• 2026/8/25 01:17

オランダGPレビュー

複合コーナー、高速コーナー、路面の起伏や独特のバンプ…。F1サーカス後半戦は、唯一無二のチャレンジングなドライバーズサーキットであるザンドフールトで幕を開けた。スリル満点の舞台で行われた伝統の一戦を、今回もデータを交えて振り返っていこう。

1. 王者の貫禄

予選での非常に攻めたスリリングな走りでポールポジションを獲得したノリス。スタートではアントネッリに先行を許してしまったが、そこからのレースは見事であった。

図1にノリスとアントネッリのレースペースを示す。

図1 ノリスとアントネッリのレースペース
(白抜きプロット点は前車と2秒以内)

レース再開後の実質的な第1スティントでは、アントネッリがミディアム、ノリスはソフトタイヤを履いていた。このフェーズでは、ノリスはアントネッリに0.1秒ずつ離され、その差が2.3秒まで開いたところでピットストップを迎えた。

グラフからも明らかな通り、この時点でタイヤを履き替えると2秒近くタイムアップしており、ピットストップの出来次第では2.3秒差はアンダーカットが成功する可能性がある。だからこそアントネッリ陣営としては早めに動く必要があった。また、ノリス陣営としても「アントネッリの逆をやれ」は選択しづらかった。それは4周前にタイヤ交換を済ませたラッセルが1周1秒以上のペース差で迫ってきていたからだ。21周目のピットアウト時の実際のノリスとラッセルのタイム差は3.7秒。あと1周引っ張っても安全圏ではあったかもしれないが、2周引っ張ればリスキーな領域に突入する。特にマクラーレンは、ピットストップで時間がかかるリスクを重めに評価する傾向があるため、ここでたかだか1周のオフセットを作るために、ラッセルに先行されるリスクを拡大する判断をしなかったのは頷ける。

そしてここからレースはノリスの優勢へと移行していく。

第2スティントではノリスが終始アントネッリの背後から追走。これによって、アントネッリ側としてはアンダーカットを防ぐために、早めに動かざるを得なくなった。そうしてクリアエアを得たノリスは41周目から非常に速いラップタイムを連発した。

ちなみに、ここでアントネッリとラッセルを同時に入れたことには意味がある。何故ならば、ラッセルがノリスにアンダーカットのプレッシャーを掛けなければ、ノリスは何周でも引っ張ってアントネッリに対するタイヤのオフセット(履歴の差)を作ることができたからだ。ノリスのピットタイミングはラッセルとのタイム差が十分に脅威となった時点で訪れる。したがってそれを一周でも早めるために、ラッセルをアントネッリの翌周ではなく、一周でも早く入れなければならなかった。

そして結局、アントネッリに対して7周のオフセットを持って第3スティントに挑んだノリス。ピットアウトすると、いきなりアントネッリより1.5秒以上速いペースを刻み、一気に背後に迫った。そして54周目のターン1に向かいながらブレーキバランスを一気に前に寄せ、深いブレーキングでアウトからアントネッリを抜き去った。

この時、アントネッリはハミルトンに対してプレッシャーをかけるべくイン側にマシンを振っていた。これは余計な動きだった。ターン1はアウトからのオーバーテイクが起きやすく、しかも「覗かせる」だけのイン側へのライン変更では、ブレーキングは通常よりも早くなる。これはノリスにとって大きなアタックチャンスとなってしまう。
アントネッリの立場での最適解は、ハミルトンに対して抜きにかかる下準備がしっかりと整うまで、適度な間合いを取ってノリスに隙を与えないことだった。ハミルトンとはタイヤにかなりの差があり、翌周証明したように追い抜きは難しくない状態だった。だからこそ、54周目はじっくり待って、ターン9からの流れで差を詰め、55周目のターン1で仕留めにいくという、アロンソのような強かさが必要な場面だった。

この一瞬の判断ミスを一発でモノにしたノリス。そこからのペースは凄まじく、同じハードタイヤのラッセルを0.7秒上回るペースで逃げ続けた。これは、ラッセルのタイヤが7周古かったことを考慮しても0.4秒の実力差で(タイムが横ばいで、デグラデーションがフューエルエフェクト0.04[s/lap]と釣り合っていたと考え、タイヤの差は0.04×7=0.28秒)、今回のノリスはハードタイヤで非常に競争力があった。

これでノリスは2連勝。何より大きいのは純粋にペースに優れていての勝利であるということだ。この後モンツァや市街地コースなど、異なる条件でもマクラーレンが最速であり続けるならば、アントネッリとの83ポイント差はあって無いようなものだ。さらに今年はピアストリが昨年ほど乗れておらず、チームメイトとのポイントの奪い合いも無いと思われるため、現状ではノリスは二連覇に向けて非常に良い位置につけていると考えて良いはずだ。そしてマクラーレンは、開幕こそ出遅れたが、非常に優秀なエンジニアリング集団であると言えるだろう。

2. 最強アロンソのベストレース

18番手からスタートしながら、終わってみれば9位入賞という並外れた結果を手にしたアロンソのレースも振り返ってみよう。図2にギャップグラフを、図3にアロンソとガスリーのレースペースを示す。

図2 オランダGPギャップグラフ
図3 アロンソ、ガスリーのレースペース

序盤は集団の中で我慢のレース。だがペースは明らかに好調で、10周目からオコンに対して攻勢となっている。前が開けてからは好ペースを維持。この間ライバルのガスリーや角田らはサインツやリンドブラッドといった未ピットイン組に引っかかっており、ここで逃げることができたのは、非常に戦略的に美味しかった。

そして、34周目にピットへ。ヒュルケンベルグとバトルになることは、ガスリーや角田とのタイムレースにおいて損失であるため、ヒュルケンベルグに追いつかれる前に入れた判断は合理的であった。

第2スティントの頭ではアルボンの後方で引っかかってしまったが、これを素早くパスしたのが鍵だった。ターン10でアウト側のラインを取り、アルボンとの間合いを測って一気にトラクションをかけ、シケインに向かう短いストレートで横に並んだ。ここではウィリアムズの方がパワーが出るマネジメントとなっており、一度アルボンが順位をキープするが、その後のホームストレートではアストンマーティンの方が速く、レイトブレーキングでインを刺し、ポジションを上げた。
ここで1秒以上遅いアルボンに引っかかってしまうと、戦略が破綻してしまっていただけに、この動きは今回のキームーブであった。特に、前述の通りガスリーや角田らが、16周のタイヤのアドバンテージがあってもサインツとリンドブラッドを攻略するのに苦戦したことと照らし合わせると、8周のタイヤの差しかないアロンソのアルボンに対するオーバーテイクは傑出したものがある。

その後も安定したタイムを刻んでおり、12周新しいミディアムタイヤ(中古ではあるが)を履いたガスリーのコンマ数秒落ちのペースで走り続け、レース最終盤では追いつかれながらも抑え切った。特にレース終盤のタイムは10周新しいソフトタイヤの角田よりも速いほどで、アストンマーティン&アロンソのパッケージはレースペースで非常に強力だった。

今回は、絶対的なペース面、そしてポジションを勝ち獲る強さの面が揃った素晴らしいレースであったと言えるだろう。アストンマーティンがメルセデスやマクラーレンらと戦う日が楽しみになってきた。

3. 次戦の展望

次戦は超高速モンツァだ。今年最もエネルギーマネジメント上苦しいサーキットの一つと考えられ、随所でヨーヨーゲームが繰り広げられることが予想される。重要なことは、ヨーヨーゲームによって相手にタイムを失わせることができるということだ。メルセデス、フェラーリ、マクラーレンの3チームは、両ドライバーに公平に戦わせると思われるが、レッドブルあたりは、これによってフェルスタッペンを逃がす戦略が視野に入るかもしれない。

特性としてはスパに近く、当時はメルセデスが抜け出し、レッドブル、マクラーレン、フェラーリが互角のスピードを見せていた。それがどう変わるのか?変わらないのか?非常に楽しみな2週間後になりそうだ。

また勢力図の変化も楽しみな所だ。今回大躍進のマクラーレンは、同じく競争力を発揮した鈴鹿と近い特性のトラックで再度速さを見せるのか、メルセデスやフェラーリの逆襲はあるのか、レッドブルは問題の多い車をフェルスタッペンの求めるレベルまで昇華できるのか、そしてアストンマーティンは4強に迫れるのか、見どころは尽きない4週間後になりそうだ。


インタラクティブグラフ

ご自身の視点でさらにデータを深掘りしたい方向けに、操作可能なグラフを用意した。

このツールでは、**「ペースグラフ」と「ギャップグラフ」**の二種類が利用でき、ボタン操作で見たいドライバーだけを自由に選んで表示できる。

特にラップタイムグラフには、レース状況を理解しやすくするための工夫が施されている。

  • 塗りつぶしの点:前が空いている状態(クリアエア)でのラップを示す。
  • 白抜きの点:前のマシンの影響下(ダーティエア:前方2秒以内)にあるラップを示す。

この色分けによって、各ドライバーがどのような状況でそのタイムを記録したのかが一目で把握できる。

また、グラフ右上のボタンからは、画像のダウンロードやグラフの拡大・縮小(ズーム)も可能だ。分析の補助として、ぜひご活用いただきたい。

Race Lap Time Interactive Graph

Lap Times

Drivers:

Gap to Leader

Takumi, ピトゥナ