• 2026/9/8 19:58

イタリアGPレビュー

伝統のモンツァ。F1はフェラーリの聖地である超高速サーキットへとやってきた。PU交換により19番手からスタートしたアントネッリが見事に優勝。今回も、そんな歴史的大逆転をデータと共に振り返っていこう。

1. 第1スティントの追い上げと、特殊なレース前提

データと共に振り返ると公言した矢先であるが、今回はラップタイムデータだけを見ると却って本質を見誤る。トゥとOvertakeモードによって後方車が非常に有利であったからだ。トゥの効果は、前車の2秒後方にいる状態で0.5秒と絶大であった。

通常のF1レースでは、前方の車にピタリとついていける場合は、後方車の方にペース上の余裕がある場合だ。だが今回は、遅くても前の車のトゥで引っ張ってもらうことで本来のペース以上のペースを発揮でき、Overtakeモードを使って追い抜くことさえできた。だからこそ、フェルスタッペンがラッセルに追いつき追い抜いたのは、フェルスタッペンの方が速かったからではなく、実際にフェルスタッペンが前に出ると、ラッセルがすぐに抜き返す展開になった。

その前提を整理した上で、図1に上位勢のギャップグラフを示す。

図1 上位勢のギャップ推移

アントネッリは、2回のスタートで非常にクレバーにバッテリーを使って、ポジションを上げた。前方でバトルが勃発して彼らがSOC(State of Charge:バッテリー充電状態)を減らしていく中、自身は温存して、仕掛けるべき箇所で効率よく抜き去っていた。

そして赤旗リスタート後のグラフの推移に着目すると、アントネッリはマクラーレン勢やハミルトン、ガスリーらを抜き去りながら、バトルでタイムを失うのではなく、むしろラッセルとの差を縮めて行っている。12周目以降はフェルスタッペンとラッセルのバトルの関係もあって彼らに大きく追いつき、15周目にはラッセルのOvertake圏内に入った。

そして18周目からはラッセルとのヨーヨーレーシングの始まりだ。本来、アントネッリの方が0.4秒ほどペースで上回っていたはずだが、トゥとOvertakeモードの力により、ラッセルを振り切ることはできず、毎周抜きつ抜かれつのバトルになってしまう。

メルセデス勢はこれによるフェルスタッペンの接近を危惧。ラッセルが前、アントネッリが後ろの状態で、順位を固定し、24周目付近から共にフェルスタッペンから逃げることに集中した。

2. VSCでのピットストップ判断

そして28周目。ストロールのストップによってVSCが導入される。ここでアントネッリはピットへ。そしてラッセルはステイアウトを選択した。これはアントネッリに有利に働いたのだろうか?答えはイエスでありノーでもある。

まず、アントネッリとラッセルのペースを把握しよう。図2に両者のレースペースを示す。

図2 アントネッリとラッセルのレースペース

前述の通り、今回のレースは前に車がいれば0.5秒かそれ以上速く走れてしまう状態だった。よって、彼らの真のペースを見るためには、単独走行部分で評価する必要がある。
それは38~44周目だ。アントネッリはピアストリを抜いて、ラッセルとの差は8.3秒から始まり、44周目には4.7秒まで縮まった。その辺りからアントネッリのペースが一気に上がってくるのだ。

この両者単独走行の区間では、アントネッリが0.630秒速い。
あとはレーシングスピード下で21周分古いラッセルのタイヤの不利を計算すれば良い。ラッセルのデグラデーションは約0.012[s/lap]であり、21をかけると0.26秒のタイヤの差があったことが導ける。
よって、タイヤの有利を差し引いてもアントネッリが0.37秒(丸めて0.3~0.4秒)速かったことになる。

0.4秒とするならVSC後の25周で10秒、0.3秒としても7.5秒だ。つまり、実際のレースでのアントネッリの遥か後方でレース終盤を迎えることになり、ラッセル逆転はできない計算だ。

長いホームストレートを持つモンツァはピットストップロスが大きく、通常時で24秒以上、VSC時でも14秒の損失になる。加えて今回はデグラデーションが小さく、新品タイヤのメリットが小さかった中で、VSC時にストップする戦略はレースのトータルタイムの観点で言えば「損」。最初の質問に対する答えは「ノー」だ。

だが、今回のトゥとOvertakeモードの効果という特殊性を見逃してはいけない。
ペースが接近していると、たとえ自分の方が速くても、前に出ると空気抵抗を一手に引き受け、トゥとOvertakeによってスピードを得たライバルに、すぐに抜き返されてしまう。まさに第1スティントでアントネッリとラッセル、ラッセルとフェルスタッペン、ピアストリとハミルトンがやり合ったスーパーヨーヨーゲームだ。

だが、もしアントネッリに速さがあってラッセルに追いつけるならば。VSC時のピットストップでタイヤの差を生み出したのは、非常に良い戦略だった。

あのままピットストップをしなかった場合、アントネッリとラッセルはレース終盤で抜きつ抜かれつのバトルを演じていたことだろう。その場合、勝てたかどうかは純粋なペースよりも、バトルによって決まっていたはずだ。ラッセルもバトルの上手いドライバーであり、勝てたかどうかは五分五分だろう。であるなら、「ペースさえあればほぼ勝てる」戦略の方を選ぶのは理にかなっている。

よってこの観点では、最初の質問に対する答えは「イエス」なのだ。

ちなみに、ここまでの議論は、コンパウンド間のパフォーマンス差は無視して考えている。今回はレース展開やピレリのシミュレーションなどを総合的に見ても、特にどちらかが優れていたとは言えないと考えた。

いずれにせよ、そうして掴んだ大逆転勝利。19番手グリッドからの優勝は、歴史的に見ても快挙である。

スタートドライバーGP
22位ジョン・ワトソン1983 ロングビーチ
19位ビル・ブコビッチ1954 インディ500※
19位K.アントネッリ2026 イタリアGP
18位ルーベンス・バリチェロ2000 ドイツGP
17位ジョン・ワトソン1982 デトロイト
17位キミ・ライコネン2005 日本GP
17位マックス・フェルスタッペン2024 サンパウロGP
16位ジャッキー・スチュワート1973 南アフリカGP
16位ミハエル・シューマッハ1995 ベルギーGP
15位フェルナンド・アロンソ2008 シンガポールGP
14位オリビエ・パニス1996 モナコGP
14位ジェンソン・バトン2006 ハンガリーGP
14位ルイス・ハミルトン2018 ドイツGP
14位マックス・フェルスタッペン2022 ベルギーGP

このように、偉大なチャンピオンたちが並ぶテーブルの上から2番目に位置する。しかも上位勢が崩れたわけでもなく、SCやVSCが有利に働いたわけでもない。開幕当初苦手であったスタートも克服して、ここ数戦はむしろ得意分野になってきており、末恐ろしいとしか言いようのない状況になってきている。

ラッセルとは66点、ハミルトンと76点、スピード面で脅威のノリスとは96点、20歳での最年少チャンピオンへの視界は良好。後半戦もエキサイティングなレースを魅せてくれそうだ。

3. 次戦への展望

次戦は初開催のマドリードだ。市街地コースで、シミュレータの映像を見る限りは安全性に懸念が残る。オランダGP一周目の最終コーナーでフェルスタッペンやボルトレートの車に誰もTボーンクラッシュしなかったのは幸運であったが、クラッシュそのもののインパクトについては評価されていても、バリアに当たったマシンが跳ね返ってくるケースについての評価が甘いのではないか?近年開催されるサーキットを見て、筆者はそのような感覚を抱いている。これが杞憂で終わることを祈りつつ、マドリンクを待つ。


インタラクティブグラフ

ご自身の視点でさらにデータを深掘りしたい方向けに、操作可能なグラフを用意した。

このツールでは、**「ペースグラフ」と「ギャップグラフ」**の二種類が利用でき、ボタン操作で見たいドライバーだけを自由に選んで表示できる。

特にラップタイムグラフには、レース状況を理解しやすくするための工夫が施されている。

  • 塗りつぶしの点:前が空いている状態(クリアエア)でのラップを示す。
  • 白抜きの点:前のマシンの影響下(ダーティエア:前方2秒以内)にあるラップを示す。

この色分けによって、各ドライバーがどのような状況でそのタイムを記録したのかが一目で把握できる。

また、グラフ右上のボタンからは、画像のダウンロードやグラフの拡大・縮小(ズーム)も可能だ。分析の補助として、ぜひご活用いただきたい。

Race Lap Time Interactive Graph

Lap Times

Drivers:

Gap to Leader

Takumi, ピトゥナ