2026年イタリアGPのレースペース分析を行う。
各車の力関係を詳らかにするために必要なことは、生の平均ラップタイムを比較することではない。
各ドライバーが同じ仮想レース条件を走った場合、どの程度の持続可能な平均ペースを発揮できたと考えられるか。
これを、タイヤ年齢、各車・各スティント固有のデグラデーション、燃料搭載量、トラフィック、バトル、トゥ、オーバーテイクモード、スティントの長さ、ペース配分、レース終盤のクルージングなどを考慮して推定した。
今回のモンツァでは、特にトゥの影響の大きさに注意する必要がある。長いストレートで得られるトゥに加え、2026年マシンのオーバーテイクモードによる0.5MJの追加エネルギーが強力で、前車から数秒以内にいるだけで本来の単独走行以上のラップタイムを出せるケースが多数見られた。
結論
基準はアントネッリを0.0秒/周とする。
| Driver | ペース差 | 信頼度 |
|---|---|---|
| Antonelli | 0.0 | B+ |
| Russell | +0.4 | A- |
| Verstappen | +0.5 | B+ |
| Norris | +0.8 | B+ |
| Piastri | +0.8 | A- |
| Hamilton | +0.9 | B- |
| Gasly | +1.0 | A- |
| Colapinto | +1.3 | B |
| Lindblad | +1.3 | A- |
| Hülkenberg | +1.3 | B |
| Lawson | +1.4 | C+ |
| Tsunoda | +1.5 | B+ |
| Bortoleto | +1.5 | B |
| Sainz | +1.7 | C+ |
| Albon | +1.7 | C+ |
| Ocon | +2.1 | B- |
| Bearman | +2.2 | B- |
| Bottas | +2.9 | C |
| Perez | +2.9 | B- |
| Alonso | +2.9 | C- |
| Stroll | +3.6 | C- |
| Leclerc | 不明 | D |
※コラピントはダメージを負っていた可能性あり

比較基準:「22.5周性能」と「45周性能」を50:50
今回の仮想条件は、一つの固定スティント長にはしなかった。
22~23周程度を走る場合の持続可能な平均ペース:50%
45グリーンラップ程度を1セットで走る場合の持続可能な平均ペース:50%
として評価した。
理由は今回のレース展開にある。
3周目の赤旗後、ラッセル、ノリス、ピアストリ、ガスリーなどは同じセットを非常に長く使い続けた。一方、アントネッリやフェルスタッペンなどは29周目のVSCを利用してタイヤを交換した。
実際、ラッセルは赤旗中に装着したC3 Hardを最後まで使用。一方アントネッリはC4 Mediumで走った後、VSCで新品Mediumへ交換して優勝した。フェルスタッペンもVSCでMediumからHardへ交換している。
ここで仮に「新品タイヤで22周」を基準にしてしまえばVSCピット組に有利になる。
反対に「45周のワンセット」を基準にすればノンストップ組に有利になる。
そこで両者を50:50とした。
また、「33~34周スティント」と一本化していない。
タイヤのデグラデーションは必ずしも線形ではなく、22周を速く走る能力と45周を持たせる能力の平均値は、単純な33周スティントと同じ意味にはならないからだ。
C3 HardとC4 Mediumの基礎性能差は0.0秒として計算
今回の中央シナリオでは、
同じタイヤ年齢ならC3 HardとC4 Mediumの基礎ラップ性能は同じ
と仮定した。
もちろん、これは「実際に絶対同じだった」と断定するものではない。
金曜日のPirelliの分析では、全コンパウンドのデグラデーションは小さく、Pirelli自身も複数の戦略が成立し得ると見ていた。
そして実際のレースでも、Hardを非常に長く使う戦略とMediumを長く使う戦略の双方が成立した。
レースデータからC3とC4を直接比較しようとしても、
コンパウンド差
タイヤ年齢差
トゥ
各車固有のデグ
前車とのバトル
が同時に変化するケースが多い。
今回は、分からない差を無理に一つの数値へ固定するより、C3=C4を中央シナリオとした。
なおコンパウンド間に有意な差があった場合、C4主体のドライバーとC3主体のドライバーの相対位置は多少変わる。特にアントネッリ対ラッセル、ハミルトン対ガスリーなどの近接した比較は動くため、0.1秒単位の序列には注意が必要である。
フューエルエフェクトは0.044秒/周
フューエルエフェクトは、
0.044秒/周
とした。
つまり10周進めば、燃料搭載量の減少だけで約0.44秒の改善が期待できる。
異なる時刻のラップを比較する場合にはこの影響を除く。
一方、同一周回で2台を比較できる場合には、燃料搭載量、路面状態、気温、風などの多くが共通になる。
そのため今回も、
同一Lap、近いタイヤ年齢、近い空力条件での直接比較
を最も強い証拠としている。
タイヤ年齢差は「そのスティント自身のデグ」で補正
今回、特に重要なのがこの部分である。
タイヤ年齢の異なる2台を比較するとき、
「20周古いから、おそらく0.5秒くらい遅いだろう」
という推測は行わない。
まずクリーンなラップから、その車、そのコンパウンド、そのスティントの燃料補正後デグラデーションd[s/lap]を求め、
として同じタイヤ年齢へ揃える。
たとえばラッセルのHardは、L30~47の正常なラップを見ると燃料補正後のデグが約
0.012秒/周
となる。L44~47もラップタイムを見る限り大きなペースダウンはしておらず、無線だけを理由に除外していない。
ただし、この0.012秒を無条件に45周掛けて全スティントを外挿するわけではない。
タイヤ年齢の異なる二つの観測を同年齢へ揃える局所的な補正には使うが、長距離の持続可能ペースを評価するときには、序盤のタイヤ使用量や後半の非線形な崩れ方まで含めてスティント全体を見る。
モンツァでは「ダーティエア」より「トゥ」が大問題
通常なら前車に近づくほどダーティエアによる損失を考える。
しかし今回のモンツァでは、それだけでは不十分だった。
長いストレートで得られるトゥと、オーバーテイクモードの追加エネルギーによって、後方車の方が単独時より速いラップを刻める。
その典型がアントネッリとラッセルである。
L38開始時、アントネッリはラッセルの約8.3秒後方。
その後、
L39:約7.8秒
L40:約7.5秒
L41:約7.0秒
L42:約6.3秒
L43:約5.5秒
L44:約4.7秒
と接近していく。
この間もアントネッリは速いが、ラップ差は概ね0.3~0.8秒程度だった。
ところがL45開始時には約3.9秒となり、そこでアントネッリのラップ差が一気に約1.15秒へ拡大。L46も約1.10秒速い。
これは非常に示唆的である。
今回のモンツァでは、
4秒前後からトゥの影響をかなり疑う必要がある
と判断した。
もちろん「4.0秒以内なら0.3秒補正」という固定式にはしていない。
前車との距離、接近速度、その前後でのラップタイムの折れ曲がり、バトルの有無を見て個別に判断した。
管理人Takumiのポイント
アントネッリの速さが傑出しており、VSC時の戦略的判断は勝因ではなく、素のレースペースの速さがもたらした勝利であったと言える。フェルスタッペンも同様で、純粋な速さによってマクラーレン勢を下した。
またガスリーが予選でのポールに続き、決勝でも上位勢に迫るスピードを見せた。リンドブラッドにも明確に差をつけ、今回のアルピーヌは中団最上位というより、上位グループに顔を半分覗かせるほどの出来であった。
ChatGPT 5.6 Sol, Takumi
ChatGPT 5.6 Thinking, Takumi
インタラクティブグラフ
ご自身の視点でさらにデータを深掘りしたい方向けに、操作可能なグラフを用意した。
このツールでは、**「ペースグラフ」と「ギャップグラフ」**の二種類が利用でき、ボタン操作で見たいドライバーだけを自由に選んで表示できる。
特にラップタイムグラフには、レース状況を理解しやすくするための工夫が施されている。
- 塗りつぶしの点:前が空いている状態(クリアエア)でのラップを示す。
- 白抜きの点:前のマシンの影響下(ダーティエア:前方2秒以内)にあるラップを示す。
この色分けによって、各ドライバーがどのような状況でそのタイムを記録したのかが一目で把握できる。
また、グラフ右上のボタンからは、画像のダウンロードやグラフの拡大・縮小(ズーム)も可能だ。分析の補助として、ぜひご活用いただきたい。