目立つレースとなった。これは効率が悪い。図3に効率的2ストップ(23周/23周/24周)と変則2ストップ(13周/17周/40周)のシミュレーションを示す。

図3 効率的2ストップと変則2ストップのシミュレーション

この効率の違いによって、トータルレースタイムには8秒程度の差が生じている。これこそ正に、絶対的競争力では劣りつつも、比較的効率的に切ったフェルスタッペン(14周/27周/29周)が優位にレースを進めて2位を獲得できたことの一要因だ。

今年はDRSが無く、トラックによってはオーバーテイクが難しいため、トラックポジション欲しさに変則的な切り方をすることも多いだろう。だが、それは効率の悪さというダウンサイドを受け入れた上で選ばなくてはならない。この辺りがF1の面白いところだ。

4. 次戦への展望

F1は4週間の夏休みに入る。そして休み明けのオランダGPで注目したいのは、なんと言ってもチャレンジングな高速コーナー群だ。鈴鹿やシルバーストーン、スパではエネマネの苦しさでチャレンジングな高速コーナーが充電ステーションとなってしまったが、同様に高速コーナーが売りのバルセロナではコーナーがコーナーらしく残った。ザンドフールトでも、ターン7, 8で充電に邁進しなくても、ターン9,10で回生でき、短いストレートを挟んでシケインでしっかりと回生してから高速ターン13とホームストレートへと向かい、ターン1で再度回生できる。これならばバルセロナのように見応え十分な予選・決勝になる可能性は期待できるだろう。

また勢力図の変化も楽しみな所だ。今回大躍進のマクラーレンは、同じく競争力を発揮した鈴鹿と近い特性のトラックで再度速さを見せるのか、メルセデスやフェラーリの逆襲はあるのか、レッドブルは問題の多い車をフェルスタッペンの求めるレベルまで昇華できるのか、そしてアストンマーティンは4強に迫れるのか、見どころは尽きない4週間後になりそうだ。


インタラクティブグラフ

ご自身の視点でさらにデータを深掘りしたい方向けに、操作可能なグラフを用意した。

このツールでは、**「ペースグラフ」と「ギャップグラフ」**の二種類が利用でき、ボタン操作で見たいドライバーだけを自由に選んで表示できる。

特にラップタイムグラフには、レース状況を理解しやすくするための工夫が施されている。

  • 塗りつぶしの点:前が空いている状態(クリアエア)でのラップを示す。
  • 白抜きの点:前のマシンの影響下(ダーティエア:前方2秒以内)にあるラップを示す。

この色分けによって、各ドライバーがどのような状況でそのタイムを記録したのかが一目で把握できる。

また、グラフ右上のボタンからは、画像のダウンロードやグラフの拡大・縮小(ズーム)も可能だ。分析の補助として、ぜひご活用いただきたい。

Race Lap Time Interactive Graph

Lap Times

Drivers:

Gap to Leader

Takumi, ピトゥナ