• 2026/5/27 03:46

カナダGPレビュー

ラッセルとアントネッリが何度も順位を入れ替え、ハミルトンとフェルスタッペンもスティントをまたいで攻防を続けた白熱のカナダGP。ストップ&ゴーのモントリオールでは、Overtakeモードが追走車に武器を与え、ラッセルが「カート時代のよう」と評する激戦が繰り広げられた。
本稿では、カナダGPで見えた新レギュレーションの光と影、そしてメルセデスの圧倒的な強さを、ラップタイムデータから振り返っていく。


1. 新レギュレーションはバトル時代の幕開けか?

1.1. モントリオールで展開された白熱のバトル

今回のレースでは、ラッセルvsアントネッリ、ハミルトンvsフェルスタッペン、ルクレールvsハジャーなど、接近したバトルが見られた。これらに共通していたのは、抜かれた側がそのまま離されていくのではなく、一秒以内にぶら下がり続け、抜き返すチャンスを狙い続けたことだ。実際にラッセルとアントネッリは何度も激しく順位を入れ替え、ハミルトンは9周目にフェルスタッペンに抜かれた後も、コースオフするまで食らいついた。そして第2スティントでは一転、ハミルトンがフェルスタッペンを交わしたが、フェルスタッペンがチェッカーフラッグまでハミルトンを追い回し、最後まで白熱のバトルを演じた。

この背景には、今年のマシンでモントリオールを走る上では、前車の1秒以内でOvertakeモードを得ると、単独走行時のペースより速く走ることができるということがある。

図1にハミルトンとフェルスタッペンのレースペースを示す。

図1 ハミルトンとフェルスタッペンのレースペース
(塗りつぶしデータ点がクリアエア、白抜きがダーティエア)

62周目にハミルトンに交わされたフェルスタッペンだったが、その後は65,66,68周目にそれまでの自己ベストを大きく更新している。一方でハミルトンは、フェルスタッペンを交わす前に自己ベストを出し、クリアエアを得てからそれを更新することは無かった。

今年のレギュレーションには批判点も多いが、モントリオールに関しては非常に良いレースを支えていた。
Overtakeモードでは、指定ポイントで前車の「1秒以内」にピタリとつけた追走車にのみ、次のラップで「+0.5MJの追加回生余地」が与えられる。鈴鹿のような「エネルギー不足」かつ後方乱気流の影響の大きなトラックでは、0.5MJの回生が認められたところで、実際にタイムを失わずに回生するのはなかなか大変だろう。そして中高速コーナー群で距離をあけられ、すぐに1秒圏外へと追い出されてしまう。だが、モントリオールのようなストップ&ゴーのトラックでは、ブレーキングでたっぷり回生できるため、0.5MJの「美味しさ」が効いてくる。そして、回り込むコーナーも中高速コーナーが無く、後方乱気流によって離されることも起きにくい。

加えて、今年の車とタイヤのパッケージは、前車を追走し続けることができる点も大きい。昨年までなら数周のうちに仕留められなければタイヤが限界を迎えてしまって、2秒ほど後方に下がるしかなかった。だが、今年は、モントリオールに限らず、1秒以内を追走してオーバーテイクを試み続ける場面が主流だ。これもバトルを促進している重要な要素である。

1.2. 新レギュレーションの光と影

また、「追走車にアドバンテージを与える人為的な仕組みはDRS時代と変わらない」とも言えるが、ここには反論も可能だ。DRS時代には、指定されたストレートで追走車のストレートスピードを伸ばすことで「追い抜きそのものに神の手を授ける」ようなものだった。しかし、現在のOvertakeモードは、追走車に+0.5MJの回生を許すこと、そして290km/h以上でパワーが落ちない選択肢を与えることにより、「車に速く走れるポテンシャルを与える」というアプローチだ。前者はボタン一つで自動的にスピードアップすることができたが、後者は回生やデプロイを上手くやらなければ、与えられた武器を最大化できない。

そして今回のレースを見て明らかだったもう一つの事実は、「Overtakeモードは前車に食らいつくのには役に立つが、抜くのは難しい」ことである。DRS時代はストレートに入る時点のデルタが0.5秒であることを確認した時点で、オーバーテイクは確定も同然だった。だが、今回のレースでは、ヘアピンを0.3秒差程度で立ち上がらなければ、最終シケインで勝負に持ち込むのは厳しかった。つまり、接近状態で後方乱気流に耐えコーナーで接近して上手く立ち上がった者しか、オーバーテイクを成功させられない。これはDRS時代よりもオーバーテイクの価値を高めていると言えるだろう。

また、「結局人工的に作られたオーバーテイクではないか」という批判もあるが、ここにも反論が可能だ。F1では後方乱気流の影響が大きく、カートのようなバトルはしにくくなっていた。速い車を作ろうとした時の最適解が空力の追求で、その結果として後方乱気流が生まれてしまうのは、宇宙の物理法則ゆえの不可避の事実だ。だからこそ「自然によって作られた追走車の不利」を「人工的に作られた追走車の有利」でバランスする。これは悪いことだろうか?

物理法則を自在に弄れない限り、どんなレギュレーションにも光と影がある。ラッセルは今回のアントネッリとのバトルについて「カート時代に戻ったようで、何度もトップを入れ替える楽しい戦いだった」と語った。一方でフェルスタッペンのように、よりピュアなレースを求める声も大きい。勝っているアントネッリでさえ、「システムがどう作動するかによって、時々ちょっとイラッとさせられることはある」と認めている。今回のレースを見る限り、現在の方向性が根本的に間違いとは言い切れない。来年には、内燃機関と電気の比率が60:40になる見通しで、「やりすぎてしまった部分」の最適化が行われていく。これによって、「自然なレース」「カートのようなバトル」「オーバーテイクの価値の維持」「ドライバーの個性の出やすさ」などの多要素を高次元で両立させることができるか、注目したい。


2. メルセデス圧勝

先に行ったレースペース分析では、図2の結論を得た。

図2 カナダGPレースペース

第1スティントではアントネッリとラッセルがバトル状態だったため、互いにタイムをロス。また第2スティントではアントネッリが独走状態で、ある程度リスクをコントロールして走っていたと思われるが、タイヤや燃料の条件、レースの文脈を踏まえると、メルセデス勢のスピードは圧巻であった。マイアミではノリスがアントネッリに迫る速さを見せ、開幕当初の優位に翳りが見えたかと思われたが、今回は再度突き放した。

図3,4は今季ここまでの予選とレースでの上位チームとメルセデスの差だ。

図3 予選でのメルセデスとのペース差
図4 レースでのメルセデスとのペース差

メルセデスとフェラーリはレースペースで極めて安定しているが、マクラーレンとレッドブルは波が激しい。また予選では、フェラーリもメルボルンと鈴鹿でパフォーマンスが芳しくない。ちなみにどちらも高速コーナーの多いフロントリミテッドのトラックだ。
これらのデータからも、メルセデスは単に速いだけでなく「どこでも速い」ことがわかる。

今回のマクラーレン勢の苦戦は、低温下でのウォームアップに苦しんだことが原因であり、やや特殊なケースとして扱うべきかもしれない点は留意しておこう。しかし裏を返せば、フェルスタッペンを始め、多くのドライバーがタイヤの冷えに苦戦したレースでも、メルセデスは失速しなかった。5戦を見る限り、ウィンドウの広い車で、今後もあらゆるタイプのトラックで強さを発揮する可能性が高い。

昨年のレッドブルの例があるため、早計なことは言えないが、このままアントネッリとラッセルの一騎打ちになる可能性は非常に高い。その中で、現在はアントネッリが43点のリードを築いているが、ペース分析的観点でも、最有力はアントネッリだ。
図5に両者の予選、レースペースの比較を示す。

図5 アントネッリとラッセルの予選・レースペース比較

ここまで、メルボルンの予選を除き、「アントネッリが勝つ時は大差、ラッセルが勝つ時は僅差」という傾向が見られる。これはチャンピオンクラスのドライバーが速いチームメイトと組んだ時に見られるものだ。今後両者とも幸運と不運の波を経験し続けるであろうが、最終的にはペースを有する者がタイトルを獲得する可能性が高い。アントネッリにとっては、現在の週末ごとの安定性を継続していくことが最年少チャンピオンへの鍵となるだろう。逆にラッセルにとっては、これ以上大差をつけられる週末を繰り返さないことが、逆転タイトルへの条件となる。


3. 次戦への展望

次戦は伝統のモナコGPだ。エネルギー的には非常に楽なトラックで、話題沸騰の電気不足の問題が話題にならない唯一の週末になるかもしれない。レース中のMGU-Kの出力は「主要な加速区間」では350kW、その他の区間では250kWに制限されているが、モナコでは「主要な加速区間」は非常に限定されるだろう。それをストレートモード区間と同義とするならば、噂によればモナコではストレートモード区間は無いため、もしそうなるとすれば、全区間で250kWのデプロイになるかもしれない。こうなると一層オーバーテイクは難しくなるが、今年の追従しやすく小型になった車で何ができるか、楽しみでもある。

メルセデスの優位が崩れるとすればこの特殊なトラックだ。母国凱旋のルクレールにチャンスが来るのか、フェルスタッペンが2023年の再現を見せるのか、予選を得意とするハジャーが強みを活かすのか。非常に楽しみな6月第一週になりそうだ。


インタラクティブグラフ

 ご自身の視点でさらにデータを深掘りしたい方向けに、操作可能なグラフを用意した。

 このツールでは、**「ペースグラフ」と「ギャップグラフ」**の二種類が利用でき、ボタン操作で見たいドライバーだけを自由に選んで表示できる。

 特にラップタイムグラフには、レース状況を理解しやすくするための工夫が施されている。

  • 塗りつぶしの点:前が空いている状態(クリアエア)でのラップを示す。
  • 白抜きの点:前のマシンの影響下(ダーティエア:前方2秒以内)にあるラップを示す。

 この色分けによって、各ドライバーがどのような状況でそのタイムを記録したのかが一目で把握できる。

 また、グラフ右上のボタンからは、画像のダウンロードやグラフの拡大・縮小(ズーム)も可能だ。分析の補助として、ぜひご活用いただきたい。

Race Lap Time Interactive Graph

Lap Times

Drivers:

Gap to Leader

Takumi, ピトゥナ