• 2026/10/14 08:14

シンガポールGPレビュー

元祖ナイトレースのシンガポールGP。コンクリートウォールに囲まれ、気温と湿度による過酷な暑さも相まって、ドライバーにとっては非常にタフなサーキットだ。今回もデータを交えながらグランプリを振り返っていく。

図1 コース図

1. 今回も週末を完全支配

スプリント予選で圧巻のポールを獲得し、雨のスプリントレースでも盤石のレースを見せたフェルスタッペン。予選ではルクレールに0.1秒以内に接近され、決勝レーススタートでは並ばれたが、厳しいラインでターン1を制し、首位でレースを完全支配した。

ルクレールとのペースを比較しながら、レースを振り返ってみよう。

図1 フェルスタッペンとルクレールのレースペース

第1スティント、フェルスタッペンはルクレールよりタイヤをマネジメントし、小さいデグラデーションを実現。ルクレールのペースは右肩下がりになっているのに対し、フェルスタッペンはほぼ横ばい、つまりフューエルエフェクト(推定0.04[s/lap])とタイヤのデグラデーションが釣り合った状態となっている。
こうしてタイヤを上手に使い、32周目まで引っ張ることに成功。今回はソフトタイヤがミディアムよりも有利であったため、レースの中でソフトタイヤを使う比率を増やせた点も良かった。

しかし、ここで逆風が吹く。

長く引っ張ったことで、ルクレールとの差はピットアウトした33周目の時点で4.7秒まで縮まり、その後広げたものの、5.7秒のギャップしかない状態の39周目にVSCが導入される。VSC時のロスタイムは12秒程度だったため、ここで自身が入ってルクレールがステイアウトした場合、ルクレールの後ろになってしまう。タイヤの差は15周新しい状態になるが、ルクレールの第2スティントのラップタイムを見れば横ばい、デグラデーションは0.04[s/lap]と計算できるため、0.6秒のタイヤのアドバンテージということになり、これではシンガポールのコース特性上抜けない。第1スティントの総合的なペースはフェルスタッペンが0.3秒ほど上回っていたが、それを乗せても0.9秒ほどで、抜けるかどうかは微妙なところだ。

だからこそ彼らはステイアウトを選んだ。ルクレールは7周新しいソフトタイヤだが、7周のオフセットはデグラデーションを0.04[s/lap]として0.3秒相当、ソフトコンパウンドの優位性は0.5秒程度と考えられるため、ルクレールは0.8秒差で追ってくることになる。残りは22周で18秒差であるため、ルクレールの地力がフェルスタッペンと互角ならば最後に追いつかれてもおかしくなかったが、前述の通りフェルスタッペンがそもそも0.3秒のレースペースアドバンテージを有していたため、逃げ切れる算段は高かった。

こうして2つの選択肢を比較すると、明らかにステイアウトが正解であることが分かる。フェルスタッペンがルクレールと互角の場合、入っても抜けない可能性が高く、ステイアウトしても追いつかれるのは終盤で、抜かれない可能性が高い。そして第1スティントの力関係が継続するならば、入れば抜けないリスクに直面し、ステイアウトなら追いつかれることもない。

マレーシアとシンガポールという2つの全く異なるトラックを完全制覇したフェルスタッペン。レッドブルの戦闘力は確実に上がってきており、残りのレースでもほぼ全てのサーキットで強さを見せるだろう。

PosDriverCarPts
2George RussellMercedes238
3Lewis HamiltonFerrari229
4Max VerstappenRed Bull Racing221

2位争いのランキングを見れば、ハミルトンは目前、そしてラッセルも17ポイント差まで迫っている。メルセデスはエネルギーマネジメントの重要度が高いラスベガスで速いと思われるが、レッドブルもアゼルバイジャンで競争力を見せたため、完全に射程圏内と考えて良いだろう。今年は2位争いが白熱しそうだ。

2. 強いアントネッリと暗黒のタイトル決定リスク

今回はアントネッリの強さが光る週末でもあった。スプリントレースでは他車と比べて横Gが少ない状態でコーナーを立ち上がり、ストレートでも他車とは異なるラインで積極的に水を拾い、タイヤを持たせることを絶対的な最優先事項としていた。その甲斐あって、終盤にはルクレールを先頭とする集団の背後でチャンスを待ち構え、前がどんなに遅くてもノリスと0.7~0.8秒という適切な間合いをキープしたことで、マクラーレン勢の同士討ちに巻き込まれず、すり抜けていくことができた。同士討ちが起きたこと自体は幸運だが、ランオフの無い市街地で3台目のクラッシュ車両にならなかったのは、判断力がもたらした結果だ。

そして迎えた決勝レース。フェルスタッペンとの比較でペースを見てみよう。

図2 フェルスタッペンとアントネッリのレースペース

第1スティントはハミルトンの後方に引っかかってしまうが、前がいなくなると途端にフェルスタッペンに匹敵するペースを発揮した。ただしこれは、それまでミディアムのハミルトンの後ろで遅いペースで走らされたことでタイヤをセーブできたこと、そしてノリスに対して差を広げなければアンダーカットされてしまうため、長く持たせるよりもタイヤを使ってペースアップしていたと考えられることが働いており、この部分を見てフェルスタッペンと互角とまでは言えない。

そしてその後も適切にタイヤを管理し続け、終盤にはハミルトンに仕掛ける際に隙が生まれたノリスをオーバーテイク。ここでも、前がバトル状態にある時の間合いの取り方の上手さが発揮された。

さて、問題はラッセルとの差が102ポイントに広がってしまったことだ。

次戦USGP終了時点で100ポイント以上になってしまうと、中東2連戦が中止になり、イモラで代替開催となった際に、その知らせとともにチャンピオンが決定するという、最悪のシナリオが実現してしまうかもしれないのだ。

現在、中東情勢の影響によって、最終2戦のカタールGPとアブダビGPの開催は不透明な状況だ。F1は開催継続を基本方針としているものの、両レースを中止し、代わりにイモラで最終戦を開催する案も準備されている。

ここで重要になるのが、残りの獲得可能ポイントだ。
当初のカレンダーでは、次戦USGPを終えても残り5戦、最大125ポイントが残されている。しかし、中東2連戦が中止され、イモラの1戦に置き換わった場合、残りは4戦、最大100ポイントとなる。

つまり、USGP終了時点でアントネッリがランキング2位に100ポイント以上の差をつけていれば、カレンダー変更の正式決定と同時にワールドチャンピオンが確定する可能性がある。100ポイント差で並ぶ可能性が残っても、すでに8勝を挙げているアントネッリは勝利数による順位決定で優位に立つ。

もしUSGP終了後にカレンダー変更が発表されたら、どうなるだろうか。アントネッリは、いつも通り次のレースに向けて準備をしているかもしれない。そこへトト・ウォルフから一本の電話が入る。

「キミ、君がワールドチャンピオンだ」

そんな形で、史上最年少チャンピオンが誕生する可能性があるのだ。

もちろん、アントネッリの戴冠は、これまで積み重ねてきた8勝と圧倒的な安定感によって勝ち取られるものだ。しかし、F1の頂点に立つ瞬間は、どのドライバーにとっても特別なものだろう。

だからこそ、現在の中東2連戦を巡る状況には疑問を感じざるを得ない。

中東情勢が不安定な中、F1はカタールGPとアブダビGPの開催継続を表明している。しかし、開催権料や中止に伴う費用負担を巡る駆け引きが、判断の遅れにつながっているとの報道もある。
思い出されるのは2020年のオーストラリアGPだ。新型コロナウイルスの感染拡大が懸念される中、開催に向けた準備が進められ、結局は開幕当日の朝に中止が発表された。今回も、チームスタッフや関係者の安全確保、渡航や物流の手配など、早期の判断を必要とする理由はいくらでもある。そして今、その判断はワールドチャンピオン誕生の瞬間にまで影響しかねない。

アントネッリ本人、彼を支えてきたメルセデスの人々、そして歴史的瞬間を待ち望むファンたち。その歓喜の瞬間が、開催権料を巡る駆け引きによって損なわれるようなことがあってよいのだろうか。

F1とFIAには、遅くとも次戦USGPまでに明確な決断を下してもらいたい。選手たちがコース上で積み重ねてきた努力と、その先にある最高の瞬間を守ることも、選手権を運営する者たちの責任なのだから。

3. 次戦への展望

次戦はドライバーにとって非常にチャレンジングで評判の良いCOTAだ。

シルバーストーンのような高速S字から、中低速コーナー、そしてロングストレートにアップダウン、あらゆる要素が含まれており、直近ではセパンがこれに近い。シルバーストーンで起きた「高速コーナーが充電ステーションになる」現象が今回も発生してしまうのか、やや不安な部分もあるが、少なくとも追い抜きはしやすいと思われ、動きのあるレースが見られるはずだ。

アントネッリの史上最年少チャンピオン、白熱の2位争いなど、見どころの多い一戦になりそうだ。


インタラクティブグラフ

ご自身の視点でさらにデータを深掘りしたい方向けに、操作可能なグラフを用意した。

このツールでは、**「ペースグラフ」と「ギャップグラフ」**の二種類が利用でき、ボタン操作で見たいドライバーだけを自由に選んで表示できる。

特にラップタイムグラフには、レース状況を理解しやすくするための工夫が施されている。

  • 塗りつぶしの点:前が空いている状態(クリアエア)でのラップを示す。
  • 白抜きの点:前のマシンの影響下(ダーティエア:前方2秒以内)にあるラップを示す。

この色分けによって、各ドライバーがどのような状況でそのタイムを記録したのかが一目で把握できる。

また、グラフ右上のボタンからは、画像のダウンロードやグラフの拡大・縮小(ズーム)も可能だ。分析の補助として、ぜひご活用いただきたい。

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Takumi, ピトゥナ