初開催のマドリンク。蓋を開けてみると、ミスなく走り切るだけでも非常に難しいチャレンジングなトラックであった。今回もデータを交えながら週末を振り返ってみよう。

1. 予選から圧倒的だったノリス
予選で0.011秒差でポールポジションを獲得したノリス。しかし実際の力の差は非常に大きかった。図1にノリスとアントネッリのテレメトリデータを示す。

(data: GP Tempo)
ノリスは最終コーナーで0.3秒相当のミスをしている。スピードやブレーキングのタイミングを見る限り特別突っ込みすぎにも見えないが、最適なコーナリングではなかった。これが無ければ0.3秒という大差をつけてのポールポジションを獲得していたことになる。
ちなみに、両者のエネマネの違いもなかなか面白い。アントネッリはアタックラップに入る前の最終コーナーから全力で立ち上がって来ず、そこでセーブした分のパワーをターン1までの加速で使っている。またターン5へ向かう全開区間ではノリスの方が多くデプロイし、ターン7手前ではノリスがスーパークリッピングを行っている。このような、1周のエネマネの考え方の違いも、今年のF1の面白さだ。
2. レースペースでも完全支配
図2にノリス、アントネッリ、フェルスタッペンのレースペースを示す。

第1スティントでアントネッリがクリアエアを得た4周目以降(アントネッリにミスがあった6周目は除く)で見ると、ノリスはアントネッリより平均0.166秒速い。
また、ハードタイヤの第2スティントでもノリスのペースは素晴らしかった。
ノリスとフェルスタッペンが共にクリアエアで走っている17〜24周目と29〜40周目(30,32,37周目は除く)で見ると、ノリスはフェルスタッペンを0.563秒上回っている。
一方で、アントネッリが自由に走れたのは、ルクレールがいなくなってからの49〜53周目であり、ここではアントネッリがフェルスタッペンを0.476秒上回る。
よって、フェルスタッペンを介した間接的な比較で、ノリスはアントネッリを0.1秒ほど上回っていることになり、予選一発、ミディアムでのロング、ハードでのロング、全てにおいて完全制圧した。
予選一発での0.3秒差は、最後にミスをしてしまうほどのアグレッシブさによってもたらされたとも言えるため、今回のノリスのアントネッリに対するアドバンテージは予選・決勝を通して0.1~0.2秒程度であったと解釈できる。そこまで大きな差ではないものの、ハンガリー、オランダ、そして今回スペインと、予選・決勝ともに常に0.1〜0.3秒の差をつけて最速であり続けていることは、チャンピオン争いにおいて非常に重要な意味がある。
モンツァでの競争力の無さから、アゼルバイジャンやシンガポールなどで苦戦することは予想できるが、それ以外では全て勝ってもおかしくはない。現在アントネッリとノリスのポイント差は106。残りレースは(中東2戦がイモラ1戦になる前提で)8戦。アントネッリとしてはアゼルバイジャンとシンガポールで前でフィニッシュすれば、あとはどうにかなる差ではあるが、少なくともラッセルやハミルトンよりもノリスが最大の脅威になってきていることは間違いない。
3. 不運だけでもないノリスの敗因
そんなノリスの今回の敗因は、ストロールのストップによって14周目に導入されたVSCだ。アントネッリに6秒の差をつけていたノリスは、VSC導入時点でピットの入り口をもう過ぎてしまっていた。対して6秒後方のアントネッリはまだピット入り口の手前におり、VSC導入を確認してピットへ入ることができた。
これは確かに不運ではある。だが、筆者がマクラーレンの戦略を担当していたなら、少なくとも違う指示を出していた。
それは14周目のセクター3をスローに走り、アントネッリとのタイム差を1秒程度に縮めることだ。
そうすれば、ノリスがピット入り口を通過してからアントネッリがそこへ到達するまでの「リスクの時間」を減らすことができる。これにより、VSC導入時点でノリスだけがピット入り口を通過してしまっている可能性は大幅に小さくなる。
もちろん、VSCが結局出なければ、せっかく築いた6秒のリードを自ら捨てることになる。そして、1秒以内まで近づければ、アントネッリにOvertake Modeを使う機会も与えてしまう。
しかし、今回は事情が違う。
まずは首位独走状態であり、誰かとタイムレースをしていたわけでもない。
そして、マドリンクはオーバーテイクが非常に難しく、Overtakeモードを使われたところで大した脅威ではない。
つまり、この場面でノリスが数秒のリードを失うことによるリスクは比較的小さかった。
VSCが出なければ、そのまま首位を走り続け、必要なら再びギャップを広げればいい。一方でこの戦略を採らずにVSCが出た場合には、実際に起きたように、後続だけが格安でピットストップを済ませてノリスの前へ出るという、はるかに大きな損失を被る可能性があった。
言い換えれば、
「VSCが出なかった時に失う数秒」と、「VSCが出た時に失うトラックポジション」の価値がまったく釣り合っていなかったのである。
もちろん、ノリスとアントネッリがピット入り口を通過した後、フェルスタッペンの通過前にVSCが導入される可能性はある。だが、少なくともメインのライバルであるアントネッリを同じ戦略かつ自身の後ろに置くことはできる。そしてフェルスタッペン以下については上位勢はハードスタート組しかおらず、最悪でも2位だったはずなのだ。
よって、今回の敗戦を単なる不運だけで片付けてしまっては学びがない。マクラーレンは「極めて優秀なエンジニアリング集団」という印象で、レッドブルのような「勝負師」のイメージはない。マクラーレンがあの手この手を使って勝利をもぎ獲りに行けるようになると、非常に手強くなるだろう。
4. マドリンクはどうだった?
初開催となったマドリンク。非常にテクニカルで、フェルスタッペンを以てしても、背後にノリスがいる状況で終盤にミスをしてしまうほどの難易度であった。アントネッリやノリスらを見ても、予選・決勝を通じて何度かミスをしており、ハミルトンは予選でクラッシュを喫した。ラ・モニュメンタル(ターン12)も、当初は全開で行けてしまう「実質ストレート」になるのでは無いかと考えられたが、実際には予選でも全開で行くのは難しいチャレンジングなコーナーであった。
よって、ドライバーの腕が問われる難しいサーキットであることは評価できる。
また安全性については、完璧とは言えないものの、懸念していたほど悪くはなかった。
ターン11や12(ラ・モニュメンタル)、14、15や18、19のような高速コーナーでは、ランオフエリアが無い代わりに、インディカーのオーバルで使用されるようなSAFERバリアが設置されていた。ランオフエリアが無いほうが、クラッシュする時の角度が浅くなるという利点がある。さらにこのSAFERバリアは鋼鉄と発泡スチロールによって衝撃を吸収しつつ、マシンを壁沿いに滑らせてくれる。200km/hから急激に止まるようなクラッシュは危険だが、SAFERバリアはその逆へ持っていこうという考え方だ。
ランオフがないことによって後続車が突っ込む危険性も懸念点ではあったが、やはりSAFERによって、クラッシュしたマシンが急には止まらないため、後続車としては減速する余地がある。ただしターン15は見通しが悪く、改善が必要かもしれない。
またラ・モニュメンタルの直後のターン13は、出口でバリアがせり出してくる危険な設計だ。立ち上がりでスナップが出てカウンターを当てた際にお釣りが来たらどうなるかと考えると、かなり深刻である。ここは改善が必要であるというのが筆者の見解だ。
また、オーバーテイクの難しさに関しては、筆者の考えは「このぐらい難しいサーキットがあっても良い」である。
実際にオーバーテイク数が少なかったことを、サーキットのオーバーテイク難易度と結びつけてはならない。抜きやすいトラックでも全車同じ競争力で、同じタイヤ戦略ならオーバーテイクはゼロになるだろう。今回オーバーテイクが少なかったのは、VSCによって各車の戦略が画一化されたこと、そしてハードタイヤのデグラデーションが非常に小さかったこと、ピットレーンが長くマルチストップで状況を打開するインセンティブが生まれにくかったことなども関係している。
ローソンがコラピントをパスしたように、2秒のペース差があれば追い抜きは可能なサーキットだ。これはモナコよりマシな数字であり、あとはそれだけのタイヤオフセットを作りやすい柔らかいコンパウンド選択と、短いピットレーンさえあれば、悪くない舞台だというのが筆者の考えである。
昨今はヨーヨーレーシングと言われるように、エネマネの重要度が高いレースで、オーバーテイクが急増している。だからこそ
- 抜けないなら距離を取る
- (前車がミスをしないと抜けないので)ミスを誘発するべく工夫する
- 普通のトラックなら抜かれてしまうような無理なタイヤ戦略で前に居座る
などのような、最近では見られなくなってしまった「技」の数々が見られるチャンスが生まれる。F1は、オーバーテイクの多さを崇める新興宗教ではない。1992年のモナコ、2005,06年のサンマリノを思い出せば明白である。抜けるサーキットには抜けるサーキットのドラマが、抜けないサーキットには抜けないサーキットのドラマが生まれるのだ。
インタラクティブグラフ
ご自身の視点でさらにデータを深掘りしたい方向けに、操作可能なグラフを用意した。
このツールでは、**「ペースグラフ」と「ギャップグラフ」**の二種類が利用でき、ボタン操作で見たいドライバーだけを自由に選んで表示できる。
特にラップタイムグラフには、レース状況を理解しやすくするための工夫が施されている。
- 塗りつぶしの点:前が空いている状態(クリアエア)でのラップを示す。
- 白抜きの点:前のマシンの影響下(ダーティエア:前方2秒以内)にあるラップを示す。
この色分けによって、各ドライバーがどのような状況でそのタイムを記録したのかが一目で把握できる。
また、グラフ右上のボタンからは、画像のダウンロードやグラフの拡大・縮小(ズーム)も可能だ。分析の補助として、ぜひご活用いただきたい。
Takumi, ピトゥナ
