このページでは、F1初心者から中級者の方々がより楽しく観戦できるよう、TVの解説ではスルーされてしまいがちなF1用語についてまとめた。
「F1を初めて見て全然分からない!」「友達の勧めでF1見始めたけどよく分からない…」「ずっと見てるけどTVの解説の専門用語が分からないなぁ」などの種々の悩みに対して、僅かながらでも手助けになれば幸いだ。
※2022/10/2より五十音順に変更
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アウトラップ:ピットアウトした周回。新品タイヤの効果で速く走れる場合もあれば、タイヤが冷えていて速く走れない場合もある。また、新品に急激に負荷を掛けると、その後の性能劣化が大きくなることがあるので注意が必要だ。(参考:インラップ)
赤旗(レッドフラッグ):レース中断を示す旗。ドライバーはピットに戻りコース上が安全な状態になってからリスタートを行う。リスタートは通常はレーススタートと同じくグリッドについて、スタンディングスタートで行われる。安全上の懸念がある時はセーフティカーのリスタートと同じ手順が採られる。また赤旗中はタイヤ交換、その他にも一部のパーツの交換が可能だ。
アンダーカット:前を走るライバルより先に新品タイヤに履き替えることで速いラップタイムを刻み、その間摩耗したタイヤで走ったライバルがタイヤを履き替えて出てきた際には自分が前に立つ、という戦略。(参考:オーバーカット)
アンダーステア:曲がらなすぎるハンドリング状態。略してアンダーとも言う。
インラップ:ピットに入る周回。タイヤを労わる必要がないため、全力疾走に近い走りをすることもある。一方で古いタイヤを履いているため、時として苦しいラップにもなり得る。(参考:アウトラップ)
VSC: バーチャルセーフティカーの略。コース上が危険な状態であるため、全車が一定の間隔を保ちスロー走行しなければならない。
ウィービング:フォーメーションラップやセーフティカー導入時にタイヤを温めるために行う蛇行運転のこと。「ウェービング」と間違えてしまう人も多いが、これは「手を振る」意味なので注意が必要だ。
エイペックス:コーナーの最もイン側につく部分。通常このエイペックスまで減速し、ここを過ぎると加速に入っていく。「クリップ」とも言う。
SC:セーフティカーの略。
エネマネ:エネルギーマネジメントの略。どこでどの程度ディプロイを効かせ、どこでどの程度ディレートするのか。それによって1周のラップタイムや、ライバルとの駆け引きに大きな影響を与えてくるため、非常に重要な要素だ。
オーバーカット:前を走るライバルより後にタイヤを履き替えて逆転する戦略。頻繁には見られないが、タイヤが温まりにくいコンディションで新品タイヤに履き替えたライバルが1,2周ペースを上げられない場合などに起こりうる。路面の摩擦係数が低い市街地やストレートの多いモンツァなどが代表的なトラックだ。(参考:アンダーカット)
オーバーシュート:ブレーキングで突っ込みすぎてコーナー進入でラインが膨らんでしまったり、コースアウトしてしまったりすること。
オーバーステア:曲がりすぎるハンドリング状態。スピンしやすい。略してオーバーとも言う。
オーバーテイク:追い抜き。「パスする」「交わす」などとも表現する。
オシレーション:振動のこと。主に共振のことを指すことが多い。共振のメカニズムについては当記事では割愛する。
オフライン:レコードライン(一般的に最も速いライン)から外れたライン。普段誰も通らないところなのでゴミが多く、タイヤに付着するとグリップが落ちてしまう。
オンボード映像:車載映像。F1では音はエンジンやギアボックス付近などにマイクが取り付けられ別ドリ。
崖:タイヤが摩耗して性能が急激に落ちること。英語ではクリフ(cliff)と言う。
黄旗(イエローフラッグ):コース上に危険がある時、その区間で振られる旗。ドライバーは速度を落とさなくてはならない。また追い越しは禁止となる。イエロー区間の終了はグリーンフラッグを振ることで示され、そこからは通常のレースに戻って良い。
クリーンエア:前に誰もいない状態。「クリアエア」とも言う。F1マシンの性能はダウンフォースに依存している。したがって高速で走るマシンの後ろにできる乱気流の中では本来の性能を発揮しきれず、前のマシンにある程度接近すると本来自分の方が速くてもそれ以上近づけなくなる。そうした乱気流の影響を受けている状態をダーティエアという。多くのサーキットでは2秒以内に近づくと明確にダーティエアの影響を受け始めるのが一般的だ。
クリップ:「エイペックス」を参照のこと。
グレイニング:ささくれ摩耗。正常摩耗がタイヤの表面が発熱によって溶けていくのに対し、グレイニングはタイヤが冷えた状態で負荷がかかることで消しゴムのように削り取られてしまう現象を指す。これによりグリップが落ちてペースダウンする。スローペースで走っていると回復してくることもある。
クロスライン:オーバーテイクの技術の一つ。コーナーで前方のドライバーがインをブロックした際には、アウトから入り、旋回半径が小さくなって出口が厳しくなった前方のドライバーを、コーナーの立ち上がりでイン側に回り込んで、鋭い加速で抜くこの技術が有効だ。
黒白旗:ブラック&ホワイトフラッグとも言う。いわゆるサッカーのイエローカードのような警告旗で、同じ行為を次に行うとペナルティの対象になる。
コンストラクション:タイヤの内部構造のこと。
コンパウンド:タイヤのトレッド部(表面のゴムの部分)の素材のこと。一般的には、これが柔らかいほど一発のグリップには優れるが劣化が大きい。そして硬いほど一発のグリップには劣るが長持ちする。コンディション次第で例外もあるため注意が必要だ。ピレリは1シーズンにC1~C5の5種類のコンパウンドを用意し、その中から各レースに適した3種類を持ち込んでいる。そして硬い方からハード・ミディアム・ソフトとしている。
サイドウォール:タイヤの側面部分。
サイドバイサイド:横並びの状態のこと。
サチる:何かが頭打ちになること。例えばウェットレースで路面が乾いてくるとタイムが上がってくるが、ある程度の所からは頭打ちになって上がらなくなる。Saturate(飽和する)が語源となっている。
ステイアウト:ピットに入らないこと。
スティント:ピットストップからピットストップまで。もしくはスタートから最初のピットストップや、最後のストップからチェッカーまで。スタートから最初のストップまでを第1スティント、1回目から2回目を第2スティント・・・と呼ぶ。
スナッピー:リアタイヤが突然滑りオーバーステアが出る現象。ドライバーの予想外の急激な動きのためスピンにつながることが多い。現象が出た時に「スナップした」のように用いることもある。
スリップストリーム:高速で走るF1マシンの後方は気圧が低くなる。この空間は空気抵抗が少ないため、ストレートスピードが伸びる。よってストレートで相手の真後ろに入り、このスリップストリームを利用して速度を上げて抜くのがセオリーだ。「スリップ」と略称したり「トゥ」と表現する場合もある。
セクター:サーキット1周は3つのセクターに分けられており区間タイムの計測などを行う。
ソック(SOC):State of Chargeの略。すなわち「どれだけ充電されているか」の状態。
ダーティエア:クリーンエアの項目でまとめて解説
タービュランス:乱気流のこと。高速で走るF1マシンの後方には気流の乱れが生じる。ライバルの後方を走るとスリップストリームでストレートは速くなるが、このタービュランスによってコーナーでは不安定になってしまう。これが近代のF1でオーバーテイクが難しい最大の理由だ。2022年のレギュレーション変更でかなり改善された。
タイヤマネジメント:タイヤを労って走ること。現在のピレリタイヤは、温度が数℃変わるだけで反応が変わってくるので、ドライバーとエンジニアの連携による高度な技術が求められる。基本的にはタイヤマネジメントが上手いドライバーやチームが勝者となりチャンピオンとなることが多く、最も重要な能力と考える人も多いだろう。
ダウンフォース:F1マシンは高速で当たる空気の力をさまざまな空力パーツによって下向きの力に変える。これにより短時間のブレーキングで減速し、高速でコーナリングし、エンジンパワーを路面に伝えることができる。
ダブルイエローフラッグ:黄旗が2本振られている状態。コース上にマシンが止まっていたり、マーシャルが作業中など、著しく危険な状況で振られ、ドライバーはすぐに停止できるよう徐行しなければならない。
ダミーグリッド:レコノサンスラップから戻ってきて停めるグリッドは、正式にはスターティンググリッドではなくダミーグリッドと呼ばれる。実質同じ場所だが、ダミーグリッドについてから、何らかのトラブルでグリッドが変わることもあるため、正式な「スターティンググリッド」とは区別されている。
DRS:前車と1.000秒以内にいると使えるオーバーテイク促進システム。DRSゾーンのみ使用ができる。通常1箇所か2箇所に設定される。その少し手前に設定された検知ポイントでタイム差を計測するので、後ろのドライバーにとっては例えサーキットの他の部分で離されようともそこで1.000秒以内に入れるようにすることが重要で、そのためにエネルギーマネジメントを調整する(「ターン15で近づきたいからターン1〜7で充電してターン8〜14で放出しよう」など)。前のドライバーはその逆を考え、裏をかいた奇襲に出る戦術なども考えられる。
DRSトレイン:集団の中で皆がDRSを使っている状態。例えば集団の中で前のドライバーの1秒以内にいればそのドライバーはDRSを使えるが、前のドライバーもその前のドライバーの1秒以内にいればDRSを使える。互いにDRSを使い合っている2番手と3番手のドライバーの間での順位の変動は非常に起こりにくく、DRSトレインの最前から3番目以降となってしまった場合は非常に厳しい戦いが予想される。
ディプロイメント:現代のF1はハイブリッドとなっており、エンジンだけでなくモーター(電気)のパワーも利用して走っている。このモーターの駆動をディプロイメントと呼ぶ。日本語ではディプロイと略したり、「ディプロイ(メント)が効いている」などと表現したりする。
ディレート:ディプロイメントが効かなくなること。モーターのエネルギーは常に全放出できるわけではなく、ディプロイメントを切ったり、充電しながら走る必要がある。
テールトゥノーズ:前後に非常に接近している様子。前方のマシンのテール(リア)と後方のマシンのノーズ(フロント)がくっつきそうという意味。
デグラデーション:タイヤの性能劣化。1周あたり〜秒という表現が多い。柔らかいタイヤほど一発の性能にひ秀でる反面、デグラデーションが大きくなりやすい。また、使い方次第である程度コントロールできる。よって、タイヤ選択と使い方は戦略の要と言っても差し支えないだろう。略称はデグラ、デグなど。
デブリ:破片のこと。クラッシュしたマシンから落ちたパーツがコース上に落ちていることがあり、デブリと呼ばれる。踏むとマシンやタイヤにダメージを与える危険な存在であるため、撤去するためにセーフティカーやVSCが導入されることが多い。
デルタ:差、変化量のこと。例えば「ソフトタイヤとミディアムタイヤのデルタ」は2種類のタイヤのタイム差、セーフティカーやVSC導入時であればFIAが定めたスロー走行の基準タイムとの差など、様々な場面で使われる。
トゥ:「スリップストリーム」を参照のこと。
ドライバビリティ:ドライブしやすさ。ドライバーは視覚・聴覚だけでなくステアリングやお尻など身体全体で路面から感じとる情報を頼りにマシンやタイヤの限界を見つけ出す。ドライバビリティが低いと限界まで攻めるのが難しくなるので、予選一発やレースでの勝負どころで不利になる。
ドラッグ:空気抵抗のこと。ダウンフォースを増やすと基本的には空気抵抗が増えてしまう。そのため、如何に空気抵抗の増加を抑えつつ効率良くダウンフォースを生み出すかが、マシン設計の重要課題となってくる。ドラッグの大きなマシン特性のことはドラッギーと表現する。
トラックエボリューション:路面コンディションの改善のこと。予選で使われることが多い。路面コンディションはマシンが走ることで改善していくため、予選開始直後と終了間際では、通常後者の方が圧倒的にタイムが出やすいからだ。チームは「(1回目のアタックから2回目への)トラックエボリューションが1.0秒で、今ライバルと0.8秒差だから、次もアタックしないと逆転される。」のように判断する。
トラックポジション:コース上の見た目の順位の事。例えば、長期的には不利になるタイミングでのピットストップで「とりあえず目先の順位で相手の前に出る」戦略もある。こう言う場合に「トラックポジション重視」などと呼んだりする。
トラックリミット:コースをはみ出してはいけない範囲。コース外を走行することによってアドバンテージを得ることを禁ずるために設けられている。2022年のレースディレクターは頑なに「4輪が白線を超えたら違反」とし、議論の余地を設けない主義となっており、賛否両論が存在する。予選でトラックリミット違反があればタイム抹消、決勝では「〜回違反すると審議」などの措置が取られる。
トラフィック:渋滞。ライバルたちがいて、自分の本来のペースを発揮できない状態を言う。おおよそ前方2秒以内にマシンがいると本来のマシンの空力的性能を発揮できない。
トレイン:電車のこと。F1ではペースの遅い車の後ろに何台も連なっている様子のことを電車に見立ててこう呼ぶことが多い。「レーシングスクール」などとも呼ばれる。
ニュートラルステア:ちょうど良いハンドリング状態。これらはドライバーの主観であり、フェルスタッペンのようなオーバーステア好きの人にとってアンダーステアと感じても、そのマシンに他の人が乗るとオーバーステアと感じることもある。またコーナー侵入時にアンダーステアが出ると、脱出時にはオーバーステアになっていたりするため、一口に「〜ステア!」と言っても本質的には千差万別である。(参考:アンダーステア、オーバーステア)
パーマネントサーキット:レース開催のためだけのサーキット。市街地や公園の一部を使ったサーキットのようにグランプリ期間中だけサーキットとして機能するもの以外の全てのサーキットと考えて良いだろう。
パルクフェルメ:現在のF1では予選と決勝を同じセッティングで走らなければならない。そのため、予選から決勝の間はマシンに変更を加えられないようFIAの管理下に置かれる。これをパルクフェルメルールと呼ぶ。
ピーキー:神経質な様。大抵はマシンやタイヤの特性を表現する際に使われる。
ピットストップウィンドウ:ピットストップをしても前に留まれるライバルとのタイム差。留まれる場合はウィンドウ外、差が小さく後ろになってしまう場合はウィンドウ内と言う。
フォーメーションラップ:スタートする前に行われるラップのこと。通常は1周。この時各車は、加減速や蛇行を繰り返し、タイヤやブレーキに熱を入れる。フォーメーションラップが終わると各車グリッドに着き、レッドシグナルが5つ点灯、これが消えるとレーススタートとなる。
ブロックライン:抜かれないためにコーナー侵入時にインを抑えるライン。小回りすることになるため、出口が厳しくなり次のストレートやコーナーで抜かれるリスクもある。
フューエルエフェクト:燃料搭載量がラップタイムに及ぼす影響。燃料が重くなることでより大きな慣性力(加速しない、止まれない)が働き、コーナリング時も遠心力が大きくなり曲がれなくなる。それによって落ちるラップタイムへの影響を1周あたりで[s/lap]としたり、単位質量あたりで[s/kg]、あるいは単位体積あたりで[s/l]としたりする。
フラットスポット:ブレーキングでロックしてしまった時に、その部分だけ削り取られて平たくなってしまうことがある。この箇所をフラットスポットと呼ぶ。
プランF:ファステストラップ狙いで、終盤にピットに入りタイヤを履き替えること。正式な名称ではないが、フェラーリがこの作戦名を用いたことが話題となり、一般的に親しまれて使われている。ただし、単にA, B, C, D, Eに次ぐ6番目の戦略として使われることもある。
フロントリミテッド:フロントタイヤに厳しいサーキット特性。フロントタイヤの性能劣化や摩耗によって、ラップタイムやピットストップタイミングが制限されてしまう状態。(参考:リアリミテッド)
ブリスター:タイヤの温度が上昇しすぎ、タイヤの表面に気泡ができている状態。タイヤの接地面積が減るため通常グリップが落ちる。ただしブリスターのできる場所によってはグリップがさほど落ちない場合もある。
ベストオブザレスト:トップチーム以外での最上位。Restとは「残り」の意味。近年トップチームが大きく抜け出し、中段チームとの差が大きくまるで2つの別クラスのレースのようであることからこうした呼ばれ方がされるようになった。
ポーパシング(ポーポシング):2022年から顕著になったマシンの振動現象。グランドエフェクトカーになった事で、床下を流れる空気の圧力低下を利用して大きなダウンフォースを得るようになった。しかし速度が上がりダウンフォースが大きくなると、車高が下がり、床下に空気が流れなくなる。これによりマシンは浮き上がってしまう。そして浮き上がれば空気が入ってくるため、マシンは再び押さえつけられる。このループを繰り返す現象がポーパシングだ。
ボックス:ピットに入ること。チームからの「ボックス、ボックス」の指示は「ピットインせよ」の意味。Pitより聞き取りやすいBoxを使用している。
マーブル:タイヤカスのこと。各車が通るレコードライン上には無く、オフライン上にある。これに乗るとタイヤに付着しグリップが低下してしまう。レース後半マーブルが増えてきた際は、レコードラインを外さないようにする必要が出てくるので注意が必要だ。
メカニカルグリップ:サスペンションやタイヤなど空力以外で得るグリップ。
リアリミテッド:リアタイヤに厳しいサーキット特性。リアタイヤの性能劣化や摩耗によって、ラップタイムやピットストップタイミングが制限されてしまう状態。(参考:フロントリミテッド)
リフト&コースト:ストレートの終わりでアクセルを緩めて惰性で走行すること。これにより燃費を稼ぐことができる。またフロントタイヤへの負荷を減らすこともできるため、タイヤやブレーキを労わる上でも有効だ。
レースクラフト:レースの組み立てのこと。
レースコントロール:運営。審判のような役割。
レコードライン:一般的に最も速いライン。
レコノサンスラップ:フォーメーションラップ開始時刻の40分前にピット出口がオープンとなると、各車は続々とピットアウト。1周回ってきてホームストレート上の自身のグリッドへとマシンを停める。この回ってくるラップがレコノサンスラップだ。この1周でマシンや路面の状態を確かめる。特に雨のレースの際はどこに水があり、どこがグリップするのかを確かめる上で非常に重要で、ドライバーの観察力や発想力が試されるラップだ。因みにレコノサンスラップを終えてもグリッドに着かず、ピットレーンを通過して2周目、3周目とレコノサンスラップを重ねることもある。確認事項が多いときには有効な方法だ。
ローンチ:マシンの発進のこと。また一般的にLaunchは「開始、スタート」の意味であるため、新車の初走行の際にも使われる。